7月3日、TechStartupsが「Kling AI raises $2.8B at $15B valuation with backing from Alibaba, Tencent, and Baidu」と題した記事を公開した。中国のAI動画生成プラットフォーム「Kling AI」が約28億ドルを調達し、企業評価額150億ドルに達した。注目すべきは調達額そのものだけではない。出資者の顔ぶれがAlibaba・Tencent・Baiduという、中国テクノロジー市場で長年しのぎを削ってきた三社であり、本来であれば競合関係にある巨人たちが同一案件に共同出資するという、きわめて異例の構図となっている。四半期売上は前年比4倍超という急成長が投資判断を後押ししており、AI動画生成という領域の熱量を象徴する案件として業界の関心を集めている。
Kling AIとは何か
Kling AIは、中国の動画共有プラットフォーム大手**快手(Kuaishou Technology)**が運営するAI動画生成サービスだ。テキストや画像から動画を生成する機能を持ち、コンテンツ制作・マーケティング・エンターテインメント・ビジネス用途での需要が拡大している。
AI動画生成の分野では、OpenAIの**SoraやRunway ResearchのRunway Gen-3、GoogleのVeo**などが国際市場での主要プレイヤーとして知られている。Kling AIはこれら海外勢と競合しながら、中国国内および海外市場の双方での展開を進めており、独自のポジションを築きつつある。
調達規模と評価額
Kuaishouは7月3日、投資家グループが190億元超(約28億ドル)をKling AIに投資すると発表した。調達前の企業評価額(プレマネー評価額)は1,050億元(約150億ドル)となる。
出資者として名を連ねたのはAlibaba・Tencent・Baiduという、中国テクノロジー業界を代表する3社だ。Citi(シティバンク)のアナリストはこの評価額を「おおむね市場の想定通り」としつつ、投資家の顔ぶれを「印象的」と評した。
今回のラウンドは2か月以内に追加出資者を迎え、204.5億元で正式にクローズする予定だ。取引完了後、KuaishouのKling AI持分は100%から約**68%**に低下する見込みで、Kling AIを独立した事業体として切り出す動きが本格化していることを示している。
なぜ競合三社が同じ案件に共同出資したのか
Alibaba・Tencent・Baiduは、クラウド・広告・検索・EC・エンターテインメントといった複数領域で激しく競合する関係にある。通常、こうした構図では一社が先行投資し、他社は独自の対抗馬を育てるか、後続ラウンドで別の企業を支援するパターンが多い。
三社が同一案件に並ぶ背景には、いくつかの業界構造上の要因が考えられる。AI動画生成という領域はまだ市場形成の初期段階にあり、自社単独で育てるよりも有力プレイヤーを共同で取り込む方が、プラットフォームとしての活用機会(API連携・コンテンツ配信・広告活用など)を確保しやすいという判断が働いた可能性がある。また、Kling AIの成長速度と評価額の規模感が、いずれかの一社が独占するには大きすぎる案件になっていたという現実的な事情も否定できない。
※編集部の考察:競合他社が共同出資に応じた背景として、中国テクノロジー業界における「AI覇権をいち早く押さえる」という政策的・戦略的プレッシャーも一定の影響を与えている可能性がある。ただし、この点は元記事では明示されていない。
四半期売上が前年比4倍超
投資判断の背景として、業績の急成長がある。Kling AIは2026年3月末時点の四半期売上が6億5,000万元を記録し、前年同期比で4倍以上に拡大した。AI動画ツールへの需要が実際のビジネス数字として表れている形だ。
Kuaishouが5月にKling AIの再編検討を公表してから約2か月でこれだけの出資を固めたことは、交渉の速度という観点でも業界関係者の関心を集めた。売上成長の実績が交渉を加速させた主因とみられる。
中国AI投資全体の文脈
今回の調達は、中国AIセクター全体の資金流入が加速する流れの中で起きている。2026年上半期、テクノロジー企業による中国本土株式市場でのIPO調達額は約31億ドルに達し、前年同期比で5倍以上に膨らんだ。国内外の投資家が中国AI関連銘柄・案件への配分を積極的に増やしており、Kling AIはその流れを体現する案件の一つとなった。
一方で、急速な評価額の上昇が実態を先行しているとの見方も市場の一部には存在する。発表当日、Kuaishouの株価は一時6.9%上昇したが、その後上げ幅を解消してほぼ変わらずで引けた。株式市場の反応は、成長への期待と慎重さが交錯していることを示唆している。それでも今回の調達規模と投資家の顔ぶれは、Kling AIを中国の最高評価額クラスのAIスタートアップの一角に位置づけるものとなった。
次の注目点
CitiのアナリストはReuters取材に対し、市場の焦点は今後Kling AIの次期製品アップデートに移るとの見方を示した。評価額・投資家構成ともにひとまず織り込んだ段階として、次は技術面での差別化が問われることになる。
SoraやRunwayといった海外競合との品質・機能比較、海外市場における規制対応・ブランド浸透、そして独立事業体としてのKling AIが親会社Kuaishouから切り離された後にどのような経営判断を下していくか——これらの点が、今後の評価を左右する主要な変数となるだろう。
詳細はKling AI raises $2.8B at $15B valuation with backing from Alibaba, Tencent, and Baiduを参照していただきたい。