7月3日、Ars Technicaが「OpenAI floats giving US 5% stake to win over AI haters」と題した記事を公開した。OpenAIが米政府にOpenAI株式の5%を無償提供しようとする一方、バーニー・サンダース上院議員は50%徴収で対抗するという——この構図が、AIの利益配分をめぐる米国内の対立を象徴している。「AI革命の恩恵を誰が受け取るのか」という問いが、いよいよ企業と政府の正面交渉として顕在化してきた。
「AIウェルスファンド」構想の背景
OpenAIは今春、「金融市場に投資していない市民も含め、すべての市民にAI主導の経済成長への持ち分を提供する」AIウェルスファンドの創設を提案した(Financial Times報道)。同社のブログでも、「AI主導の未来」には「価値を生み出すシステムへの持続的な持ち分を人々に与える新たなアプローチ」が必要になるだろうと述べていた。
「AIウェルスファンド」とは、AI企業が生み出す経済的利益の一部を国家または市民に還元するための基金構想で、政府や有識者の間で議論が広がりつつある概念だ。OpenAI自身がこの議論を主導しようとしている点は、次節で触れる企業構造転換の文脈と切り離して考えることはできない。
こうした構想の背景には、AIによる雇用喪失への懸念、サイバーセキュリティリスク、そして大規模データセンターに関連する環境・社会問題など、米国内でAIへの不信感が高まっていることがある。
5%株式提供という「概念的提案」——企業構造転換との関係
今回FTが報じたOpenAIの構想では、米国に対してOpenAI株式の5%を無償提供することで、アメリカ国民がAIに対してより大きなコントロールを持てると主張している。
OpenAIはすでに、トランプ政権のスコット・ベッセント財務長官やハワード・ラトニック商務長官、そして上院議員のバーニー・サンダース(無所属、バーモント州)と協議を進めているという。
ただし、この構想はあくまで「概念的」なものにとどまっている。実現には議会が関与し、米国がAI企業の株式を取得するための法的メカニズムを整備する必要があるとFTは指摘している。
※編集部の考察: タイミングとして注目すべきは、OpenAIが現在、非営利法人から営利企業(Public Benefit Corporation)への構造転換を進めている点だ。この転換をめぐっては規制当局や批判的な株主からの圧力が続いており、今回の「5%提供」構想が誠実な利益還元の提案なのか、それとも規制圧力をかわすための政治的な身振りなのか、真意の解釈は分かれる。少なくとも、AI規制の機運が高まる中でトランプ政権との関係を維持しつつ議会の批判をかわしたいというOpenAI側の利害は、提案の文脈として押さえておく必要がある。
サンダースは「全然足りない」
交渉の最大の障壁となっているのが、サンダース上院議員だ。
先月、AP Newsが伝えたところによると、サンダースはOpenAIのサム・アルトマンCEOとの協議において、国民が持つべき持ち分についての立場が「依然として大きく乖離している」と述べていた。
サンダースが提示している対案は、OpenAIの5%提供とは次元が異なる。同議員の立法案では、主要AI企業に対して株式の50%を一度限りの税として徴収し、約7兆ドルの資金を生み出すことを想定している。この資金は米国民への直接給付や、医療・教育・住宅といったプログラムへの投資に充てられる。
この法案の正式名称はAP Newsの報道時点では明示されていないが、サンダース議員のオフィスが提示した骨子として広く報道されている。現時点で法案は審議入りしておらず、議会内での賛同を集める段階にあるとみられる。
また、サンダースが主張するAI民主化の核心は金額だけではない。同議員は「民主的AI独立委員会(Independent Commission for Democratic AI)」の設立を求めており、大統領が委員を指名し上院が承認するこの委員会が、主要AI企業の有害な意思決定を議決権で阻止できる仕組みを提唱している。
「普通の人々に悪いことが起きないようにし、AIが実際に普通の人々を傷つけるのではなく利益をもたらすよう、国民がテーブルに着く重要な席を持たなければならない」
— バーニー・サンダース上院議員(AP News)
交渉の行方
OpenAIとサンダースの隔たりは大きく、今後も議会を巻き込んだ交渉が続くとみられる。5%対50%という数字の差は単なる量の問題ではなく、「企業が自発的に譲歩する形での利益還元」と「国家が強制的に再分配を実現する仕組み」という、まったく異なる思想的立場の衝突でもある。
OpenAIとしては、トランプ政権との良好な関係を維持しながら議会左派の批判を最小化したい思惑がある。一方でサンダースは、AIによる富の集中を放置すれば社会的格差がさらに拡大するという危機感から、妥協の余地を設けない姿勢を崩していない。AI技術の急速な進展に伴い、「誰がAIの利益を受け取るべきか」という問いは、単なる企業と政府の交渉を超えた社会的議論に発展しつつある。
詳細はOpenAI floats giving US 5% stake to win over AI hatersを参照していただきたい。