7月8日、Harold Frittsが「TensorWave Raises $350M Series B at $1.55B Valuation to Grow Its AMD Instinct AI Cloud」と題した記事を公開した。この記事では、AMDベースのAIクラウドインフラを展開するTensorWaveが3億5000万ドル(約530億円)のシリーズB資金調達を完了し、評価額が15億5000万ドルに達したことについて詳しく紹介されている。
NVIDIAの代替として台頭するAMDクラウド専業プレイヤー
AI推論・学習クラウドの市場はNVIDIA製GPUを前提とした垂直統合型プラットフォームが支配的だが、その対抗軸としてTensorWaveが存在感を高めている。同社はAMDのInstinctシリーズGPUに特化したAIクラウドインフラを提供するスタートアップで、2026年6月10日に発表されたシリーズBラウンドにはAMD自身の投資部門であるAMD Venturesが共同リードとして参加している点が象徴的だ。
ラウンドの共同リードはMagnetar CapitalとAMD Ventures。Magnetar Capitalはクオンツ戦略を中心に据えたオルタナティブ資産運用会社であり、近年はデータセンターやAIインフラ関連への直接投資を積極化させている機関投資家だ。単純なスタートアップ投資ではなく、長期的なインフラ資産としての価値を見込んだ参加とみるのが自然である。既存投資家のMaverick Silicon、Nexus Venture Partners、Western Frontierも引き続き参加した。
現在の規模と次の一手
TensorWaveは2025年5月のシリーズA調達以降、インフラを急速に拡張してきた。現時点での主要スペックは以下のとおりだ:
- AMD Instinct MI325X GPUを8,192基搭載したAI学習クラスターを運用中(北米最大規模のAMD AIデプロイメントの一つ)
- 長期データセンター容量として2GW以上を確保済み
今回調達した資金は、次世代のAMD Instinct MI355X(MI325Xの後継)を用いたGPUクラスターの展開に充てられる。MI355Xはメモリ集約型AIワークロードに最適化されており、LLM(大規模言語モデル)の学習、高スループット推論、生成AIアプリケーションをターゲットとする。展開先は北米の新規データセンターロケーションを予定している。
すでにFireworks AIやLuma AIといったAI開発企業が、本番推論や大規模生成AIワークロードにTensorWaveのインフラを利用している。
「エコシステムのロックイン」への問題提起
CEO兼共同創業者のDarrick Hortonは資金調達に際して次のように述べている:
「AIの次のフェーズは、実験から本番へ移行するための十分なコンピュートにアクセスできるかどうかで決まる。モデルが大型化し、ワークロードの要求が高まる中、企業は単一のエコシステムにロックインされることなくスケールできる、メモリ容量・性能・柔軟性を備えたインフラを必要としている。」
「単一エコシステムへのロックイン」という表現が指すのが事実上NVIDIAであることは明白だ。NVIDIAのGPU向けに最適化された独自並列コンピューティングプラットフォームであるCUDAは、AIフレームワークや研究コードの大半がCUDAを前提として書かれているため、他ハードウェアへの移行にはコードの書き直しや動作検証といったコストが伴う。この「CUDAの壁」こそが、NVIDIA製GPU以外への乗り換えを阻む最大の障壁として長らく指摘されてきた。
TensorWaveはこの課題に対し、AMDが提供するオープンなGPUコンピューティングプラットフォームROCm(Radeon Open Compute)ソフトウェアスタック上での運用を前提として打ち出している。ROCmはHIPと呼ばれるCUDA互換APIを含んでおり、CUDAコードをAMD GPU向けに移植する際の障壁を下げることを目的として開発されてきた。PyTorchやJAXなど主要なAIフレームワークのROCm対応も進んでおり、「AMD GPUではまともに動かない」という状況は以前と比べ大きく改善されつつある。TensorWaveが「ロックイン脱却」を訴求点として打ち出せる背景には、こうしたソフトウェアエコシステムの成熟がある。
採用・拠点拡張も並行
インフラ投資と並行して、ラスベガスに置く本社の体制強化も進める。エンジニアリング、インフラ、オペレーション、セールス、カスタマーサクセスの各分野で採用を計画しており、プラットフォームの成長と顧客デプロイメントの拡大に対応する。
AI推論クラウド市場におけるAMD陣営の本格的な競争参入を示す今回の調達は、インフラ選定の選択肢が広がるという意味でエンジニアにとっても無関係ではない動向だ。
詳細はTensorWave Raises $350M Series B at $1.55B Valuation to Grow Its AMD Instinct AI Cloudを参照していただきたい。