大学時代にゲーム制作チームを立ち上げ、自作ゲームをコミケで販売。卒業後は開発支援会社でWeb開発を一通り経験し、社会人2年目の後半に独立した。以後はフリーランスとして約4年、開発の受託とSNSマーケティング事業を両立させながら、医療系システムからエンタメ、EC、VR/XRまで幅広い開発に携わってきた、Kさん(28)。
そんなKさんが2026年、フリーランスから正社員へと戻る決断をした。選んだのは、マーケティング領域の上場IT企業。人とのつながりが少しずつ広がりにくくなり、収入も不安定になり、そして「成長を一緒に考えてくれる人がいない」と感じた末の選択だった。なぜいま「組織」を選んだのか。フリーランスの自由と限界、年収より優先したもの、そして同じようにキャリアで悩むエンジニアへの本音を伺った。
ゲーム制作から、開発支援会社、そしてフリーランスへ

Q. フリーランスになる前のキャリアから、簡単に伺えますか?
もともとは、大学時代からお話しした方がいいかなと思います。学生の頃に、自分でゲーム制作チームを立ち上げて、チームで作ったゲームをコミケで販売する、といったことをやっていました。プログラミングも少し触っていたので、案件を受けてみる練習のようなことも、その頃から始めていました。
卒業後は、開発支援会社に就職しました。お客様先に常駐する形でキャリアをスタートしています。最初はHTMLも触ったことがない状態だったのですが、そこからReactやPHP/Laravel、AWSを使ったバックエンドまで、Web系のシステム開発を一通り経験させていただきました。お客様先での業務や、後輩を育成する経験も、その1年半で積むことができました。
Q. そこから、どのように独立されたんですか?
ちょうど同じ頃に、大学時代のつながりから、副業として開発の案件をいただくことが増えてきていました。加えて、エンジニアの仕事と並行して、自分でもSNSマーケティングの事業に挑戦してみたいという思いもあって。いろいろなことが重なり、「一度、フリーランスとしてやってみよう」と考えるようになりました。社会人2年目の後半に独立しています。若かったですし、一度チャレンジしてみてもいいかな、という気持ちでしたね。
「最初は、充実していた」。フリーランス初期の日々

Q. 独立されてから、最初の頃はいかがでしたか?
実は、最初はそれほど厳しくはありませんでした。大学時代のつながりが多いと、フリーランスはやりやすいんです。「若いし、試しに任せてみよう」とお仕事をくださる方が多くて。最初に勤めていた開発支援会社の社長からも、独立後に継続してお仕事をいただいたりしていました。
もともと、フルリモートで働いてみたいという思いもあって独立したので、場所にとらわれずに働けること自体も楽しくて。最初の1〜2年は、本当に充実していたと思います。
Q. フリーランス期は、開発の受託とSNSマーケティング事業を両立されていたんですね。開発の方は、どんな内容を?
そうですね。開発は、ReactやNext.js、PHP/Laravelを使ったWeb開発が中心でしたが、UnityでのVR/XR開発にも携わっていました。医療用の解剖学学習アプリや、医療系の業務システム、エンタメ、ECなど、ドメインは幅広かったです。要件定義からインフラ構築、運用保守まで一通り担当しますし、直近では3〜5名規模のプロジェクトリードも経験して、レガシーシステムのモダン化や、クリーンアーキテクチャでの設計導入を主導したりもしました。「単なる実装で終わりたくない」という気持ちは、この頃から強かったように思います。
広がりにくくなった、人とのつながり。フリーランスで感じた転機
Q. 順調だったところから、どこかで変化を感じられたと。
そうですね。理由の一つは、人とのつながりが、少しずつ広がりにくくなっていったことです。これは正直に言うと自分の至らなさなのですが、大学時代に時間をかけて築いてきた関係を、だんだん自分から大切にしきれなくなっていってしまって。フリーランスだと何でも一人でできてしまうぶん、仕事につながるご縁を育てる時間を、あまり取らなくなっていったんです。
案件が重なってくると、一日中コーディングをし続ける毎日になります。そうすると人と会う機会が減ってしまうので、これも新しい出会いを広げにくくなっていった一因だったと思います。やがて仕事が少しずつ途切れるようになると、収入への不安も出てくる。これがかなり大きな課題でした。もう一つは、年齢です。25歳を超えてくると、「勢いがあるから任せてみよう」という理由でお声がけいただくことは、だんだん少なくなってくる。そうしたことが重なって、フリーランスを続けるのが、少しずつ難しくなっていきました。
