7月1日、The Next Webが「UiPath's Daniel Dines on AI, jobs, and anxiety」と題した記事を公開した。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールで知られるUiPathの創業者Daniel Dinesが自社ポッドキャスト「The Path Forward」で語った内容は、自動化ベンダーのCEOとは思えない慎重さに満ちている。
オフィスワークの自動化で巨万の富を築いた人物が「AIで急いで人を切るな」と訴える——この逆説的な構図そのものが、このインタビューの核心を示している。UiPathは現在もエンタープライズ向け自動化プラットフォームを世界規模で展開し、ニューヨーク証券取引所に上場する主要AIインフラ企業のひとつだ。その創業者がポッドキャスト「The Path Forward」という自社メディアを通じて語る慎重論は、単なる謙遜とは受け取りにくい重みを持つ。
「データセンターにアインシュタインはいない」
AIをめぐる過熱した議論の中に「データセンターに5000万人のアインシュタインが存在する」という表現がある。Dinesはこれを「半分しか正しくない」と切り捨てる。
モデルは読み込んだあらゆるものの平均値だ。そして平均には、センスがない("An average by definition doesn't have a taste")。
彼はこれを実際に試した。特定のスタイルで小説を書かせると、結果は凡庸だった。「センス」は記憶ではなく、生きた経験から生まれる。彼はスキーを例に挙げる——スキーに関するすべての本を暗記してもゲレンデで滑れるようにはならない。転んで初めて覚えるのだ。
さらに実用的な問題も指摘する。どの企業も同じフロンティアモデル(GPT-4やClaudeなど最先端の大規模言語モデル)を使い、同じ基盤モデルを利用している。異なるデータを与えたところで、そのモデルが自社の顧客やプロセスを「理解」するわけではない。「私たちの記憶は私たちのアイデンティティではない」とDinesは言う。
2つの台帳で仕事を測れ
Dinesが経営者に突きつける問いは具体的だ。契約書をレビューする弁護士を考えてほしい。目に見える成果物は署名された契約書であり、AIはその速度を上げられる。しかし見えない成果——後輩の育成、顧客との関係維持、言語化されていない暗黙知——は台帳に載らない。
彼が提唱するのは「2つの台帳」を持つことだ。可視アウトカムの台帳と、不可視アウトカムの台帳。片方だけ見て人を切ると、測ったことすらない価値を破壊することになる。
この発言は実際の産業動向を背景にしている。自動車メーカー各社はすでに2万人超のホワイトカラーを削減しており、AIを「少人数で多くをこなす手段」として打ち出すCEOも増えている。これは2年前とは真逆の論調だ。
また、AIエージェントが「汚いプロセス」にそのまま接続できるという幻想にも警鐘を鳴らす。多くの企業では「誰が請求書を承認できるか」すら文書化されておらず、その知識は人々の頭と部門間に分散している。それを整理するには週末ではなく、数年単位の時間がかかるとDinesは言う。
仕事を失う恐怖より深い問題——「アイデンティティの危機」
会話の中で最も重みを持つ話題は、タスクの喪失ではなくアイデンティティの喪失だ。Dinesが関心を持つきっかけになったのは、弁護士の友人だった。彼女の恐怖は「仕事がなくなること」ではなく、「自分のアイデンティティが無意味になること」だったという。
Dinesは「AIが自我を持つ」という見方には否定的だ。彼にとってAIは電気に近いツールであり、同僚ではない。その根拠として引き合いに出すのが、米国の哲学者ハリー・フランクフルトが1971年の論文で提唱した「二階の意志(second-order desire)」という概念だ。これは「自分がどんな欲求を持ちたいかについて欲求を持つこと」、つまり自己の意志そのものを対象とする反省的な欲求を指す。Dinesはこう整理する——モデルは何かを「欲する」ことができる。しかし「欲したいと欲する」こと、つまりより良くなりたいと思う意志は人間にしかない。
真に推論する機械を作ろうとすれば、「痛みを注入する」方法を見つけなければならず、誰も理解できないフランケンシュタインを作るリスクを冒すことになる、と彼は続ける。
同僚のMorarが補足:好奇心は渡せない
同席したUiPathのAndrada Morarは人間的な側面を補強する。モデルには記憶があるが、優秀でありたいという動機がない。AIは知識を渡せても、好奇心や困難に踏みとどまる粘り強さは渡せない。
彼女が自チームに求めるのもその特性だ。また、企業がジュニア人材の採用と育成をスキップすれば、数年後にシニアリーダーがいなくなるとも指摘する。
カスタマーサポートがボット化され、ユーザーが「人間と話したい」と画面を叩く摩擦も例に挙げる。それは「人間にしか提供できないもの」があることの証拠だという。
慎重論の信頼性と限界
もちろんUiPathはそのエージェントとロボットを売って利益を得ている。「変革は長く、慎重で、人手がかかる」というメッセージは、裏を返せば長期的な大型契約の正当化にもなる。それでも、自動化で財を成した人物からの慎重論は聞く価値がある。ポッドキャスト「The Path Forward」はUiPathが運営する経営者向けコンテンツであり、今回の発言も同社のブランディングの一環である点は念頭に置く必要がある。それを差し引いてもなお、AIによる人員削減を急ぐ経営者に対して「2つの台帳」という具体的な思考フレームを提示した点は実践的だ。
詳細はUiPath's Daniel Dines on AI, jobs, and anxietyを参照していただきたい。