7月4日、Los Angeles Timesが「Want an AI-proof job? New research says you may be safer at companies embracing the technology」と題した記事を公開した。「AIが雇用を奪う」という言説が広まる中、それとは真逆の調査結果がある。AIを積極導入した企業では、導入後2年間で社員数が平均10%増加したというデータだ。雇用を守りたいなら、AIから逃げる企業ではなくAIを使いこなす企業を選ぶべき——そう示唆する内容である。
「AI導入企業」の社員数は2年で平均10%増
この調査を実施したのは、企業向け法人カード・経費管理サービスを提供するフィンテック企業Rampと、企業の採用・組織データを専門に収集・分析する雇用インテリジェンス企業Revelio Labsだ。両社の組み合わせにより、実際の企業支出データと採用データを突き合わせた実証的な分析が可能になっている。
共同調査では、2021年1月から2026年2月にかけての米国約2万2,000社の追跡データを分析した結果、AIへの支出が多い企業は、AI導入後の2年間で平均10%の人員増加を記録したことが明らかになった。
特に最も積極的にAI投資を行った企業群では、エントリーレベルの採用が12%増加している。
「強度」が分岐点
この調査が定義する「ヘビーなAI採用者」とは、1人あたり月100ドル以上をAIに支出し、単純なChatGPTサブスクリプションではなくコーディング支援ツールなどの高度なAIを業務に使っている企業だ。一方で、利用頻度が低い「ライトなAI採用者」は採用増の恩恵を受けず、むしろ人員削減に至っているケースもあった。
Rampの主任エコノミストであるAra Kharazianは次のように述べている。
「就職活動中の人や大学を卒業したばかりの人が、条件が似た2社を比較しているなら、AIを使っている方を選ぶべきだ。われわれの研究は、そちらの企業の方が成長が速いことを示している。」
スタンフォードの調査との"矛盾"をどう読むか
ただし、この結果は既存の研究と単純に比較できない。2025年11月に発表されたスタンフォード大学の調査では、若手ソフトウェアエンジニアの雇用が2022年末のピーク比で約20%減少したと報告されている。
Kharazianは両者の結果が同時に成立しうると説明する。スタンフォードの調査が労働市場全体を対象としているのに対し、Rampの調査は「AIを実際に導入した企業」に絞っているためだ。「若年層の採用全体では弱含みかもしれないが、AIを積極活用している企業内では採用は堅調だ」という構造である。
高学歴・中堅世代にも広がる影響
カリフォルニア州が独自に運営するAI失業トラッカーも別の示唆を与えている。この調査では、AIの影響が若手・エントリーレベルに限定されるという通説を覆すデータが示された。「AIによる雇用喪失は若者の問題」という認識がいかに不十分かを示す点で、このデータは特に重要だ。
- 顧客サービスやソフトウェア開発など、AI暴露度の高い職種における大卒以上の労働者の失業保険申請が、ChatGPT登場(2022年)以降に増加し、2026年5月まで高水準が続いている。
- 修士・博士号保持者のAI高暴露職種における失業保険申請は、2022年11月の月平均1万3,000件から、2023年半ば以降は月1万6,000〜2万2,000件に増加した。
- 36〜65歳の申請が相当数を占めており、中堅・シニア層にも影響が及んでいることが確認された。
- 地域別では、サンフランシスコ・ベイエリアの申請率がカリフォルニア州の他地域を上回り、テクノロジーセクターへの集中が見られた。
なお、trueup.ioによると、2026年だけですでにテック業界で16万人超が解雇されている。
「AIのせい」という言い訳への疑問
Meta、Oracle、Microsoftなど大手テック企業が大規模なレイオフを実施しながら、同時にAIデータセンターへ数十億ドルを投資している構図は周知の通りだ。
Rampの調査結果を踏まえると、「AI積極導入→採用増」という方向性があるにもかかわらず、レイオフの理由をAIに帰する企業は、通常のコスト削減をAIのせいにしている可能性がある。これは「AIウォッシング」と呼ばれる行為だ。環境への取り組みを実態以上に見せる「グリーンウォッシング」になぞらえた言葉で、AI活用を実態以上に強調したり、都合の悪い経営判断をAIのせいにしたりする行為を指す。
Kharazianはこの点について率直に述べている。
「CEOがレイオフをAIのせいにしていると聞いたら、私は懐疑的になる。」
就職先を選ぶ視点でも、政策立案の視点でも、「どの企業・どの職種がAIとどう向き合っているか」を見極めることが重要になっている。単に「AI企業かどうか」ではなく、AIへの投資の深さと質こそが、雇用の安定を左右する分岐点となりつつある。
詳細はWant an AI-proof job? New research says you may be safer at companies embracing the technologyを参照していただきたい。