7月1日、Anthropicが「Claude Science, an AI workbench for scientists」と題した記事を公開した。科学者向けAIワークベンチ「Claude Science」の正式ベータ提供開始について詳しく紹介されている。
「2年かかったレビューが量産できるようになった」
Claude Scienceの価値を端的に示すのが、Allen Instituteの神経科学者Jérôme Lecoqの事例だ。彼のチームはClaude Scienceを使って、約20個のカスタムスキルから成るマルチエージェント「計算論的レビューテンプレート」を構築した。
仕組みはこうだ。サブエージェントが数千本の論文を読み込み、各論文の中心的な主張と定量的知見を抽出してエビデンスデータベースに格納する。次に別のエージェントがナラティブ構造を組み立て、セクションごとに専門エージェントへ執筆を委譲。各セクション内では、エビデンスデータベースから直接、複数研究を横断する定量的な図を生成するエージェントも動く。さらに、actor-criticペア(1つのエージェントがコンテンツを生成し、別のレビュアーエージェントが精度と引用の正確性を評価する構成)が品質を担保する。このactor-criticパターンは、生成役と評価役を分離することでハルシネーションを抑制するマルチエージェントAIの典型的な設計手法であり、近年の研究用エージェント基盤で広く採用されている。
結果として、以前は2年かかっていた長大なレビュー論文を量産できるようになった。現在すでに、100ページを超えるものを含む約10本のレビューが出来上がっており、引用はすべてレビュアーエージェントがチェック済みだという。
Claude Scienceとは何か
Claude Scienceは、研究者が日常的に使うツール群を単一の研究環境に統合するアプリだ。PubMed、Jupyter、R、クラスター端末など、これまで研究者がバラバラに使い分けてきたツールを1つの会話インターフェイスから操作できる。
大きな特徴は3点ある。
再現性を担保したサイエンティフィックアーティファクト。図を生成する際、Claude Scienceはその図を生成したコードと実行環境、平文による生成手順の説明、そして全メッセージ履歴をセットで保存する。「グリッドラインを消して」「Y軸を対数スケールに変えて」と自然言語で指示すれば、エージェントが自身のコードを編集して再生成する。3Dタンパク質構造、ゲノムブラウザトラック、化学構造などもネイティブでレンダリングされる。

コンピューティングリソースの自動管理。タンパク質フォールディングや大規模ゲノミクスパイプラインのような重い処理は、これまで研究者がクラスタージョブの設定・投入・監視を手動でこなす必要があった。Claude Scienceはこの工程を代行し、ラボが既に持つHPCクラスター(SSH経由)やModalのオンデマンドGPUへジョブを投入する。1GPUから数百GPUへのスケールアップも自動で行う。データは既存インフラ上に留まり続けるため、大規模・機密データも外部に送出する必要がない。

初日から使えるドメイン知識。ゲノミクス、シングルセル解析、プロテオミクス、構造生物学、ケモインフォマティクスなど向けの60以上のスキルとコネクターがあらかじめ設定されている。UniProt、PDB、Ensembl、Reactome、ClinVar、ChEMBLなど独自スキーマを持つ複数のデータベースを、自然言語の質問1つでまとめて横断検索できる。NVIDIAのBioNeMo Agent Toolkitとも統合されており、Evo 2、Boltz-2、OpenFold3といった生命科学モデルへネイティブに接続できる。

他の活用事例:wet lab系から疫学系まで
元記事では分野の異なる2つの事例が紹介されており、Claude Scienceの効果が特定の領域に限らないことを示している。
Manifold Bioは、組織ターゲティング医薬の候補バインダーを何百万件も評価するプロセスにClaude Scienceを投入した。表面発現、トラフィッキング、安全性を評価して候補をランク付けする作業を、社内の過去プログラムのコンテキストを組み込んだ上でエンドツーエンドで実行できた点が、汎用コーディングアシスタントとの違いだとManifoldは述べている。湿式実験データの大規模スクリーニングという、コンピュータサイエンスのバックグラウンドを持たない研究者にとってハードルの高い領域での活用例だ。
一方、UCSFのBrain Tumor Centerでエピデミオロジストとしてグリオーマのゲノム疫学を研究するStephen Francis准教授の事例は、データ解析が主体の疫学研究への応用を示す。数千の微小効果を持つ生殖細胞系列バリアントが個人の感受性にどう組み合わさるかを調べる解析で、従来比で約10分の1の時間で包括的な生殖細胞系列ワークアップを複数のアプローチで完了できるようになったという。チームによる独立検証でも、速さと堅牢性を両立した結果が確認されている。
Lecoqの文献レビュー自動化、Manifoldの大規模スクリーニング、Francisの多変量ゲノム疫学と、事例の性質はそれぞれ異なるが、いずれも「既存の専門知識とデータをコンテキストとして活用しながら、反復・大量処理の部分をエージェントに委ねる」という共通の構造を持っている。
利用条件とAI for Scienceグラント
Claude Scienceは現在、macOSおよびLinux向けにベータ提供中で、Claude Pro、Max、Team、Enterpriseプランのユーザーが利用できる。TeamおよびEnterpriseユーザーは管理者による有効化が必要だ。学術機関および非営利研究機関の科学ラボ向けには、割引シートのTeamプランも提供されている(詳細はこちら)。
また、最大50プロジェクトに対して最大3万ドル分のクレジットを提供する「AI for Science」プログラムを立ち上げている。Modalも対象プロジェクトに最大2,000ドルのコンピュートを提供する。生物学・バイオメディカル研究を早期の重点領域として、申請期限は2026年7月15日、プロジェクト期間は2026年9月1日〜12月1日。こちらから申請できる。
詳細はClaude Science, an AI workbench for scientistsを参照していただきたい。