7月7日、Los Angeles Timesが「AI job disruption has come for Ireland's technology sector」と題した記事を公開した。この記事では、MetaをはじめとするIT大手のAI投資加速を背景に、欧州有数のテック集積地であるアイルランドでAI起因の大規模な雇用喪失が具体的に進行しつつある実態について詳しく紹介されている。
MetaのAI化が引き金になった700人削減
ソーシャルメディア大手MetaのアウトソーシングパートナーであるCovalenは、アイルランドで約700人を削減すると発表した。CovalenはBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)およびコンテンツモデレーション分野の大手企業で、MetaをはじめとするIT大手向けに人手を要するデジタル業務を広く請け負ってきた。この削減はMetaがAI中心に事業を再編する動きと連動しており、Metaはアイルランドのワークフォースのうちおよそ20%を削減する計画だ——これはMetaが掲げるグローバル平均(約10%)の2倍にあたる。
過去数年の削減を積み上げると、FacebookとInstagramを擁するMetaのダブリンオフィスの従業員数は、5年前の半分に縮小したとされる。TikTokもAIデータサービスや業務運営部門を中心に約300人の削減を検討中だ。
削減の波に直接さらされたのがNicholas Bennettだ。61歳の彼は、日本語・フランス語の翻訳者として約30年キャリアを積んできたが、翻訳市場がAIに侵食されたため、2024年にCovalenのデータアノテーション(AIモデルの学習用データを人間が作成・検証する作業)チームへ転職した。そのCovalenでも職を失った今、彼はこう語る。
「AIが原因とされるレイオフが、ほぼ毎日のように起きている。大問題は、社会がこれだけ大勢の失業者をどう扱うかだ。」
アイルランドが特に脆弱な理由
アイルランドはGDPに占めるテックセクターの雇用割合がEU平均を上回り、労働人口の6%超がIT産業に従事している。加えて、米国系多国籍企業への依存度が高い——法人税率の低さと英語圏という立地を武器に、長年にわたって米IT大手を誘致してきたためだ。
その構造が今、裏目に出つつある。アイルランド政府の分析によれば、30歳未満のICT雇用者数は2023年から2025年の間に約3分の1減少した。2026年第1四半期のテックセクター全体の雇用者数は、前年同期比で約11%減だ。
Bloomberg Economicsは先進国労働者の**27%がAIに「意味のある影響」を受けると試算しているが、アイルランドの数字はそれを上回る30%**とされる(Bloomberg Economicsの試算の詳細な時期・出典は元記事では明示されていない)。アイルランド予算監視機関の引用した2026年4月の論文は、「AI導入後に労働所得が減り資本所得が増えるなら、アイルランドの税基盤は大幅に縮小する」と警告している。
採用市場への影響はすでに学生まで届いている
EUでSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の大学卒業生の人口比率が最も高いアイルランドでは、学生の不安も広がっている。トリニティ・カレッジ・ダブリンでコンピュータサイエンスを学ぶ22歳のAlex Judgeはこう述べた。
「安定感は確実に下がっている。アイルランドで職を探す同級生の間では『これはきつい』という空気が漂っている。」
底堅い部分もある採用市場と、拡大を続ける企業
削減ばかりが目立つ一方で、雇用市場全体は今のところ底堅い。アイルランドの失業率はユーロ圏平均を下回っており、AnthropicやOpenAIはダブリンオフィスの拡張に伴いLinkedInにエンジニアリング職を掲載している。AIマーケティング企業Klaviyoも5万平方フィート超のオフィスを探しながら採用を拡大中だ。
大規模な削減を進めている企業と、AIを軸に積極採用を続ける企業とが並存しており、アイルランドのテック労働市場は「縮小」と「再編」が同時進行する複雑な局面にある。
「AIでCVを書き直している」という皮肉
政府はAI開発の拠点としてアイルランドをアピールする方針を維持しており、10月にはOpenAI CFOのSarah Friarらを招いたサミットを予定している。AIB GroupのCEO、Colin Huntも「アイルランドが欧州の主要テックハブであり続けることに変わりはない」と強調する。
一方でMike Beary元AWSアイルランド責任者は「最も変革的なAI職ではロンドンに負けている」と率直に指摘する。
そして当のBennettは今、機械翻訳された書籍の軽微な校正という短期フリーランス仕事で食いつないでいる。彼が置かれた状況の皮肉をよく表すのが、この一言だ。
「採用担当者がAIでCVをスクリーニングするから、私もAIを使ってLinkedInのプロフィール、CV、カバーレターを更新している。」
詳細はAI job disruption has come for Ireland's technology sectorを参照していただきたい。