7月6日、PYMNTSが「Tech CEOs Walk Back Dire AI Job Loss Predictions」と題した記事を公開した。AIによる雇用喪失について「終末論的」な予測を唱えていたテック企業のCEOたちが、相次いでトーンを和らげている実態を伝えている。
CEOたちの「予測撤回」が相次ぐ
Wall Street Journal(7月7日付)の報道によると、AIが雇用に与える影響に関するテックCEOたちの見解が、「破滅的」から「楽観的」へと転換しつつある。
OpenAIのSam Altman CEOは5月のカンファレンスでこう述べた。
「われわれは技術的な予測についてはおおむね正しかったが、社会的・経済的な影響については大きく外れていた」
AnthropicのDario Amodei CEOも同様だ。2024年5月には「AIがエントリーレベルの職種の半数を消滅させる可能性がある」と警告していたが、1年後の現在はより慎重な言い方に変わっている。
「企業は同じリソースで同じことをより少人数でやる選択もできるし、同じリソースでより多くのことをやる選択もできる。ただし後者には創造性が必要だ」
MetaのMark Zuckerberg CEOも「自動化のペースより速く人々の生産性を高めることに集中すれば、理論上は将来の雇用は減るのではなく増えるはずだ」と述べている。
なぜ予測は外れたのか
EY-Parthenonの調査によれば、「AIが大規模な雇用喪失をもたらす」と考えるCEOの割合は、**2025年1月の46%から2025年5月には20%**へと急落した。
この変化についてMITの経済学者David Autor教授は率直にこう指摘している。
「労働市場が彼らの予想ほど急速に崩壊していないことに気づいたのかもしれない。あるいは、『自社の素晴らしい新製品が経済を破壊する』と言い続けることがビジネス的に単純に不利だと気づいた可能性もある」
Autorの指摘は辛辣だが、実態を突いている。AI企業にとって「自社製品が大量失業を引き起こす」という主張は、規制強化や社会的反発を招くリスクがある。発言の転換がデータに基づく認識の修正なのか、ビジネス上の合理的計算によるものなのかは、引き続き注視が必要だ。
実際のデータは何を示しているか
一方、実際の雇用データも「破滅論」を支持していない。
決済FinTechのRampと労働市場データ企業Revelio Labsの共同調査によると、AIへの投資が最も大きい企業群は、スタッフ数を約10%拡大している。削減ではなく増員だ。
GoogleやBox、IBMなどで起きていることの主なパターンは「雇用の代替」ではない、とPYMNTSは6月3日付の記事で報じている。
「ファウンデーションモデルとビジネスオペレーションの間に新しい組織レイヤーが生まれており、そこには技術的な深さと、特定の企業文脈でAIを実際に機能させる判断力の両方が求められる役割が配置されている。このレイヤーは3年前には存在しなかった。今や労働市場で最も急成長している領域の一つだ」
なお、Metaは5月に約8,000人を削減しており、AI関連の支出を増やすために人員を整理している企業が存在することも事実だ。全体として楽観的なトレンドがある中でも、個別企業レベルでは大規模なリストラが続いている点は見落とせない。
今後の注目点
CEOたちの予測撤回を「単純な楽観論への転換」と読むのは早計だ。Autorが示唆するように、発言の背景にはビジネス上の合理的計算も絡んでいる。ただ、実際の雇用データが「大量消滅」シナリオを裏付けていないこともまた事実であり、「AIと人間の共存」を前提とした新しい職種・組織構造が静かに拡大している。
今後の焦点となるのは、AIへの大規模投資が雇用の純増トレンドをいつまで維持できるか、および新たに生まれている「中間レイヤー」の職種がどの程度の規模・持続性を持つかという二点だ。EY-ParthennonやRevelio Labsといった調査機関が四半期ごとに公表するデータ、ならびに各社の決算における人員計画の開示が、実態を測る有力な指標となる。楽観論と懸念論が交錯する中で、マクロのトレンドと個別企業の動向を切り分けて追うことが重要だ。
詳細はTech CEOs Walk Back Dire AI Job Loss Predictionsを参照していただきたい。