7月6日、TFTC.ioが「TeraWulf Signs $19B Anthropic Lease, Reordering Grid Competition」と題した記事を公開した。元ビットコインマイナーのTeraWulfがAnthropicと締結した20年・190億ドルという巨額の電力インフラリース契約は、「確率論的なブロック報酬」対「20年間の確定収益」という構図をビットコインマイニング業界に突きつける取引だ。AI企業によるグリッドアクセスの長期確保がマイニング向け電力容量を構造的に圧迫するという懸念が、今回初めて具体的な数字を伴って現れた。
契約の概要
TeraWulf Inc.(Nasdaq: WULF)は2025年7月6日、子会社Raylan Data LLC(TeraWulfがJustified DataキャンパスのHPCインフラ事業を担うために設立した特別目的子会社)がAI企業Anthropic PBCとの間で、ケンタッキー州ホーズビルの「Justified Data」キャンパス(401MW)に関する20年間のリース契約を締結したとSEC Form 8-Kで開示した。SEC Form 8-Kとは、上場企業が株主・市場参加者に重大な企業イベントを速報義務として開示する書式であり、今回の開示はTeraWulf自身が本契約を「重要事実」と位置づけていることを意味する。契約期間中の見込み収益は約190億ドル。Anthropicはさらに5年×2回の更新オプションを持っており、最長30年の関係に発展しうる。
稼働は段階的で、2027年末に一部稼働、2028年初頭に全401MWが本格稼働する予定だ。債務履行はinvestment-grade(投資適格)クレジットによる保証が見込まれているが、保証主体は未公表のままだ。なお、2027年稼働前にAnthropicの推論需要が頭打ちになった場合や、マイニングハードウェアの効率が急速に向上してAIテナントをMWあたりの入札で上回れるようになった場合には、この構図は変わりうる点も記事は認めている。
ビットコインマイナーが無視できないエネルギーの算数
190億ドルを20年で割ると、年間約9億5,000万ドル。401MWあたりに換算すると1MWあたり年間237万ドル、稼働率100%でのインプライドレートはMWhあたり約271ドルになる。GPUを大量投入するHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)ワークロード向けのコロケーション単価として整合する水準だが、ビットコインマイナーが同じグリッドアクセスに支払ってきた価格を大きく上回る。
TeraWulfはもともとビットコインマイニング会社だ。現在もデジタル資産マイニング部門を持つ。それでもJustified DataキャンパスをAnthropicのAI計算基盤に割り当てたのは、20年間の確定収益という非常にシンプルな計算結果だ。ビットコインのブロック報酬は確率論的であり、190億ドルの確定契約と比べる際に複雑なモデリングは要らない。
ケンタッキー州の地政学的文脈も重要だ。石炭由来の安価なベースロード電力は、これまでマイナーを引き付けてきたのと同じ理由で、今やAIハイパースケーラーにとっても魅力的なロケーションになっている。Anthropicに長期確保された401MWは、少なくとも契約期間中は同地域のマイニングに回らないMWとなった。
Abernathy売却が示す「マイナー→AIインフラ」の出口戦略
同日、TeraWulfはテキサス州アバナシーにある168MWの「Abernathy Joint Venture」の50.1%持分を、Fluidstack CS I Inc.(GPUクラウドおよびAIインフラの構築・運営を手がける企業)主導の投資家グループに約5億3,000万ドルで売却することも発表した。TeraWulfが投じた資金は約4億5,000万ドルであり、差額の8,000万ドルがプレミアムだ。
支払いは3回に分割される:契約締結後14日以内に2億5,000万ドル、2026年12月31日までに1億5,000万ドル、その後の期日に約1億3,000万ドル、というスケジュールだ。
この取引が業界に示すメッセージは明確だ。ビットコインマイニング由来の資産をAIインフラオペレーターに売却し、実際のリターン数字を伴う出口を作った最初の事例となった。安価な電力契約と既存の変電設備を持つマイニング隣接事業者はこの取引を今日読んでいる、と記事は指摘する。
資本がAIインフラ構築に集中し、マイニングハッシュレート側から離れていく流れは、ネットワークの分散化にとって緩やかな逆風となる。壊滅的なものではないが、方向性は一貫している。
今後の注目点
記事が挙げる観測ポイントは以下の4点だ:
- 2027年末の初回稼働マイルストーン:契約の実態確認点になる
- Anthropicの公式声明:8-K提出時点では存在せず、今後の発表に注目
- クレジット保証主体の開示:現時点では未公表
- オハイオバレーやアパラチア地域の他サイト動向:他のAIテナントが同様の電力サイトを狙い始めるか
20年という契約期間は、AIのcapex(設備投資)が長期にわたって続くというハイパースケーラー側の前提を暗示している。TeraWulfの最新IRリリースは同社投資家向けページでも確認できる。
詳細はTeraWulf Signs $19B Anthropic Lease, Reordering Grid Competitionを参照していただきたい。