機能を実装するだけなら、AIで一瞬でできてしまう──そんな時代に、エンジニアの価値はどこにあるのか。AIによって仕事の前提が大きく変わりつつある今、採用・評価する企業側は、エンジニアの何を見ているのだろうか。
今回お話を伺ったコンサルティングファームの株式会社Arcobaleno取締役 前田修宏氏は、エンジニア出身でありながら、受託・自社開発の現場、開発とコンサル、起業と会社のバイアウト、そして経営までを横断してきた、幅広い知見の持ち主だ。コードを「作る」側と、人を採用し事業をつくる側の双方を見てきた立場から、AI時代のエンジニアに本当に必要なものを提示してもらった。
エンジニアから経営まで
Q. まず、これまでのご経歴を簡単に教えていただけますか?
新卒で大手ITコンサルに入ったのですが、開発がやりたくて1年半で退職し、独立しました。友人と立ち上げた会社が不動産テック企業に買収される形で事業会社に移り、2020年ごろまで受託・自社開発の現場にいました。その後はスタートアップへの参画や受託開発を経て、コンサル時代の同期が立ち上げたArcobalenoに参画しています。いまはエンジニアでありつつ、新規事業や経営まわりまで幅広く担っています。コードを「作る」側だけでなく、人を採用し、事業をつくる側まで一通り経験してきた、という形です。
AIで激変する、「エンジニアに振られる仕事」
Q. AIによって、エンジニアへの需要や仕事はどのように変わってきているとお感じですか?
本当に大きく変わってきていると感じています。きっかけは、ここ1年──特にClaude Codeのようなツールの精度が飛躍的に伸びたあたりです。それまではチャットで答えを返してくれるだけだったものが、実際に手を動かして作業してくれる“エージェンティック”なものに変わりました。プログラムを書いてファイルに出力し、テストスクリプトまで自動で書く、といったことができるようになり、エンジニアの生産性が大きく変わりました。採る側・発注する側から見ても、エンジニアに任せたい仕事の中身が明らかに変わってきています。
Q. 非エンジニアの方にも、影響は及んでいるのでしょうか?
そうですね。今年に入って、非エンジニアでもAIにパソコンの操作を任せられるようなツールが登場し、「このように書いたらアプリができた」という体験が一般の方にもできるようになりました。これまで「自分たちは作れないからエンジニアに発注していた」という方々が、「AIに頼めば作れるのではないか」と気づいたわけです。そうして一度は「エンジニアは本当に必要なのか」という議論が起こります。
Q. エンジニアは要らなくなってしまうのでしょうか?
完全に要らなくなることはない、と思っています。ただ、仕事の中身は確実に変わります。発注する側も「AIでここまでできる」と知ったため、「とりあえずエンジニアに投げて作ってもらう」という形ではなくなります。
リーダーからチケットを渡されて、言われた通りにコードを書くだけ──そうした仕事はAIに置き換えられていきます。採る立場からしても、そこだけを担ってきた方には、仕事を任せづらくなっていくと思います。
仕事はむしろ“外側”へ移っていきます。「そもそも何を作りたいのか」「狙うターゲットは誰か」を一緒に整理する前段の工程や、公開後に攻撃からどう守るかというセキュリティの検討、ホスティングプランや保守運用の設計まで、サービス全体を見渡して支えられる人に、仕事は集まっていくはずです。
採る側が見るのは「人の話を聞ける力」と「技術への真摯さ」
Q. 採用やエンジニアの評価では、どのような点をご覧になっていますか?
企業が正社員として採用する際は、観点が二つあります。「今この人が何をできるか」と、「今後どう成長し、どんなスキルを獲得していけそうか」という見通しです。一方、即戦力として外部に依頼する場合は、今ある課題を解消できることが前提となるため、できなければ話になりません。正社員はもう少し長い目で見られる、という違いがあります。
いずれにせよ、採る側としてエンジニアに最低限求めるのは、当たり前に聞こえるかもしれませんが「人の話を聞けること」です。
Q. なぜ「話を聞ける力」なのでしょうか?
先ほど申し上げた“外側”の仕事──AIが登場しても無くならない仕事──を担うには、相手が「こうしたい」という思いや願いを聞き、整理してあげる必要があるからです。「それなら、こういう問題が出ませんか」ときちんと聞き、論理的に考えて整理できる。ここが最も大きいところです。経験は仕事を重ねれば積めますが、この“一本の芯”がないと厳しいのです。
あとは、円滑にコミュニケーションが取れることです。採る側からすると、同じ能力であれば、無愛想な方より、明るく話を聞いてくれる方に頼みたいですよね。
これらの根っこにあるのは「人に興味を持っているか」だと思います。あなたに興味があります、話を聞かせてください、というスタンスが取れていれば、相手にも伝わりますし、必要なことも引き出せます。
Q. 技術面では、いかがでしょうか?
今の時代ですので、まず「AIの勉強はしていますよね」と思います。エンジニアである以上、新しい技術は日進月歩で出てきますから、常に追いかける必要があります。極端に言えば、土日に「新しい言語が出たので少し触ってみよう」と思えるくらい、技術そのものにアンテナを張って動いている方が、本来のエンジニアだと思うのです。
その根っこには「技術に真摯に向き合っている」「技術が好き」という姿勢があります。採る側としても、それがスキルシートに表れるのが「きちんとAIに触れています」という部分なのだろう、と見ています。
