7月3日、Euronews NextのEgle Markeviciuteが「Data protection rules slow LLM rollout in Europe, study says」と題した記事を公開した。EUのデータ保護規制がLLMの展開を遅らせているという調査結果を詳しく取り上げている。
EU規制がLLM展開に与える影響、数字で明らかに
AI政策研究機関Governance.AIが、過去8年間(2018年6月〜2026年5月)に公開された375件のLLMを対象に、米国・EU・英国における展開状況を比較した報告書を公表した。
結果は明確だ。Meta、Google、OpenAI、Anthropicといった主要企業のモデル公開において、EUでは少なくとも11%が遅延または未公開、英国では7%が遅延または未公開となっている。データセット内の遅延・未公開68件のうち、56件(約82%)で規制要因が主因とされている。
具体的な事例として、AnthropicのClaude 3 OpusではWebアプリ版のEU展開に71日の遅延が生じた。Metaは全体で最も遅延率が高く、EUでは26%超のリリースが遅延または保留、英国でも15%に上る。
主因はGDPR、特に非テキストモダリティに壁
報告書が規制障壁の筆頭に挙げるのはデータ保護規制(GDPR)だ。GDPR(EU一般データ保護規則)は2018年5月に施行された、EU域内での個人データ収集・処理・利用を包括的に規制する法令であり、違反には全世界年間売上高の最大4%または2,000万ユーロのいずれか高い方の制裁金が科される。
テキスト以外のモダリティ、すなわち画像・音声・リアルタイム映像などの機能は、テキスト系機能に比べてより大きな障壁に直面しているという。
EUと英国はGDPR由来のほぼ同等のデータ保護法制(英国版はUK GDPR)を持つが、それでもEUの方が障壁が大きい。報告書はその理由として、EUのより積極的な執行姿勢と、LLMの学習・展開へのデータ保護規則の適用解釈が遅々として進まない点を挙げている。
なお、デジタル市場法(DMA)はEU域内でゲートキーパーと指定された大規模プラットフォームに課す競争規制で2023年5月に発効、AI法(AI Act)はAIシステムをリスク水準別に規制する世界初の包括的AI法制で2024年8月に発効している。これらの影響は今後のデータに表れてくると報告書は指摘する。
EU側も問題を認識、ただし著作権規制との矛盾も
EUもこの状況を手をこまねいて見ているわけではない。現在、欧州議会ではDigital Omnibusの審議が進んでいる。これはAIのデータ利用を実務的に機能させることを目的とした規制パッケージで、GDPRを含む複数の既存デジタル規制の改正を一括して扱う提案だ。2025年2月に欧州委員会が草案を公表しており、欧州委員会の公式ページで審議状況を確認できる。
一方で、EU著作権指令の見直しやAI Act内の著作権条項の検討も並行して行われており、著作者の権利保護の観点から適用が厳格化されれば、先進AIモデルの入手可能性がさらに制限される可能性がある。
報告書の共著者でGovAIの英国AI政策研究者であるJohn Lidiard氏はこう述べている。
「EUおよび英国の政策立案者が、規制上の障壁が自国の市民や企業の最新AIモデルへのアクセスを遅らせるリスクを適切に認識することが重要だ。我々の報告書は、欧州の規制、主にGDPRが、フロンティアAI企業にモデル公開の遅延や、場合によっては完全な未公開をもたらしたことを示している。政策立案者はAI関連規制の策定・実施にあたり、モデルアクセスの遅延をコストとして考慮すべきだ。」
エンジニア視点での含意
欧州ユーザー向けにサービスを展開するチームにとって、この調査は「なぜEUでの機能リリースが後回しになるのか」を説明する実証データとして機能する。GDPRへの対応コストや法的不確実性が、機能単位での地域展開判断に直接影響していることが数字で裏付けられた形だ。
DMAやAI Actの影響はまだデータに十分反映されていない段階であることを考えると、今後さらに差が広がる可能性もある。
詳細はData protection rules slow LLM rollout in Europe, study saysを参照していただきたい。