7月3日、Los Angeles Timesが「Bytedance's TikTok took over social media. Now, its AI is taking over Hollywood」と題した記事を公開した。この記事では、ByteDanceのAI動画生成モデル「Seedance」がハリウッドの映像制作現場に浸透しつつある実態について詳しく紹介されている。
Brad PittとTom Cruiseの"対決動画"が火をつけた
今年初め、Brad PittとTom Cruiseが屋上で格闘する15秒のAI生成動画がSNSで拡散し、ハリウッドに衝撃を与えた。あるスクリーンライターはその映像を「恐ろしい」と表現し、全米映画協会(MPA)はこの動画を生成したツールの提供元——中国のテック企業ByteDance——に対し、実在俳優の肖像・パブリシティ権等の侵害にあたるとして「著作権侵害行為」の停止を要求した。なお、この文脈での「著作権侵害」はAI生成映像における肖像・パブリシティ権侵害を包括した表現であり、厳密な法的根拠については現在も業界内で議論が続いている。
しかしその騒動の裏で、ByteDanceはハリウッドへの浸透工作を着実に進めていた。
問題のAI動画生成モデルは「Seedance」。今春、サンタモニカで開催されたイベントで米国向けにローンチされた。ByteDanceはその後、100以上のポジションの採用を開始し、複数の独立系映画制作者と契約、AI映画の資金調達に関する非公式な交渉も進めている。カンヌではキャビアを振る舞うパーティーを開き、5月にはカルバーシティで開催されたAmazonの「AI on the Lot」イベントでもSeedanceの展示パネルを設置した。
「業界内では黙認されている」
エンタメ・AIアドバイザリー企業Creative MediaのPeter Csathyはこう語る。
「新技術と同じで、ハリウッドは市場の現実に反応せざるを得ない。その現実とは、AIを活用する新世代のクリエイターたちが、Seedanceを現時点で最も強力な動画生成ツールと見なしているということだ」
『ザ・シンプソンズ』初期シーズンのアニメーションプロデューサー、Joel Kuwaharaの言葉はより率直だ。
「業界内では多くのスタジオがSeedanceを公式に承認していないが、それでもウインクしながら使用を黙認している。"聞かない、言わない(don't ask, don't tell)"みたいなものだ」
コストが決定的な差をつくっている
AI動画モデルの性能・コストをトラッキングするArtificial Analysisのデータによると、Seedanceは現時点で品質とコスト効率の両面で米国勢をリードしている。
| モデル | 価格(音声付き動画1分あたり) |
|---|---|
| Seedance(ByteDance) | $9 |
| Google Veo | $24 |
この価格差が、独立系映画制作者にとって決定的な意味を持つ。映画『Paranormal Activity』のプロデューサーSteven Schneiderが発表した初のAIホラー映画「Terrarium」では、監督のJason ZadaがSeedanceを全面採用。15秒の高解像度動画の生成コストがわずか$5という試算を示した。
Zadaの制作ワークフローも従来とは異なる。脚本執筆、キャスティング、プロンプト入力、編集をすべて並行して行い、その日にAIが生成した「デイリーズ(dailies)」——従来は実際の撮影素材を指す業界用語——を見ながらリアルタイムで脚本を修正していく。「好きなだけ再生成できるから、アウトラインさえ詳細に決めておけば、あとは流動的に作れる」と彼は語る。
なお、ZadaはDGA(全米監督組合)のメンバーであり、ハイブリッドAI映画でも組合俳優を起用する方針だという。
キャラクター一貫性という「解かれた難問」
独立系クリエイターのKavan Cardozaは、Seedanceを使ったAIファンタジーシリーズ「The Chronicle of Bones」をYouTubeで公開している。1人で制作し、月1回30分以下のエピソードを投稿。1エピソードあたり平均300万回再生、チャンネル登録者数は50万人に達する。
彼がSeedanceに依存するようになった最大の理由は「キャラクターの一貫性(character consistency)」だ。AI動画生成の長年の課題——ショット間でキャラクターの外見がブレる問題——をSeedanceが解決したと評価している。
具体的な手法はこうだ。3面マスクとボロボロのジャケットを着た自撮り写真を撮影し、それをAIキャラクターの参照画像としてSeedanceに入力。スタイライズされたキャラクターに変換した上で、外見・性格・バックストーリーを定義し、キャスト全員分で同じプロセスを繰り返す。
「Brad Pittを使えない。出演料が500万〜2000万ドルかかる。でも将来的には、Brad Pittと同等の演技ができる合成俳優を使えるようになる。そんな話が現実になっている」
「ByteDanceモデルでDisneyが次の映画を作るか? あり得ない」
ただし、Seedanceのハリウッド進出には構造的な壁もある。LumaのCEO、Amit Jainはこう断言する。
「ByteDanceのモデルでDisneyが次の『白雪姫』を作るなんてあり得ない。これは技術的な問題ですらない。それが現実だ」
地政学的リスクとIPリスクが、大手スタジオにとって商業利用の障壁になるという指摘だ。JioStar(ディズニーとインドのReliance Industries傘下のJioが設立した合弁会社)SVPのStephan Vladimir Bugajは、「中国モデルの品質と価格は米国勢への警告だ」と述べつつも、Seedanceがハリウッドの制作現場に浸透している事実を認めている。
一方、メディア企業によるAI支出は2024年の26億ドルから2029年には125億ドルに成長すると予測されており(State of Generative AI Mediaレポート)、市場の奪い合いは激化する一方だ。
「私たちに忠誠心はない。最良のものを使うだけだ」——Zadaのこの言葉が、現在のハリウッドの空気感を端的に示している。
詳細はBytedance's TikTok took over social media. Now, its AI is taking over Hollywoodを参照していただきたい。