Q. 「AIを使っている」とアピールする方も増えていそうですが、いかがでしょうか?
そこは注意が必要です。Google検索でもAIの要約が出る時代ですので、「AIを使っているように見せるだけ」の方も少なくありません。採る側からすると、「使っています」「どのようなことを?」「今は少しお見せできないのですが…」というやり取りでは、本当に使っているのか判断できません。
本当に使っているのであれば、お見せできるものがあるはずです。たとえば「このXのアカウントは、情報収集から画像生成、投稿まで全て自動化しているんです」と、実際にお示しできると思います。そうやって“やっていること”を可視化・提示できることが、これからは重要になってきます。
というのも、「Claudeを使えばここまでできます」という、実際にはできないのにできるかのような投稿で見込み客を集め、面談2万円といった情報商材に誘導する──そうしたものも増えているのです。だからこそ、自分の手でアウトプットを作っておくことが、技術力の証明と信頼につながると思います。
エンジニアは「技術の窓口」。車のディーラーに学ぶプロ意識
Q. これからのエンジニアの役割を、どのように捉えていらっしゃいますか?
昔、一緒に仕事をしていた、小学生の頃からプログラムを書き、大学も情報系に進んだような、本当に技術が好きな人間がいました。彼が言っていた言葉が、強く印象に残っています。
彼は「エンジニアは、車のディーラーの営業と同じだ」と言っていました。車を買った後にエンジンがかからなければ、お客さまはディーラーの営業担当に電話しますよね。営業担当は本来エンジニアではありませんが、「私には分からないので技術者を呼びます」とだけ答えるようでは、「次はもうこの店で買わない」となってしまいます。
エンジニアも同じで、お客さまからすると、エンジニアは“パソコンの専門家”であり“技術の窓口”です。「ITのことで相談したい」と言われた時に、専門外であっても受け止め、解決の道筋を示せなければいけません。採る側としても、そうした振る舞いができる方かどうかは、実はよく見ているところです。
Q. 周辺領域も学んでおくべき、ということでしょうか?
そうです。たとえば「オンラインで広告を打ちたい」と言われたら、デジタルマーケティングを実務でやったことがなくても、一通りどのようなものかを自分で学び、話せるようにしておくべきだと考えています。少なくとも「自分はやったことはありませんが、流れはこうだと思います。詳しい知人がいるのでお繋ぎします」と言えるくらいにはなっておきたいものです。「言われた物だけ作っていればよい時代はもう終わった。そこまでできなければエンジニア失格だ」と、彼は言っていました。
AIが登場し、エンジニアの仕事の中身が外からも“透けて見える”ようになった今だからこそ、ここをきちんとやらなければいけないと思っています。
増え続けるITフリーランスだからこそ、問われる“当事者意識”
Q. ここまでは多くのエンジニアに共通するお話かと思います。一方で、コロナ以降に増え、いまも増え続けているフリーランスについては、採る側としてどうご覧になっていますか?
フリーランス、つまり一人親方でやるということは、本来「自分一人の会社を経営していく」という観点を持たねばならないはずです。資金を集める、経費を考える、仕事を取るために営業する──会社として成り立たせるために行うことがたくさんあります。
ですが採る側・評価する側として見ていますと、派遣的なサービスに登録して仕事を紹介してもらい、与えられた仕事を一生懸命こなして、終わればまた次を紹介してもらう──会社員時代に上司から仕事を振ってもらっていた状態を、そのままフリーランスで続けているだけ、という方も少なくない印象です。仕事がある程度回っていると「営業担当が見つけてくれるから仕事に困らない」というある種の成功体験ができてしまい、危機感が薄くなりやすいのです。AIで状況が変わっている今は、なおさら影響を受けやすいところだと思います。
Q. うまくやっているフリーランスには、どのような共通点があるのでしょうか?
起業もそうですが、うまくいく方は大きく二つのパターンだと思っています。一つは「人に使われたくない」という強い自立心をお持ちの方、もう一つは「これがやりたい」という明確な目的をお持ちの方です。どちらも“事業を立ち上げる”という感覚を持っています。守ってくれる組織がないぶん、自分でアンテナを立て、いまの状況を客観視して、事業として向き合う覚悟をお持ちです。そうした方には、こちらとしても安心してお任せできます。
Q. ご自身を見つめ直すきっかけにもなりそうですね。
そうですね。鍵になるのは、強い自立心があるか、事業としてやりたいことがあるか、という点だと思います。それがある方は、そのまま続けていけばよいと思います。逆に、税金面のメリットなど目先のお金に惹かれて何となく続けているだけであれば、一度ご自身のキャリアを見直してみるのも選択肢の一つだと思います。正解は一つではありませんので、まずは自分の現在地を正しく捉えることが大切だと思います。
最後に ── キャリアに悩むエンジニアへ
Q. 最後に、キャリアに悩むエンジニアの方へ、メッセージをお願いできますか?
AIで仕事の中身が変わっていく中では、技術に真摯に向き合い続けること、そして“作る”の外側──人の話を聞き、整理し、サービス全体を見渡す力──を磨いていくことが、これからの分かれ目になると思います。
フリーランスであれ会社員であれ、共通して大切なのは、いま自分が置かれている状況を客観視し、当事者として動けるかどうかです。受け身で待つのではなく、自分でアンテナを立てて学び続ける。採る側から見ても、それができる方は、働き方がどのような形であっても、これからも必要とされ続けるはずです。
前田さん経歴
京都大学大学院卒業。
大手コンサルティングファームに入社後、友人と独立起業。日本最大手の不動産投信情報ポータル運営企業に買収。同企業のコアメンバーとして経営〜システム現場のマネジメントまで幅広く行う。
その後、WEB系開発会社の取締役兼開発者として事業立ち上げも経験。コーディングもマネジメントも出来るエンジニア。
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