7月7日、Techstrong.aiが「KPMG: Enterprise AI Spending Climbs as ROI Remains Elusive」と題した記事を公開した。KPMGの最新調査をもとに、エンタープライズAI投資が拡大する一方でROIの証明が依然として困難な実態を詳しく紹介している。生成AIブームが始まって数年が経過し、業界全体が「投資の正当化」を問われる最初の本格的な反省フェーズに突入している今、この調査結果が持つ意味は重い。
Gartnerは「2026年までにエンタープライズ向け生成AIモデルの80%以上が放棄される」と予測しており、McKinseyのグローバル調査でもAIから「実質的なビジネス価値を得ている」と答える企業は依然として少数派にとどまると報告している。KPMGの今回のレポートは、そうした「AI幻滅期」論と軌を一にするデータを大規模サンプルで裏付けるものだ。
投資は増えているのに、ROIを示せる企業は7%
KPMGが発表した「Global AI Pulse: Q2 2026」レポートは、年商5,000万ドル以上の組織に所属する20か国・2,000人超のシニアビジネスリーダーを対象とした調査だ。
結果のポイントは単純かつ厳しい。AIへの平均投資額は1億8,800万ドルで横ばいを維持し、戦略的優先事項として位置づけている組織は74%から**79%に増加した。ところが、測定可能なROIを確立できているのはわずか7%**にとどまる。
さらに、投資対効果として期待されていた数字も軒並み悪化している。
- 生産性向上を報告した組織:42% → 35%
- 意思決定速度の改善:41% → 36%
- コスト削減効果:31% → 29%
一方、AIを「日常業務の一部」と位置づける組織は13%から**22%**に急増しており、前四半期比で過去最大の伸びを記録した。現場への浸透は進んでいるが、財務的な裏付けが追いついていないという構図だ。
コスト構造を把握できていない組織が多数派
ROI不透明の背景にあるのが、AIコストの可視化不足だ。
AIベンダー各社が採用する従量課金モデル——AIが処理するテキストや入出力データの量(トークン)や、自律的にタスクをこなすAIエージェントの利用量に応じて課金される仕組み——は、従来のライセンス型と異なり、使い方次第でコストが予測しにくい構造を持つ。結果として、運用コストの把握が組織にとって新たな課題となっている。レポートによれば:
- AIの運用コストを完全に把握できている組織:35%
- 部分的にしか把握できていない:42%
- コスト構造や価格モデルの理解が乏しいと認めた組織:約3分の1
この不透明さは実際の意思決定にも影響している。49%の組織が、コストが期待値を超えたとしてAIプロジェクトを縮小または延期したと回答。また22%は、最先端モデルではなく低コストモデルを優先する方向に舵を切りつつあると答えた。
コスト管理に取り組んでいる組織との差も明確だ。AIコスト監視ダッシュボードを導入し、承認プロセスにコストレビューを組み込んでいる組織は、そうでない組織と比較してROI達成の確率が5倍高いという結果が出ている。
CEOが責任を持つ組織は、ROI確立率が約4倍
もう一つの重要な変数が、経営トップのアカウンタビリティだ。
現状、AIの成果責任がCEOに明確に帰属している組織は**24%**のみ。29%は「経営チーム全体で責任を共有」と答えており、責任の所在が曖昧な組織が多い。
ところが、CEOが直接責任を持つ組織では、AI戦略への自信が高く、ビジネス価値を報告する割合も有意に高かった。そして、ROIを確立している確率は、責任の所在が不明確な組織の約4倍に達する。
「誰が最終責任者か」を決めるという、一見地味な組織設計の問題が、ROI達成に直結しているという示唆だ。
人材育成とワークフォース対応も急務
技術面・コスト面と並んで、ワークフォースの準備状況も重要な変数として浮上している。人間とAIの協働(ヒューマン・イン・ザ・ループ型の業務設計)を実施している組織は60%から**71%に増加しており、現場レベルでのAI統合が加速していることを示している。また48%**の組織が、AI活用の底上げを目的とした従業員スキルアップ投資を積極的に進めていると回答した。
ROIを確立している組織に共通するのは、コスト可視化・経営責任の明確化に加え、現場人材のAIリテラシー向上を三位一体で推進している点だ。技術導入だけが先行し、使いこなす側の育成が遅れている組織では、ツールの潜在価値を引き出せないまま投資対効果が薄れるという悪循環に陥りやすい。
エンタープライズAIは「使っているか否か」の段階を超え、「いくら使っていくら返ってきているか」を問われるフェーズに入った。コスト可視化の仕組み、経営責任の明確化、そして人材育成——この3点が、ROI格差を生む主要因としてデータで裏付けられた形だ。
詳細はKPMG: Enterprise AI Spending Climbs as ROI Remains Elusiveを参照していただきたい。