7月6日、The Next Webが「A senior FCA official says Britain should weigh regulating AI models directly」と題した記事を公開した。英国の金融行為監督機構(FCA)幹部がChatGPT・Claude・GeminiといったAIモデルを金融規制の直接対象とすることを検討すべきだと提言したもので、規制の空白が生じている現状への危機感が背景にある。
FCA幹部が「AIモデルへの直接規制」を提言
英国の金融行為監督機構(FCA)でConsumers and Competition担当執行ディレクター(Executive Director of Consumers and Competition)を務めるSheldon Millsが、OpenAIのChatGPT、AnthropicのClaude、GoogleのGeminiといった大規模言語モデル(LLM)を金融規制の対象として検討すべきだと発言した。
問題の核心はシンプルだ。英国の消費者の4分の1以上が、これらのAIツールを金融アドバイスに活用しているにもかかわらず、FCAが監督する規制の保護が及んでいない。規制下の金融アドバイザーが誤った助言をした場合、消費者には救済手段がある。しかし汎用チャットボットが同じことをした場合、責任の所在はまったく不明確だ。この消費者利用実態については、FCAが公表している消費者調査・リサーチページでも関連データが参照できる。
Millsが指摘するのは、「技術が規制の想定外の役割を静かに担いつつある」という点であり、それを無視すること自体がリスクだという論理である。
3〜6か月以内に方針決定を
Millsが提案した措置は具体的だ。今後3〜6か月以内に、FCAが規制の境界線を「確保・適応」するかどうかを判断するため、現在規制外にある汎用AIモデルの規模・性質・影響を検討するよう求めた。即時の規制化を求めるものではないが、ファウンデーションモデル(汎用的な大規模AIモデル)が金融規制の内側に入るべきかどうかという問いに期限を設けた形だ。
さらにMillsは、将来的な監督のあり方として以下を挙げた:
- AIモデルが意思決定に至った経緯を企業に説明させる権限
- アルゴリズムの公平性を監査する仕組み
- 消費者に損害を与えたシステムへの制裁金の導入
これらはいずれも、AI統治における最難問に触れる提案だ。モデルは、それを導入している企業にとっても内部動作が不透明であることが多い。なお、FCAはすでにAI関連の取り組みと方針を公式サイトで公表しており、今回の提言はその延長線上に位置づけられる。
英国の「規制しない」路線との矛盾
この発言は、英国政府のこれまでの方針と緊張関係にある。英国はEUのような包括的なAI法の制定を意図的に避け、既存の各セクター別規制機関に監督を委ねることでイノベーション促進を狙ってきた。
Millsは「英国版AI法」を求めているわけではない。だが、汎用AIシステムに関してセクター別モデルに穴があると示唆しており、FCAがその穴を埋める必要があると述べている。
最大の実務的障壁は、規制対象の最大モデルがFCAの管轄外にある米国企業によって開発されているという点だ。ChatGPT(OpenAI)、Claude(Anthropic)、Gemini(Google)はいずれも米国企業であり、FCAが直接規制する手段は現時点では存在しない。
集中リスクという「もう一つの問題」
Millsが提起したもう一つの論点は、ある意味でより深刻だ。大半の規制対象金融機関が同一の2〜3社のモデルプロバイダーに依存するようになれば、そのうち1つに障害や欠陥が生じたとき、金融セクター全体に波及する可能性がある。これはクラウドコンピューティングで以前から議論されてきた「集中リスク」の問題が、その上に構築されるAIモデル層にも移ってきたと見ることができる。
「政策」ではなく「シグナル」として
現時点では、Millsの発言はあくまで政策ではなくシグナルだ。しかし、世界各国の政府がAIの進展がルールを追い越しつつあると認め始めているなかで、金融規制当局が「規制の境界線を動かす必要があるかもしれない」と言及したことは小さな出来事ではない。
FCAが今後数か月でこれを本格的な見直しとして扱うのか、単なる問題提起にとどめるのか——その動向が注目される。
詳細はA senior FCA official says Britain should weigh regulating AI models directlyを参照していただきたい。