7月7日、Crunchbaseが「North American Startup Funding Shattered Records In First Half Of 2026, Driven By AI」と題した記事を公開した。AIへの巨大投資が牽引し、2026年上半期の北米スタートアップ資金調達額が史上最高の3,920億ドルを記録したというものだ。しかし数字の裏には逆説的な構造がある。ディール件数は直近数年の最高水準を大きく下回っており、Anthropicへの650億ドルという単一企業への超集中投資が記録を押し上げている実態がある。
2026年上半期、北米スタートアップ資金調達が過去最高を更新
Crunchbaseのデータによれば、2026年上半期における米国・カナダのスタートアップへの投資総額は3,920億ドル(1ドル≒150円換算で約588兆円)に達した。これは過去のいかなる半期とも比較にならない規模だ。
Q1(1〜3月)はOpenAIへの史上最大のベンチャーラウンドで記録を塗り替え、Q2(4〜6月)は1,372億ドルと、Q1を除けば歴代最高の四半期となった。
重要な点として、この記録はディール件数の増加によるものではない。件数は直近数年の最高水準を大きく下回っており、少数の超大型ラウンドが数字を押し上げている構図だ。資本の集中が際立っている。
AnthropicがQ2の半分近くを占める650億ドル調達
レイターステージ(Series C以降)への投資はQ2で約1,010億ドルに達し、歴代2位の水準だ。
その中心にいるのがAnthropicだ。同社はQ2に合計650億ドルを調達し、ポストマネー評価額は9,650億ドル(約1兆ドル)に迫る水準となった。Q2の投資総額1,372億ドルに対してAnthropicだけで約47%を占める計算であり、いかに資本が一点集中しているかが分かる。内訳は以下の通り:
- 500億ドル:Altimeter Capital、Dragoneer、Greenoaks、Sequoia Capital主導のラウンド(5月)
- 50億ドル:Amazon出資
- 100億ドル:Google出資
AnthropicはさらにIPOに向けた機密申請を6月に行っている。
防衛テック企業Anduril Industriesも、Thrive CapitalとAndreessen Horowitz主導で50億ドルのSeries H調達を完了した。
アーリーステージも活況、120億ドルの「物理AI」スタートアップが登場
アーリーステージ(Series A・B)の投資額はQ2に310億ドル超と、3年以上ぶりの高水準を記録した。前年同期比ほぼ2倍、前四半期比で約15%増だ。
この数字を一社で40%以上押し上げたのが、物理AIを手がけるスタートアップPrometheusへの120億ドルの調達だ。Amazonの創業者Jeff Bezosが共同創業者に名を連ねる。物理AI(Physical AI)とは、デジタル空間にとどまらずロボットや自律型機械など現実世界の物理環境で動作するAIシステムを指す概念であり、製造・物流・建設などへの応用が期待されている。なお、元記事ではPrometheusへのこの120億ドル調達をアーリーステージ(Series A・B相当)として分類しているが、この金額規模はアーリーステージとしては極めて異例であり、Prometheusの戦略的な位置づけや投資家の将来期待の高さを反映していると見られる。
残りの大型案件は以下の通り:
- Hark(パーソナライズドインテリジェンスのAIスタートアップ):7億ドル
- Flourish(人間の脳を模したAIシステム):5億ドル
- Generalist AI(AIロボティクス):4億ドル
投資の80%がAI関連
ステージを問わず、Q2の投資の約80%がAIに分類されるスタートアップへ流れた。AI分野の投資総額は前年同期比で約3倍に達する。前四半期(OpenAIへの1,220億ドル超が含まれるQ1)からは下回るものの、Anthropic、Prometheus、Andurilの3社だけでQ2のAI投資の大半を占めている。
シード投資はQ2に約49億ドルと、前四半期比15%減、前年比27%減に落ち込んだ。ただし、シードラウンドはクローズから数週間〜数ヶ月後にデータベースへ追加されるケースが多く、実際の数字は今後上方修正される見込みだ。
IPOとM&Aも史上最大規模
IPO面では、SpaceXが6月に750億ドルを調達し、史上最大のIPOを達成した。現在の時価総額は約2.1兆ドルで、米国の上場企業として6番目の規模だ。AI向けチップ設計のCerebras Systemsも5月に56億ドルのIPOを実施、量子コンピュータのQuantinuumやモジュール型原子炉開発のX-energyも上場した。
M&A面では、SpaceX(IPO後)によるAIコーディングツール「Cursor」とその親会社Anysphereの600億ドルの買収が史上最大のスタートアップM&A案件となった。SpaceXは4月に購入オプションを発表し、自身のIPO完了後に取引を成立させている。つまりSpaceXはこの件では買収の「主体」であり、IPOを経た後に買い手としてスタートアップM&Aを実行した格好だ。
その他の主要案件:
- Eli Lillyによる遺伝子治療スタートアップKelonia Therapeutics買収:最大70億ドル
- QualcommによるAIチップスタートアップModular買収:40億ドル
- SalesforceによるAI顧客対応ツールのFin買収
先例のない領域へ
記事はこの状況を「前例のない領域(Uncharted territory)」と表現している。これほどの巨大ラウンド、これほど高い評価額でのIPO、これほど大規模なスタートアップ買収が同時期に起きたことは過去にない。
AnthropicとOpenAIはいずれも評価額1兆ドル前後でのIPOを視野に入れており、10億ドル超の調達ラウンドはもはや例外ではなくなっている。
詳細はNorth American Startup Funding Shattered Records In First Half Of 2026, Driven By AIを参照していただきたい。