6月30日、Los Angeles Timesが「South Korea bets $518 billion on AI chipmaking boom」と題した記事を公開した。韓国のSamsungとSK HynixがAI需要に対応するため、総額約518億ドル(約80兆円)を半導体製造拠点の新設に投じると発表したことを報じている。
世界メモリチップの3分の2を握る2社が同時に動く
SamsungとSK Hynixはともに、世界のメモリチップの約3分の2を生産している。その2社が同じ日に、同じ地域への大規模投資を発表した点が今回の核心だ。
両社は各2棟、合計4棟のファブ(fabrication plant=半導体製造工場)を韓国南西部に建設する。投資総額は合算で800兆ウォン(約518億ドル、約80兆円)。これまで両社の主要製造拠点はソウル南方の京畿道(キョンギド)に集中していたが、南西部への展開は大きな地理的転換を意味する。
発表にはイ・ジェミョン大統領も同席し、政府主導のイニシアティブとして位置づけられた。
なぜ「南西部」なのか
今回の立地選定には、純粋な技術・産業的理由だけでなく、地域格差の是正という政治的文脈もある。
韓国南西部は歴史的に大規模な工業拠点を持たず、経済発展で他地域に後れをとってきた地域だ。かつてイ・ジェミョン大統領の支持基盤でもある。Samsungの新ファブは南西部の都市・光州(クァンジュ)に建設される予定で、軍用飛行場の移転跡地なども候補地として検討されている。
インフラ面では課題も残る。SK Hynixのチェ・テウォン会長は「広大な用地に加え、電力・水・熟練労働者が必要な複雑で大規模なプロジェクトだ」と述べ、同社が京畿道の主要製造拠点を整備するのに9年かかった実績を引き合いに出した。南西部の電力・水供給が半導体ファブの需要を賄えるかという懸念に対し、政府側は「この地域の再生可能エネルギーの強みが、クリーン電力利用への国際的な圧力に対応するうえで優位性になる」と反論している。
AI需要が既存拠点の容量を圧迫
Samsung・SK Hynix両社は、データセンター向けをはじめとするAIインフラへの世界的投資急増を背景に、直近で過去最高益を記録している。特にSK Hynixは、NVIDIAのAI向けGPUに搭載されるHBM(高帯域幅メモリ)の主要サプライヤーとして需要拡大の恩恵を直接受けており、両社の生産ラインはAI向け製品へのシフトが加速している。
京畿道の既存製造拠点が予想より早くフル稼働に達する可能性があると、政府・業界関係者は指摘する。AIの普及がAI産業用ロボットや自動運転車などへ広がることで、メモリチップ需要はさらに伸びるとの見方が政府・業界関係者の間で共有されており、新たな生産キャパシティの確保は急務と見なされている。
「半導体・物理AI・AIデータセンター」の3本柱
発表の場でイ・ジェミョン大統領は国家戦略の方向性を明示した。
「人工知能の中核的な構成要素を、他のどの国よりも速く確立しなければならない。半導体、フィジカルAI、AIデータセンターが次の大きな飛躍への3本柱だ」
政府はさらに、国全体の半導体エコシステム構築計画を示した。具体的には、南東部の既存拠点がチップ部品・材料の生産を拡大し、中部の忠清(チュンチョン)地域がチップのパッケージング専門地帯となり、データセンターは全国各地に分散整備するという役割分担だ。
こうした国家主導の半導体投資は韓国だけにとどまらない。米国ではCHIPS・科学法(CHIPS and Science Act)のもとで自国生産回帰が進み、台湾・中国も製造能力の拡充に国家規模で取り組んでいる。韓国にとって今回の投資は、メモリチップ分野での競争優位を中長期にわたって維持するための布石と位置づけられる。
今回の発表は、米国・台湾・中国が半導体製造能力の確保に国家規模で動く中、韓国がメモリチップの競争優位を維持するための長期的な布石として機能する。具体的なファブの完成時期は両社ともまだ明示していない。
詳細はSouth Korea bets $518 billion on AI chipmaking boomを参照していただきたい。