Q. 「組織に戻ろう」と思われた、決定的なきっかけは?
自分の成長やキャリアを考えたときに、フリーランスには、それを一緒に考えてくれる立場の人がいないんです。社員であれば、教育制度があったり、1on1で「自分がどうなっていきたいか」に合わせて仕事を一緒に決めてくれる上司がいたり、案件の進め方に寄り添ってくれる方がいる。これは、心理的な安全性がとても高いことだと思います。
フリーランスだと、案件ごとに関わる方が変わって、人間関係がリセットされてしまうので、安心して相談できる信頼関係を築きにくい。会社として「個人を成長環境に置く」というリスクを取っていただけることも、基本的にはありません。それが積み重なってくると、だんだん苦しくなってくる。最後の案件に入ったときに、「これは一度、自分をしっかり鍛え直さないといけないな」と感じました。それが、就職を決めた瞬間でした。
転職で大切にした「3つの軸」

Q. 転職活動では、どんなことを軸に置かれていましたか?
最終的に、3つあったと思います。
1つ目は、自分が役職的に成長できること。リーダーや後輩育成の経験を積めれば、次にディレクターやPMのポジションに進んでいけるのではないかと考えていました。フリーランスのままだと、そこにどうやって近づけばいいのか分からなかったですし、自分から大きな案件を取りにいくのも、正直なところ怖さがありました。それを、より安心して挑戦できる環境がいいなと思っていました。
2つ目は、いろいろな方との関わりを、もう一度つくり直したいということ。そして、組織で働くとはどういうことかを学べるくらい、社内のコミュニケーションがしっかり取れること。困ったときに相談できる、心理的安全性ですね。
3つ目は、金銭面の安定性です。これは意外と、自分にとって重要でした。特に最後の方は、結構大きかったように思います。
「フリーランスの頃は、キャリアを考えていなかった」。転職活動で得た気づき
Q. 転職活動を通じて、気づいたことはありますか?
一番大きかったのは、「自分のキャリアと向き合うこと」そのものの大切さに気づけたことです。正直に言うと、フリーランスの頃は、自分のキャリアについてじっくり考えられていませんでした。目の前の案件をこなすことが中心で、人生やキャリアについて落ち着いて相談できる相手も、ほとんどいなかったんです。
それが、転職活動を始めて、面接官や採用担当の方とお話しする中で、自分の価値観や「何を大切にしたいのか」が、どんどん明確になっていきました。一度立ち止まって、自分のキャリアと向き合う時間を持てたこと自体が、すごく大きかったなと思います。
進め方としても、いきなり選考に入るよりは、カジュアル面談を入り口にするやり方が、自分には合っていました。最初の頃、下調べが足りないまま面接に臨んで、うまくいかなかった経験があって。まずは気軽に話せる場から、自分の考えを整理していくのが、よかったですね。
決め手は「エンジニアの強みを持ったまま、ビジネス側へ」
Q. 最終的に、入社先を決められた理由は?
入社先の面談に出てきてくださった方が、私のキャリアに対して「こういう方向に進んでいくといいのではないか」と、とても的確に提案してくださったんです。それが、すごく腑に落ちました。
私はずっとエンジニアをやってきたのですが、だんだんビジネス側にも関わっていきたいと思うようになっていて。ただ、どうキャリアを重ねればそこに近づけるのかが、自分では分かっていませんでした。その会社はマーケティングにも深く関わっていて、コンサルティングも手がけていますし、社内異動もできる。「エンジニアという強みを持ったまま、ビジネス側に行ける人材になれる」「それは会社としても求めていることだ」とお話しいただいて。伺っていて、もう一瞬で腑に落ちました。あまり悩むこともなく、自然と「ここだ」と思えた感覚です。
Q. 迷いはなかったですか?
迷いもありました。実はもう一社、年齢の近いメンバーで、楽しく挑戦できそうな会社とも迷っていて。「どちらに行くか」「誰と一緒に働くか」で、かなり悩んだ記憶があります。ただ最終的には、自分のキャリアの方向性──エンジニアの強みを持ったまま、ビジネス側へ──という明確なビジョンを示していただけたことを、優先して決めました。
