7月10日、Jeff Geerlingが「QuadRF can spot drones and see WiFi through my wall」と題した記事を公開した。$499のフェーズドアレイ無線機「QuadRF」を実際に試用し、壁越しのWiFi可視化やドローン追跡を検証した体験をまとめたものだ。
カメラ越しに見た風景の上に、壁を透過したWiFi電波がカラーの光塊として浮かび上がる——そんなSF的な体験が、Raspberry Pi 5を中核に据えた民生デバイスで現実になった。フェーズドアレイによる信号の方向探知はもともと軍事・航空レーダー分野の技術だが、RTL-SDRに代表される低価格SDR(ソフトウェア無線)の普及によって民間利用が広がりつつある。QuadRFはその最前線に位置するデバイスだ。
WiFiが壁を透過して「見える」
QuadRFは、Raspberry Pi 5とFPGAボードを組み合わせたフェーズドアレイ無線機だ。複数アンテナ素子の位相を制御して特定方向の信号を強調するビームフォーミングを実現し、動作周波数帯は4.9〜6 GHz——5 GHz帯WiFiやDJIのドローン制御信号をカバーする帯域だ。
最大の見どころが、付属のAR(拡張現実)RF可視化ソフトウェアだ。Raspberry Pi 5が立ち上げるWiFiホットスポットに接続してブラウザからARビジュアライザを起動すると、カメラ映像の上にRF信号がカラーの「ブロブ(塊)」として重畳表示される。
Geerlingが自宅スタジオで試したところ、自分の5 GHz WiFi(チャンネル100、約5.5 GHz)は水色、近隣の別のネットワークは赤や緑で表示された。壁越しでも信号を拾える点が、このデバイスの核心だ。

UIはまだ荒削りで、カメラとフェーズドアレイのアライメント調整や受信ゲイン設定も手動操作が必要だ。それでも動作の確かさについて、Geerlingは率直な驚きを記している。
ドローンを空中で捕捉
GeerlingはRF工学経験を持つ父親とともに、スタジオ裏でDJI Mini Pro 4を飛ばして実験した。QuadRFはドローンを空中から問題なく検出した。ドローンが遠ざかるにつれてゲインを手動で上げる必要があり、この操作が煩雑だった点も正直に記している。AGC(自動ゲイン制御)や、持ち歩きながら扱いやすいゲインコントロールの改善を期待しているとのことだ。

Raspberry Pi 5のMIPIラインを5 Gbps超のSDRストリームに転用
技術的に面白いのが、Raspberry Pi 5のカメラ・ディスプレイ用MIPIコネクタをSDRのI/Q(同相・直交)データ転送に流用している設計だ。MIPIはもともとカメラセンサーや映像出力のために設計された高速シリアルインタフェースだが、QuadRF公式ドキュメントにはこう記されている:
MIPIはRP1チップを通じて5 Gbps超の低遅延・全二重データ転送が可能。USBより単純かつ信頼性が高く、ハードウェアコストもほぼゼロ。数百MSPSのI/Qをサンプル欠落なしで処理できる。カメラや映像伝送のための規格が、SDRにも最適なマッチングであることは理にかなっている。
この設計の副産物として、PCIeコネクタが空きのまま残る。高速ストレージや追加ネットワークカードを接続できる余地が生まれる点で、拡張性も確保されている。また、複数のQuadRFモジュールをデイジーチェーン接続する設計になっており、各モジュールが自律的に位相シフトを計算することで大規模アレイを構成できる仕組みだ。
開発者の背景と、月面規模のビジョン
QuadRFを開発したMartin McCormickは、SpaceXでStarlinkのユーザー端末「Dishy」開発チームに在籍していた人物だ。GeerlingはHackadayの記事でQuadRFの存在を知り、Martinと直接連絡を取って試作機を入手した。
Martinが目指す上位プロジェクトは、EME(地球-月-地球間通信)や電波天文学に使える月面規模のアンテナアレイだ。複数モジュールを連結した場合の最大EIRP(等価等方放射電力)は1.15 MWを想定している。ハンドヘルドサイズのQuadRF単体では月に信号を届ける出力はないが、モジュール連結による大規模化というアーキテクチャは、今のローカルSDR用途にも直結する設計思想だ。
価格と現状
Crowd Supplyでのベーシックキットは**$499**。バッテリーパックとスマートフォンマウントが付属するモバイル拡張パックを追加すれば、街中を歩きながらCバンドの一部をリアルタイム分析できる。クラウドファンディングはすでに目標を超えており、筐体は現在の3Dプリント品から射出成形品に切り替わる予定だ。
量産前の試作機ゆえUIの荒削りさは否めないが、Raspberry Pi 5上でここまでの信号処理を実現したことは、フェーズドアレイ技術が民生品レベルに届いたことを示す一例だ。
詳細はQuadRF can spot drones and see WiFi through my wallを参照していただきたい。