7月1日、Daily Mail(英国発の大手大衆紙)が「Ford's AI experiment backfires as car giant rehires humans」と題した記事を公開した。フォードがAIへの過度な依存から品質問題を招き、熟練エンジニアを呼び戻すことで立て直しを図った経緯について詳しく紹介している。
AIだけでは品質は上がらなかった
フォードは過去3年間で350人超のベテランエンジニアを採用した。その多くは元フォード社員や部品サプライヤー出身者だ。きっかけは、AIシステムへの全面依存が品質改善に結びつかなかったという失敗の認識である。
車両ハードウェアエンジニアリング担当副社長のCharles Poon氏は率直に認めた。
「誤った認識があった。AIを導入し、設計要件を学習させれば高品質な製品が生まれると思っていた」
さらにこう続けた。
「人工知能は素晴らしいツールだが、学習に使う情報の質を超えることはできない。自動化・機械学習・AIツールを最大限に活用するには、最も経験豊富な人材によって訓練される必要がある」
COO(最高執行責任者)のKumar Galhotra氏も、自動化された品質管理システムへの依存だけでは「望ましい結果」が得られなかったと認め、部品が製造ラインに届く前の段階で故障の兆候を「探し出す」ために技術専門家を呼び戻したと説明した。
「グレイビアード」エンジニアの役割
採用されたエンジニアは社内で「グレイビアード(gray beard)」と呼ばれる、複数の製品サイクルを経験してきたベテラン層だ。彼らの主な役割は、フォードのAIツールの再プログラミングと、品質問題の根本原因の特定にある。
Poon氏は「過去数年、長年の経験を持つエンジニアの知見に十分な注意を払っていなかった」と述べており、属人的な暗黙知をAIに正しく学習させることを怠っていたことが問題の核心だったとしている。
Galhotra氏はあわせて、品質問題のトラブルシューティングを目的とした義務参加の定例会議を導入したと明かした。組織・文化の両面から立て直しを図った形だ。
成果は数字に出た
この戦略の効果は指標に表れている。なお以下で言及するJ.D. Power 初期品質調査(IQS)の結果は、元記事が公開された2025年時点で報じられたものだ。
- J.D. Power 初期品質調査(IQS)においてフォードはメインストリームブランドの中で首位を獲得。トヨタやホンダを上回り、全体でもポルシェとジェネシス(いずれも高級ブランド)に次ぐ3位となった。前年は同調査でメインストリーム10位・業界平均以下だったことを踏まえると、大きな改善だ。
- F-150ピックアップ、スーパーデューティトラック、マスタングの3モデルが各カテゴリで最高評価を獲得した。
- CEO(最高経営責任者)のJim Farley氏はBloomberg TVで「保証コストとリコールコストが下がっている。これらが合わせて数億ドル規模のコスト削減に貢献している」と述べた。
- 今年の10億ドルコスト削減目標も達成軌道に乗っているという。
一方で課題も残る。フォードは依然として米国で最もリコール件数の多い自動車メーカーであり、今年の保証・材料コストは約10億ドルに上る見込みだ。Galhotra氏はリコールを「遅行指標(lagging indicator)」と位置付け、新型車が市場に出回るにつれて数字は下がると予測している。
AIは「ツールの一つ」に過ぎない
フォードの広報担当者はAIを切り捨てたわけではないと強調した。
「AIの活用はこの取り組みのほんの一部に過ぎない。経験と専門知識、そして現代の製造ツールに依拠した文化とツールボックスの中の一つの道具だ」
元記事が伝えるフォードの教訓は、AIが学習データの質に依存するという本質的な制約にある。製造業における品質管理のような高度に暗黙知的なドメインでは、ベテランの知見をどうAIに落とし込むかという「前工程」が、ツール選定や導入よりも重要になり得ると同社幹部は認識している。
※編集部の考察:大規模なAI投資が進む自動車・製造業界にとって、このフォードの失敗と回復のプロセスは参照価値が高い。AIの導入効果はデータ品質と人的知見の整備と不可分であることを、実績指標とともに示した事例といえる。
詳細はFord's AI experiment backfires as car giant rehires humansを参照していただきたい。