7月5日、Laurie Vossが「AI has torched the market for junior programmers」と題した記事を公開した。この記事では、AIがジュニアプログラマーの雇用市場を破壊する一方、「プログラマー」を名乗らない新世代の開発者が急増しているという、労働市場のK字型分断について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
22〜25歳のエンジニアだけが19%減という異常
スタンフォード大学のDigital Economy LabがADPの給与データを分析した結果、米国の22〜25歳のソフトウェア開発者の雇用は2022年末のピークから19%減少した。同期間に30歳以上のコホートはすべて増加しており、41〜49歳に至っては14%増だ。
Vossが最も重要なチャートと呼ぶこのデータは、単なる企業レベルの偶然ではない。スタンフォードのチームが個別企業のショックをコントロールした後でも、AIに晒された職種における若年労働者の相対的雇用減少は**16%**に達する。しかもその影響は、AIが仕事を「補完」する職種ではなく「自動化」する職種に集中している。ソフトウェア開発はその典型例だ。
他の指標も同方向を向く。エントリーレベルの求人は2022年ピークから28%減。コンピュータサイエンス卒の失業率は**6.1%**に達し、文系専攻の卒業生を上回った。2019年にこの数字を見せれば、キャリアカウンセラーに笑い飛ばされていただろう。
興味深いのはタイミングだ。若年層の雇用ラインはChatGPTのリリース時点で急落したわけではない。2022年末にピークを打った後、2023年を通じてじわじわ下がり、最も急速に悪化したのは2024年から2025年前半だ。コード補完ではなく、チケット単位で作業を完結させる「エージェント型プログラミング」の台頭が本当の引き金になった。
全体平均は「プラス」という罠
では、AI時代にソフトウェア開発者の雇用全体が崩壊しているかといえば、そうではない。BLSのデータによれば、ソフトウェア開発者の雇用者数は2022年5月の153万人から2025年5月には169万人へと10%増している。米国・デンマーク・Anthropic自身の調査でも、AI露出と雇用総数の間に有意な関係は見出されていない。
なぜ全体はプラスなのに若者だけ壊滅しているのか。答えは単純な算数だ。22〜25歳は開発者全体の約8%に過ぎない。このセグメントが19%減っても、全体平均への影響は軽微だ。平均を見る研究は「異常なし」と結論づけ、若年層を見る研究は「壊滅的」と結論づける。見ている対象が違うだけで、同じデータだ。
消えているのは「コードを書く人」という肩書き
BLSの職種別データを見ると構造がより鮮明になる。2024年5月から2025年5月の1年間で、「コンピュータプログラマー」(仕様通りにコードを書く職種)は16%減。BLSがこの職種に予測していた減少ペースは「10年で6%」だったが、それを1年で超えた。ウェブ開発者も11%減、QAテスターも6.5%減だ。
一方、データサイエンティストは12%増、システムアナリストは4.4%増。「どんなコードが必要か判断する仕事」は伸びており、「指示通りコードを書く仕事」が消えている。AIが食っているのはきわめて特定の種類の仕事だ。
「プログラマー」を名乗らない新世代の開発者
Vossは2025年初頭、AIは新たな抽象化レイヤーとして機能し、過去の抽象化レイヤー(コンパイラ、フレームワーク等)と同様に開発者人口を爆発的に増やすと予測していた。その予測自体は当たっていた。ただし肩書きという形ではなく、ケイパビリティという形で広がった。
GitHubは直近のOctoverse年間レポートで、3600万件の新規アカウントを追加(1秒に1人超)、リポジトリ新規作成数も過去最大を記録したと報告している。新規ユーザーの80%が最初の1週間以内にCopilotを使用した。
さらに説得力があるのがApp Storeのデータだ。iOSアプリの公開は99ドルの開発者費用と審査プロセスを伴う、コストのかかる行為だ。チュートリアルの完了数ではなく「実際に出荷されたソフトウェア」を測る指標として機能する。
2016年のピーク後、8年連続で減少していた新規App Store申請数が2025年に24%増に転じた。2026年Q1はさらに前年比80%増。急増により、Appleのレビュー期間は2日から数週間に延びている。
これらの新規開発者の正体は何か。Vercelによれば、バイブコーディング(AIに自然言語で指示してコードを生成させる手法)ユーザーの63%はエンジニアではない。Lovableは60%が「非開発者」と報告し、ユーザーは毎日10万件超の新規プロジェクトを作成している。マーケター、創業者、教師、アナリスト、プロダクトマネージャーがソフトウェアを書いている。彼らは「開発者」とは名乗らず、BLSの統計にも開発者として計上されない。
次のシニアエンジニアはどこから来るのか
ここが記事の核心だ。従来のエンジニア育成モデルはこうだった。ジュニアを採用し、シニアがコードレビューし、繰り返しの中で判断力が育ち、10年後にシニアになる。このチェーンが断ち切られた。
AIが「凡庸なコード」を書くようになったため、ジュニアを雇う理由がなくなり、シニアになる候補者がいなくなる。
一方で、誰もレビューしない環境で数百万人の新規開発者がソフトウェアを出荷している。Veracodeの調査ではAI生成コードの45%が基本的なOWASPセキュリティテストに不合格。バイブコーディングで作られたアプリの10%にユーザーデータを露出するクリティカルなセキュリティ欠陥が見つかったという報告もある。
対照的な二社の方針が示唆的だ。IBMはAI装備のジュニアが従来のシニア業務をこなせるという前提でエントリーレベル採用を3倍に増やした。Salesforceは昨年度エンジニアの採用をゼロにした。この2つのシナリオのどちらが勝つかで、2036年にシニアエンジニアが存在するかどうかが決まる。
回復の兆しは一部にある。Indeed上のソフトウェア開発求人は2025年5月を底に13ヶ月連続で上昇しており、前年比10%増だ。ただし水準はまだ2022年ピークの7割程度にとどまる。
「タイピスト」と同じ道を歩む
Vossの結論はこうだ。「タイピスト」がスキルとして全員に普及した結果、職業名として消滅したように、プログラミングも「職種」から「ケイパビリティ」への移行を歩んでいる。この移行自体は止まらない。問題は、旧来のはしごに足をかけようとした瞬間にそのはしごが燃やされた世代だ。新しいはしごを作らなければ、判断力の担い手不在というツケはいずれシニア層にも回ってくる。
詳細はAI has torched the market for junior programmersを参照していただきたい。