7月8日、Mike Vizardが「Block Details Builderbot Framework for Orchestrating AI Agents Across SDLC」と題した記事を公開した。Jack DorseyがCEOを務めるBlock社が、AIエージェントを使って週1,500件のプルリクエストを自動マージし、本番SDLCの**15%**をすでにAIが担うという実績は、多くの企業がエージェントの「実験」段階にとどまる中で一線を画す。
週1,500件のPRをAIが自動マージ——Blockの「Builderbot」とは何か
BlockはSquare(POSシステム)、Cash App(個人向け送金・決済)、Tidal(音楽ストリーミング)などを傘下に持つフィンテック企業だ。そのエンジニアリングチームが開発したのが、Builderbotと呼ばれるAIエージェント・オーケストレーション層である。
現在Builderbotは1日20万オペレーション超を実行し、週約1,500件のプルリクエストをマージしている。これはBlock全体のプロダクションコード変更の**約15%**に相当する数字だ。単なる実験的取り組みではなく、すでに本番のSDLCに深く組み込まれている。
gooseをベースにした設計
Builderbotの基盤となっているのは、Blockが開発してオープンソースとして公開している**gooseというエージェントフレームワークだ。gooseはLinux Foundation傘下のAgentic AI Foundation(AAIF)**にも提供されている(AAIFはLinux Foundationが2025年に設立した、自律型AIエージェント開発の標準化・推進を目的とするファウンデーションである)。
Builderbotはこのgooseをオーケストレーション実装として拡張したもので、数百万行に及ぶコードベース全体——すべてのサービス、API、規約——を文脈として理解した上で動作する。単一ツールの置き換えではなく、開発ライフサイクル全体を横断するオーケストレーション層として機能している点が特徴だ。
Slackから話しかけるだけで動く
インターフェースとして採用しているのがSlackだ。開発者は作業内容を短いテキストでBuilderbotにタグ付けするだけでよい。処理はSlackスレッド内で完結するため、ツール間のコンテキストスイッチが不要になる。
具体的にBuilderbotが自律的に行うタスクは以下の通りだ:
- LinearまたはJiraからチケットを取得
- ブランチを作成してコードを記述
- プルリクエストをオープン
- CIワークフローを監視
- 開発者のフィードバックを受けて反復修正
操作対象はソースコードとシステム設定のみに限定されており、顧客データ・決済情報・個人情報へはアクセスしない設計になっている。フィンテック企業としてのコンプライアンス要件を踏まえたスコープ設計といえる。
モデルは複数を使い分け、エージェント同士が相互レビュー
BlockのデータおよびML担当プリンシパルエンジニアのBradley Axenによると、現在はAnthropicとOpenAIの複数モデルを併用しており、タスクの内容とコスト・パフォーマンスのトレードオフに応じてエージェントが使用モデルを自律的に選択する。
さらに特徴的なのが、エージェント間に「敵対的な関係」を意図的に設定している点だ。あるエージェントがコードを書き、別のエージェントがそれをレビュー・最適化してからデプロイするという構造を取る。これにより自己強化的なワークフローが成立している、とAxenは説明している。
次の課題として同氏が挙げているのは、複数プロジェクト・複数チームをまたいだエージェント間コラボレーションの実現だ。現時点では単一プロジェクト・単一チーム内での自律化が主体であり、組織横断的な協調動作の確立が次のフェーズとなる。
「人員削減と引き換え」という文脈
Blockがこの取り組みを推進している背景として、Jack DorseyがAI活用を前提に開発者数を絞る方針を打ち出していることが挙げられる。Builderbotによる自動化は、少ない人員でSquareプラットフォームの開発・デプロイ・更新を加速するための手段として機能している。
AIエージェントの導入が経営判断と直結している点は、他の多くの事例と異なる。開発効率の改善という技術的動機だけでなく、組織規模の最適化という経営的文脈がBuilderbotの普及を後押ししている構図だ。
オープンソースとして他チームへの普及を図る
Blockはgooseオーケストレーションフレームワークの拡張手法を公開する形で、他のエンジニアリングチームによる採用・コントリビューションを促している。gooseのリポジトリはGitHub上で公開されており、外部からのコントリビューションも受け付けている。
AIエージェントをSDLCに組み込む手法は組織ごとに成熟度が大きく異なる。ただし、「導入するかどうか」ではなく「いつ、どこまで深く組み込むか」が問われる段階に来ている、というのが記事の立場だ。Blockの事例は、本番運用における具体的な数字と設計判断を公開した数少ない実例として参照価値が高い。
詳細はBlock Details Builderbot Framework for Orchestrating AI Agents Across SDLCを参照していただきたい。