7月8日、Ars Technicaが「Facing US export controls, China's DeepSeek plans to make its own chips」と題した記事を公開した。米国の輸出規制を受けた中国のAIスタートアップDeepSeekが、独自のAIチップ開発に乗り出していることを、複数の関係者の証言をもとに報じている。
DeepSeekが独自チップ開発へ、約1年前から動いていた
Reutersが事情に詳しい3人の関係者の話として伝えたところによると、DeepSeekは約1年前からチップ事業への参入を検討・準備してきた。ハードウェアおよびシリコン分野のパートナー候補との面談を重ね、プロジェクト向けのエンジニア採用も進めている。
開発の焦点は推論(inference)向けのデータセンターチップであり、学習(training)用ではない。推論チップとは、すでに訓練済みのモデルを実際にユーザーへ返答させる際に使われるチップのことで、サービス運用コストに直結する領域だ。目的は明確で、NvidiaとHuawei双方への依存を減らすことにある。
なぜ今なのか——輸出規制が生んだ構造的問題
北米・欧州のAI企業にとってNvidiaはデファクトのチップサプライヤーだが、米国の輸出禁止措置により、NvidiaはH100などの高性能GPUを中国に販売できない。その空白を埋めているのがHuaweiで、現在中国のデータセンターチップ市場の約半分を握っている。
DeepSeekがこの状況に危機感を持つのは当然だ。HuaweiのAscendチップはNvidia製品と比べて性能・エコシステムの両面で見劣りする部分があり、かつ単一ベンダーへの依存はリスクでもある。独自チップを持つことで、調達・コスト・性能の三点において自律性を確保しようとしている。同じ動きはDeepSeekに限らない。AlibabaやBaiduといった中国テック大手も同様のチップ開発に動いている。
米国側でも起きているチップ内製化の動き
チップの内製化は中国勢だけの話ではない。ただし、その動機は文脈ごとに大きく異なる点に注意が必要だ。
DeepSeekの場合、あくまで輸出規制という外部制約への対応が主たる動機であり、調達可能なチップの選択肢が極めて限られている状況下での措置だ。一方、米国側のAI企業は規制による制約なくNvidia製品を調達できる立場にありながら、それでも内製化を進めている。
OpenAIはBroadcomと共同で、大規模推論向けの独自チップ「Jalapeño」を数週間前に発表したばかりだ(関連記事)。OpenAIの場合、Nvidia依存の低減という側面に加え、Appleのようにハードウェアからソフトウェアまでスタック全体を自社でコントロールしたいという戦略的意図が背景にある。AIモデルのスケールアップが続く中、複数社がコンピュートを奪い合う状況では、シリコンとデータセンターのレイヤーを押さえることが競争優位に直結するからだ。
つまり、両者はともに「推論チップの内製化」という方向性を向いているが、DeepSeekが制約への対応として動いているのに対し、OpenAIは戦略的選択として動いているという点で、その文脈は根本的に異なる。
業界全体のトレンドとしての推論チップ内製化
米中それぞれの事情は大きく異なるが、AI推論チップの内製化という方向性は、業界全体のトレンドとして収斂しつつあるのは事実だ。クラウド大手・AIラボ・中国テック企業が軒並みシリコンレイヤーへの投資を強化している現状は、Nvidiaが長年築いてきたエコシステムの独占的地位に、複数の方向から圧力がかかっていることを意味する。
DeepSeekが実際にどのパートナーと組み、いつ製品を出せるかは未公表だが、約1年間の水面下での活動が表に出てきたことは、この動きが本格的な段階に入ったことを示している。
詳細はFacing US export controls, China's DeepSeek plans to make its own chipsを参照していただきたい。