7月4日、Curtis Deaconが「Told to use AI more, workers torched $80,000 on a meme game, PDF conversions, and more」と題した記事を公開した。「AIをもっと活用しろ」という経営指示が、8万ドル(約1,200万円)分のトークンをミームゲームに溶かすという結末を招いた——この一件は、ガバナンス不在のままAI推進を進める企業が陥りがちな構造的問題を凝縮している。
AIトークン8万ドルで「ミームゲーム」を作った社員
フィンテック企業Slashは、生産性向上とコスト削減を目標に、社員にAIコーディングツールの積極活用を奨励していた。その結果として起きたのが、AIトークン8万ドルを使ったゲーム開発だ。
Futurismの報道によれば、Slashの社員がそのトークンを費やして作ったのは「brainrot shooter(ブレインロット・シューター)」というゲームである。「brainrot(ブレインロット)」とは、TikTokやRedditを中心に拡散した不条理・シュールなインターネットミームを指すスラングで、近年の若者文化において半ば共通語化している。Business Insiderの説明によると、当該ゲームはそうしたインターネットミームをモチーフにした敵キャラクターが登場する、ごく簡素なFPS(一人称視点シューティング)ゲームだ。
Slashは事後、X(旧Twitter)に投稿を行い、ユーザーにゲームのプレイを呼びかけた。
「先週、社内にバイブコーディングをもっとやろうと呼びかけたところ、@nickbruhmanがSlashカードで8万ドル分のクレジットをブレインロット・シューターに溶かした。マーケティング費用として計上できるよう、ぜひプレイしてほしい」
「バイブコーディング(vibe coding)」とは、AIに大まかな指示を与えながら直感的にコードを生成させる開発スタイルで、2025年ごろから広まった言葉だ。Andrej Karpathyが提唱した概念として知られ、本来は開発効率化の文脈で語られることが多い。しかし今回の事例は、その「野放し状態」がいかに非効率を生むかを示している。「マーケティング費用として計上できれば」という事後的な言い訳は、指示を出した側にも使途管理の意識がなかったことを図らずも露呈している。
PDF変換にAIを使う社員たち――Accentureの場合
同様の問題は、コンサルティング大手Accentureでも起きていた。この事例が示すのは、ガバナンス不在のAI浪費がスタートアップ特有の問題ではなく、組織規模を問わず起きうる構造的な課題であるという点だ。
404 Mediaが入手したリーク音声によれば、Accentureの社員は会社が支給するAIの利用枠を、PDFファイルをPowerPointに変換するといった軽微な作業に費やしていた。本来AIを使わなくとも、既存のOfficeツールや無料の変換サービスで十分に対応できる作業である。
Accenture AIストラテジー部門のJustice Kwakは社内会議でこう発言していたという。
「社内データを見ると、トークンを消費しているのはエンジニアではない。そういった行動をしているのは、非エンジニアの社員が多い」
Accentureほどの大企業が社内AI活用の実態を把握しきれていないという事実は重い。「全社員にAIを使わせる」という方針と、「どの業務にどう使わせるか」を設計する方針は、まったく別物だということを示している。
「ガバナンスなき推進」が招くコスト膨張
今回の事例が示すのは、「とにかくAIを使え」という号令だけでは、コスト削減どころか逆効果になりうるという現実だ。
記事では、過剰なAI支出の影響が企業予算にとどまらない点も指摘している。生産性向上に結びつかないツールへの支出が積み重なれば、最終的には価格転嫁、さらなる生産性要求、人員削減圧力といった形で従業員や消費者に跳ね返ってくる。
さらに見落とされがちなのが、環境・インフラへの負荷だ。大規模AIモデルの運用には膨大な電力と水を消費する。International Energy Agency(IEA)の試算では、データセンターの電力消費は今後数年で急増する見通しが示されており、地域の電力網を圧迫することで光熱費の上昇や安全管理上のリスクを生む可能性も指摘されている。無駄なAI利用はコスト問題であると同時に、こうした社会的コストの上乗せにもつながる。
SNSの反応:「8万ドルでこれ?」
SlashのXポスト下には批判的なコメントが相次いだ。
「8万ドルでこのクオリティ?」
「とんでもなく非効率だ」
「プログラマーに8万ドル払っても、あんなものは作らない。エンゲージメント稼ぎか?」
エンゲージメント目的の投稿ではないかと疑う声もあったが、Slashが実際に「マーケティング費用として計上できないか」とポスト内で言及している点は、皮肉めいた現実味がある。
「AIを活用せよ」という経営方針そのものは否定されていない。問題は、使途を管理しないまま推進する体制にある。ツール導入の前にガバナンスを整備することの重要性を、この事例は改めて示している。
詳細はTold to use AI more, workers torched $80,000 on a meme game, PDF conversions, and moreを参照していただきたい。