7月3日、CNBCが「AI is outpacing the rules, Europe's top bankers and regulators warn」と題した記事を公開した。「防衛手段も、そのための資金も、まだ見つかっていない」——ECBラガルド総裁がAIリスクについてこう発言する一方、英FCAトップは「従来の規制立案サイクルはもはや機能しない」と明言した。ポルトガル・シントラで開催されたECBの年次フォーラムを機に、欧州の主要金融当局トップが相次いでAI規制の構造的な限界を認めた格好だ。
「従来の規制サイクルは機能しない」――FCA CEOが認める
英国の金融行動監視機構(FCA)CEO、ニキル・ラティ氏は、AI時代における規制の根本的な限界を認めた。「技術は驚くほど速く進化しており、AIに関するイノベーションについては異なる考え方が必要だ」とCNBCの番組「Squawk Box Europe」で語った。
ラティ氏が指摘する核心は、従来の規制立案サイクルがもはや機能しないという事実だ。「これらの技術の一部は今や数週間、数ヶ月単位で動く。伝統的な規制立案のサイクルはそのように機能しない。市場との協調的な新たな連携方法を模索する必要がある」と述べた。
ただし姿勢は規制強化一辺倒ではない。「AIの導入を妨げたいわけではないが、リスクがどこに存在するかについては透明でなければならない」と付け加えた。英国の対応としては、金融安定理事会(FSB)によるフロンティアAIへの取り組みや、**AI安全研究所(AI Safety Institute)の設立**を挙げている。
ECBラガルド総裁:「防衛手段の資金すら見つかっていない」
欧州中央銀行(ECB)総裁クリスティーヌ・ラガルド氏は、AIが生産性向上の源泉である一方、「重大なリスク」をもたらすと警告した。
「約10年にわたってサイバーセキュリティリスク、ハッキング、データ盗難などを議論してきた。しかしAIモデルの加速と深化によって、はるかに深刻なリスクに直面している。なぜなら、それは非常に急速に進行しており、防衛手段も、そのための資金も、まだ見つかっていないからだ。」
このラガルド氏の発言は、ポルトガル・シントラで開催されたECBの年次フォーラム(正式名称:ECB Forum on Central Banking、いわゆる欧州版のジャクソンホール・シンポジウム)でAIが主要な議題として浮上したことを受けたものだ。なお、当該発言はCNBCの元記事が引用元として報じたものである。
エージェント型AIが市場の「メルトダウン」を引き起こすリスク
英国銀行(イングランド銀行)副総裁のサラ・ブリーデン氏は、シントラでの講演でエージェント型AI(人間の指示なしに自律的に行動するAIシステム)が市場ストレス時のボラティリティを増幅させる可能性を指摘した。この論点は今回の一連の発言の中でも特に注目に値する。
現時点では、取引会社がエージェント型AIを使うのは主にリサーチなどリスクの低い業務に限られている。しかし「それは急速に変わりうる」とブリーデン氏は明言した。複数のエージェント型AIが同一の市場シグナルに反応して自律的に売買を実行するようになった場合、従来のアルゴリズム取引とは次元の異なる連鎖的パニックが生じうるというのがブリーデン氏の懸念の核心だ。
対策として挙げたのが、サーキットブレーカーやキルスイッチに相当する「ガードレール」だ。「欠陥のあるAIモデルが市場全体のメルトダウンを引き起こした場合に、市場全体の取引を制限・停止できる仕組み」が必要になりうると説明した。規制サイクルの遅さという問題と、自律的に行動するAIシステムへの対処という問題が交差する点として、ブリーデン氏の発言は本記事で最も実務的含意が大きい部分といえる。
欧州の「フロンティア不在」問題
ECB副総裁ボリス・ブイチッチ氏は、欧州がAI投資とフロンティア企業の育成で後れを取っている現実を認めた。「欧州は当然、AI分野で独自の能力を開発しなければならない。ソブリンティ(技術的自立)に関する議論も多い。欧州はかつて新技術を適応させ生産性を高めてきた。しかしフロンティアに立ち続けてきたわけではない」と述べた。
規制の速度とAIの進化速度のギャップ、そして欧州独自のAI能力の不足という二重の課題が、金融システムのガバナンスを複雑にしている構図だ。
詳細はAI is outpacing the rules, Europe's top bankers and regulators warnを参照していただきたい。