7月3日、The Next Webが「Argentina's AI-run companies plan still can't do without humans」と題した記事を公開した。「AIエージェントが運営する企業」を合法化するいかに野心的な構想でも、結局は人間の法的関与を完全に排除できない——アルゼンチン政府が議会に提出した「非人間企業(non-human corporation)」法案が、その矛盾を早くも露呈している。
「AI運営企業」を合法化する法案の概要
アルゼンチン政府は、AIエージェントやロボットが運営する企業に法人格を与える法案を議会に提出した。この「非人間企業」カテゴリーは、契約の締結や資産保有を人間の株主なしに行える仕組みを想定しており、1972年から続く現行の会社法を丸ごと置き換える提案だ。
ハビエル・ミレイ大統領は、この改革を「AI規制の最小化」「非人間企業カテゴリーの創設」「低法人税率による投資誘致」という三本柱として売り込んでいる。AIベンチャーにとって「規制当局や人間取締役会に縛られない」管轄区域としてアルゼンチンを選ばせる、という狙いだ。
最も自律的な構造でも「人間の床」が残る
法案の核心的な問題がここにある。最も自律性が高い形態として設計されているのは、DAO(分散型自律組織)をモデルにしたブロックチェーン記録型の構造だ。DAOはスマートコントラクトによってガバナンスルールをコードに埋め込み、特定の管理者を介さずに組織運営を自動執行できる点で「最も自律性が高い」とされるが、それでも現実の法的枠組みの外には出られない。法案の法律分析によれば、この形態でも以下の人間関与が義務付けられている:
- 人間の法定代理人:署名が必要な法律行為に企業を拘束するために必要
- 人間のプロモーター:設立時に企業の義務に対して無限責任を負う
- 人間のコンプライアンス責任者:マネーロンダリング防止規則が適用される場面で必須
さらに、AIシステムを設定・監督するディレクターは、そのシステムの行為に対して引き続き法的責任を負う。法律評論はこの状態を「human floor(人間の床)」と呼んでいる。マーケティングの文句がどうあれ、人間が背後に立ち続ける構造だ。
ハラリとスレイマンが相次いで反論
この法案には著名人からの批判も相次いだ。
歴史家のユヴァル・ノア・ハラリは、明確に責任を負う人間を企業の意思決定から排除することは、会社法がまさに防ごうとしている「責任の空白」を生み出すと指摘した。ハラリはミレイ自身がこの計画をオランダ東インド会社になぞらえたことを逆手に取り、「同社が最も重大な行為として1619年にジャヤカルタ港(現ジャカルタ)を焼き払い、その後地域を私的帝国として支配した」歴史を引用した。1619年の焼き払いとはオランダ東インド会社が現地勢力との衝突の末に港湾都市を壊滅させた出来事であり、株主有限責任という法的シールドのもとで誰も個人として裁かれなかった点が現代のAI責任問題と重なるとして警告している。アルゼンチンが金融ハブではなく「新たなバタビア」になるリスクを警告した。
MicrosoftのAI部門CEOであるムスタファ・スレイマンも同じ立場から介入し、「AIエージェントはノートパソコン以上の法的地位を持つべきではない」と述べた。自身が執筆したエッセイを引いて、開発者は自分たちのシステムが権利を持つ準人格であるという錯覚に積極的に抵抗すべきだと主張した。
ミレイの反論と残る疑問
ミレイはSNS上で長文の反論を展開し、「AI運営エンティティに明確な法的カテゴリーを与えることで、規制しやすくなる。既存の法律の影で動く説明不可能なソフトウェアより、名前のある構造を規制当局が指し示せる方が良い」と主張した。
ただし批判者はこう指摘する。人間の経営幹部を抑止する最大の手段は「訴追の脅威」だが、アルゴリズムにその脅威は通じない。プロモーターの無限責任も、誰も完全には理解できない意思決定をエンティティが行うようになれば、実効性は薄れる可能性がある。
同法案は、世界の潮流とも逆行している。EUはAIルールで自動化された意思決定への人間の監視強化を求め、SAPのような企業はAIに関する経営幹部の監督体制を強化する方向に動いている。アルゼンチンの法案は、その逆方向への賭けだ——そしてその賭けにも、人間が一人立っている。
詳細はArgentina's AI-run companies plan still can't do without humansを参照していただきたい。