入社1ヶ月。「ギャップがないのは、年収で決めなかったから」
Q. 入社して1ヶ月、想定とのギャップはありますか?
自分の感覚としては、ギャップはありません。どうしてギャップがないのだろうと考えてみたのですが、おそらく、年収以外のところで決めたからだと思います。年収はあくまでサブで、不満がなければ十分、という感覚でした。それよりも、自分が求める成長がどれくらいできるのか、必要なものがちゃんと揃っているのか、を明確にしたうえで選んだ。だからこそ、しっくりきているのだと思います。逆に、年収を基準に入ると、1〜2年で辞めてしまう方も少なくない気がします。
Q. 会社組織に入って、「フリーランスと違うな」と感じられたところは?
私が入った会社は、自律した方が多くて、それぞれが自分のペースをコントロールしながら働いているんです。なので、働き方の面でのギャップは、あまり感じませんでした。一番違うのは、やはり安定していることですね。大手企業向けの案件が多く、案件の供給が安定しています。「案件を持ってくる人・実装する人・調整する人」がきちんと分かれているのも初めての経験で、これはフリーランスでは決して得られなかったものでした。純粋に、少し大きめの会社で働いてみたかった、という思いもあったんです。
働き方自体も、フレックスかつリモートも可能で、業務時間を細かく管理されるようなこともありません。しっかりと責任を果たしていれば自由度の高い環境なのですが、そのうえで給与が保証されている。しかも、フリーランスで頑張っていた頃と大きく変わらない金額を提示していただけた。これも、決め手の一つでした。
Q. 人との距離感は、いかがですか?
そこは、はっきりと違いを感じます。チームがあるので、1ヶ月でずいぶん皆さんと打ち解けて、案件を一緒に進めて、それが終わった後も関係が続いていく。次の案件でまたご一緒できれば、さらに仲良くなれる。フリーランスだと、案件が終わったら、そのまま二度とお会いしないこともあります。この「続いていく関係」が、個人的には一番うれしいところですね。
組織の中で見えた「法人視点」という学び
Q. 組織に入って、新しく学べていることは?
他の部署──セールスやマーケティングのチーム──と1on1をさせていただく機会があったり、社内で「こういう事業戦略で進めようと思っている」という話を聞けたりします。これが、とても勉強になるんです。
会社としての方針があって、商品があって、人という資産もある。「今はこういう状態だから、こう進んでいく」というのを、実現可能性高く描いて示せる。人事も面白くて、「どんな人に入っていただくかで会社の方向性が変わる」「入った方がきちんと定着できるか」を意識して、ものすごく改善を重ねていらっしゃる。こうしたことは、フリーランスでは考える必要がなかったことなんです。会社だと、いわば理想のリソース配分を考えられる。一人だと、そこに思いを巡らせること自体ができませんでした。それができるだけでも、楽しいんですよね。
Q. これからの目標を教えてください。
ゆくゆく、1〜2年後には、自分から新しい提案──新しい事業や商品──を持っていって、受注につなげる。それを一つのゴールにしようと思っています。これは個人的に決めていることなのですが(笑)。エンジニアという強みを持ったまま、ビジネスをつくる側に回っていきたいです。
フリーランスに向いている人、向いていない人
Q. ご自身の経験から、フリーランスに向いている人・向いていない人は、どんな方だと思いますか?
個人的には──フリーランスも、結局は「1つの法人」だと思うんです。だからこそ、どこかの会社や業界に対して、「この個人として、この武器がとても強い」と言える差別化があるかどうか。そこが大きいと思います。もし、際立った強みがまだないのなら、一度会社に入って、その武器が見つかるまで力をつけるのも、十分にありだと思います。最近は、就職しても自由度の高い会社がたくさんありますから、不安定さがつらくなってきた方には、就職という選択も合っていると思います。
ただ、向き不向きというよりも、タイミングなのかもしれません。同じ人でも、不安定さを楽しめる時期もあれば、安定が欲しくなる時期もある。私自身、もしフリーランスに戻るとしても、お客様やつながりがあって「フリーランスでも十分にやっていける」と分かっている状態であれば、また戻ると思います。要は、その時々の自分の状態と、きちんと向き合うことなのかなと思っています。
最後に ── キャリアに悩むエンジニアへ
Q. かつてのご自身のように、フリーランスでキャリアに悩んでいる方へ、メッセージをお願いします。
「環境を変えることは、意外と大事だ」というのが、私が一番お伝えしたいことです。フリーランスが自分に合っていると思うなら、続けたほうがいい。違うと感じるなら、環境を変える。どこに変えるかは人それぞれなので、自分なりの条件を持って選べばいいと思います。
そのためにも、まずは一度、自分のキャリアときちんと向き合ってみてほしいです。続けるにしても、変えるにしても、しっかり向き合ったうえでの選択なら、納得して次の一歩を踏み出せると思います。迷っている方は、そこから始めてみるのがいいのではないかなと思います。