7月1日、Inc.誌のBruce Crumleyが「Everyone Thought AI Was Killing Entry-Level Jobs. They Were Wrong」と題した記事を公開した。AIがエントリーレベル(新卒・若手向け)の仕事を消滅させるという通説を大規模調査が否定し、むしろ職務が高度化・再設計されつつあるという実態を伝えている。「AIに仕事を奪われる」という言説が繰り返されてきた中、そのデータは現場の実像をより複雑なものとして描き出している。
「AIに仕事を奪われる」は間違いだったのか
AIがエントリーレベルの仕事を自動化し、若い求職者から職を奪っているという報道は近年絶えない。Goldman Sachsの「AIが3億人分の雇用を代替する可能性がある」とするレポート(2023年)や、新卒採用の凍結・縮小を伝えるメディア報道が相次いだことで、「AIは若手の入口を塞ぐ」という認識は広く定着しつつある。
しかし、ITサービス大手Cognizant(米ニュージャージー州本拠、売上高約190億ドル規模のグローバルITコンサルティング企業)と生涯学習企業Pearson(英ロンドン本拠、教育コンテンツ・資格認定を手がける大手教育企業)が共同で発表したレポート「The AI Workforce Pulse」は、その見方に正面から異を唱えた。
このレポートは、米国・英国・インドの1,000人の人事(タレント)担当者を対象にした調査に基づいている。なお、調査対象は3カ国のHR担当者に限定されており、結果をすべての国・産業に直接一般化することには留意が必要だ。それでも、結論の方向性は明快だ。AIによる職務の消滅は一時的なものであり、企業はエントリーレベルのポジションを消すのではなく、より価値の高い職務として再設計しようとしているというものだ。
反復作業の代替から「AIの監督者」へ
調査の核心にある知見はこうだ。これまでの新卒・若手社員が担ってきた反復的・定型的な作業はAIが代替するが、それに替わるポジションは「AIシステムの監督・協働」へとシフトするという。
具体的な数字が示す変化は大きい。
- 96% の回答者が、エントリーレベルの職務は今後5年以内にAIシステムの監督・管理を含むものになると回答
- 94% が、そうした職務はAI普及以前には存在しなかった全く新しい形になると予測
ここで言う「エントリーレベル」とは、一般的に就業経験が0〜3年程度の新卒・第二新卒相当のポジションを指す。また「タレント担当者」とは、採用・人材育成・組織開発を担う人事部門の担当者を意味する。
CognizantのCPO(最高人事責任者)Kathy Diazは調査結果へのコメントで次のように述べている。
「AIはタレントの全体像を再形成し、従来型の人材・学習モデルの限界を露わにしている。エントリーレベルの業務内容とスキル要件が急速に変化している中、組織は採用と人材育成の方法を根本から見直す必要がある」
もう一つの知見:中間管理職の復権
レポートが示すもう一つの注目点は、中間管理職の再雇用だ。近年、Meta・Googleをはじめ多くの企業が組織の「フラット化」を掲げ、中間管理職を大量にレイオフしてきた経緯がある。しかし、エントリーレベルの職務がより高度な責任を伴うものへと進化すると、その育成・サポートを担う中間管理職の価値は再び高まると調査は予測している。
※編集部の考察:フラット化によって残存した管理職が過大な直属部下を抱え、マネジメント機能が低下するケースも一部で報告されており、その揺り戻しは既に現実的な課題として浮上しつつある。
企業側にも求められる変革
ただし、エントリーレベルの職務が高度化するということは、企業側も採用後の研修・育成体制を根本的に刷新しなければならないことを意味する。「オンボーディング」(新入社員が業務・文化・ツールに習熟するための入社初期の受け入れプロセス)をはじめ、これまでの社内トレーニングは定型業務への習熟を前提に設計されてきた。AIと協働するための新しいスキルセット——AIの出力を評価・検証する批判的思考力、プロンプト設計の基礎、業務文脈に沿った判断力など——をどう教えるかは、各社が直面する実際の課題だ。
PearsonはこのレポートとあわせてAIスキル習得を支援する学習プログラムの拡充も打ち出しており、調査結果が同社のビジネス文脈とも連動している点は読み解く上での背景として押さえておきたい。
「消滅」ではなく「変容」という視点
AIによる雇用破壊の議論は、往々にして「仕事がなくなる」という短期的・悲観的な視点に偏りがちだ。このレポートが示すのは、消滅ではなく変容という、より長いタイムスパンで見たときの動きである。もちろん、調査対象が米英印3カ国・HR担当1,000人という限定的なサンプルである点、また回答者が人事担当者という性質上、楽観的な見通しが出やすいバイアスがある可能性も念頭に置く必要がある。それでも、「AIは若手の仕事を一方的に奪う」という単純な図式に対して、現場のデータが別の絵を描いていることは注目に値する。
詳細はEveryone Thought AI Was Killing Entry-Level Jobs. They Were Wrongを参照していただきたい。