7月3日、Hackadayが「Godot's New Contributing Policy Adds Barriers For AI Slop」と題した記事を公開した。ゲームエンジン「Godot」がAI生成コードによるプルリクエスト(PR)の急増に対応するため、コントリビューションポリシーを改定したことについて詳しく紹介されている。
AI生成PRがOSSレビュアーを疲弊させている
GodotはMITライセンスで公開されているオープンソースの2D/3Dゲームエンジンで、Unityの商業ライセンス変更騒動(2023年)を契機に移住者が急増したことでも知られる。UnrealやUnityといった商用エンジンに対するフリーな代替として世界的に注目を集めており、コントリビューターも活発だ。しかしその知名度の上昇に伴い、プロジェクトには大量のPRが押し寄せるようになった。問題は数だけではない。PRの数が増えるほどコードの品質が下がるという逆相関の関係が生じており、限られたボランティアレビュアーの時間を大量に浪費している。
特に深刻なのが、AI生成コードによるPRのレビュアーへの精神的ダメージだ。元記事では「士気低下(demoralizing effect)」という言葉が使われている。AI生成PRの提出者は、レビュアーからのフィードバックを受けて学ぼうとしないケースが多い。さらに悪いケースでは、提出者が自律型エージェントであり、コードの設計思想についての議論そのものが成立しない。長期的なメンテナとして育てることも当然不可能だ。
新ポリシーの内容
Godotプロジェクトが公開した新しいコントリビューションポリシー(2026年版)には、以下の禁止事項が明記されている。
- 自律型AIエージェントおよびバイブコーディング(vibe coding)によるPR提出の禁止
- AIによるコードの大部分の生成の禁止
- 人間同士のコミュニケーションにおけるAI生成テキストの使用禁止
- すべてのPRは人間がレビューし、人間が承認してからマージすることの明文化
「バイブコーディング(vibe coding)」とは、AIに大まかな意図だけ伝えてコードをほぼ丸ごと生成させる開発スタイルを指す造語で、2025年頃から急速に広まった。Godotの新ポリシーはこのスタイルそのものを明示的に禁止しており、「事実上」の留保なしに、コントリビューションとして認めないことを宣言している点が重要だ。AIを補助ツールとして一部使用することまで禁じているわけではないが、生成物の大部分がAIによるものであれば受け付けない、という立場を明確にした。
他のOSSプロジェクトとの比較
AI生成コードへの対応はGodotに限った話ではない。各プロジェクトのアプローチには温度差がある。
- Mesaプロジェクト: コード提出者にコードの内容を理解していることを求める「コード理解要件」を追加。Godotの方針に近い。
- NetBSD: LLM生成コードをライセンス上の懸念から「汚染されたもの(tainted)」として扱い、コミット自体を禁止。より強硬な立場。
- Linuxカーネル: AIツールの使用を申告させ、その責任を人間の提出者に負わせる形式を採用。
Godotの新ポリシーはNetBSDほど一律禁止ではなく、Linuxカーネルより踏み込んだ制限をかけるという、中間的な立場に位置する。ただし「バイブコーディングの禁止」を明文化した点では、主要OSSプロジェクトの中でも踏み込んだ姿勢と言える。
OSSコミュニティへの影響
Hackadayは別記事で、バイブコーディングがOSSプロジェクトとの有益なインタラクションを減少させている兆候があることも指摘している。AIツールによるPR提出が増えることで、本来育つはずだったコントリビューターの学習機会が失われ、コミュニティの長期的な健全性が損なわれるという構造的な問題だ。
OSSプロジェクトのレビュー作業はボランティアによって支えられており、レビュアーの時間は有限かつ代替不可能なリソースだ。低品質なPRが増えれば、本来マージされるべき価値ある貢献がレビューキューに埋もれるリスクも高まる。AIツールの普及は「コントリビューターの間口が広がる」という側面だけでなく、レビュアーの疲弊とコミュニティの希薄化という副作用も現実のものとなっている。Godotの今回の決断は、こうした構造問題に対してOSSプロジェクトが取りうる一つの回答として、今後他プロジェクトの議論にも影響を与えそうだ。
詳細はGodot's New Contributing Policy Adds Barriers For AI Slopを参照していただきたい。