7月7日、Moses Jeanfrancoisが「Why Alibaba Just Banned Its Employees From Using Anthropic's Claude Code」と題した記事を公開した。アリババが社員に対してAnthropicのAIコーディングツール「Claude Code」の使用を禁止した経緯と背景を詳しく伝えている。注目すべきは、Claude Codeのコードベースに中国関連ユーザーを識別する機能が残存していたことが発覚し、「スパイウェア疑惑」として広まった点だ。この発覚が、両社の間でくすぶっていた対立に火をつけ、禁止措置の決定打となった。
アリババがClaude Code使用を禁止、自社ツール「Qoder」へ移行
中国のECコングロマリット・アリババが、AnthropicのClaude Codeを社員が業務で使用することを禁止した。Claude Codeは、Anthropicが2024年にリリースしたターミナルベースのAIコーディングエージェントで、自然言語の指示でコードの生成・編集・実行を行える開発者向けツールだ。アリババ社員は今後、アリババ独自のコーディングプラットフォーム「Qoder」を使うよう指示されている。
禁止の直接的引き金:コードベースに残っていた「スパイウェア疑惑」コード
今回の禁止措置の決定打となったのは、Redditに投稿されたある報告だ。Claude Codeの特定バージョンが、中国に関連するユーザーを密かに識別する機能を持っていたという内容で、「スパイウェア」との表現も使われた。
これに対し、Claude Codeの開発に携わるThariq ShihiparがX(旧Twitter)上で反論した。
「このコードは、非正規の再販業者によるアカウント不正利用を防ぎ、蒸留から保護するために立ち上げた実験の一環だった。それ以降、チームはより強固な対策を実装しており、このコードは以前から削除するつもりでいた。」
つまり、Anthropic側の言い分としては「不正利用対策」であり、意図的な監視ではないとしている。ただし、その「実験」コードがコードベースに残存していたこと自体が、アリババに禁止の口実を与えた形だ。
禁止の背景:蒸留攻撃疑惑をめぐる両社の対立
この禁止措置は、両社の間で続く対立の延長線上にある。
スパイウェア疑惑が浮上する以前から、Anthropicはアリババが自社のClaudeモデルの能力を不正に抽出したと非難していた。具体的には、「蒸留(Distillation)攻撃」と呼ばれる手法——高性能なモデルの出力を使って、性能の劣るモデルを訓練することでその能力を移転する技術——を用いたという疑惑だ。
一方でアリババ側は、AnthropicがセキュリティリスクをはらむAIスタートアップであると反論しており、今回のスパイウェア疑惑はその主張を補強する材料として使われた格好だ。
AnthropicはすでにClaude利用を中国企業に禁止している
対立の構図をさらに複雑にしているのが、Anthropicの利用規約上の立場だ。Anthropicはすでに中国企業および中国企業が支配する外国法人に対し、自社モデルの利用を禁止している(TechCrunch報道)。アリババ社員が業務でClaude Codeを使えていた経緯は記事では明確にされていないが、今回の禁止措置でその状況に区切りがついた形だ。つまり今回の一件は、アリババによる自主的な禁止であると同時に、Anthropic側の利用制限とも重なる構図になっている。
参考:Microsoftは約1年前にClaude Codeライセンスを停止
なお、大企業によるClaude Codeの利用方針変更はアリババが初めてではない。Microsoftは2025年5月——今回のアリババ禁止措置の約1年前——に、エンジニアリングチーム向けのClaude Code社内ライセンスを廃止している。 Anthropicのツールはかつて、同社の10万人ものエンジニアに提供されていたが、トークン消費量が膨大となりAI予算を圧迫したため、契約を打ち切った。こちらはセキュリティ上の理由ではなくコスト面での判断であり、アリババのケースとは性質が異なる。
企業のAIツール選定に何をもたらすか
今回の件は、企業がAIコーディングツールを選定・運用するうえで、コスト・セキュリティ・地政学的リスクの三つが複雑に絡み合うことを示している。特に中米間のAI競争が激化する中で、どのAIツールを使うかという判断は、純粋な技術評価だけでは済まなくなりつつある。コードベースへの信頼性、利用規約上の地政学的制限、そして自社ツールへの囲い込み——これらが同時に問われる時代に入ったといえる。
詳細はWhy Alibaba Just Banned Its Employees From Using Anthropic's Claude Codeを参照していただきたい。