7月1日、The Next Webが「Anthropic launches Claude Science, an AI lab workbench」と題した記事を公開した。Anthropicが科学者向けAIワークベンチ「Claude Science」をベータ公開し、研究現場の複雑なワークフローをAIエージェントで一元化する取り組みについて詳しく紹介されている。
Anthropicは2026年6月30日、科学者向けのAIワークベンチ「Claude Science」をベータ版として公開した。新モデルの投入ではなく、ワークフローの統合で研究現場に切り込む製品だ。
「ツールの乱立」という研究現場の本質的な問題
科学者の日常は、ツールの切り替え作業で消耗する。PubMedで文献を調べ、Jupyter NotebookやRでコードを書き、HPCクラスタ(高性能計算機クラスタ)のターミナルでジョブを流し、独自パイプラインでファイル形式を変換する。Claude Scienceは、これらを1つの環境に統合する。文献の解析、マルチステップの統計解析、図の調整、論文原稿の仕上げまで、一連の作業をAIエージェントが横断的に担う。
TechCrunchは関連報道として「賭けたのはモデルの性能ではなくワークフローだ」と評した。同報道によれば、搭載されるのは既存のClaudeモデルであり、Claude Science専用の新モデルへのアクセスは提供されない(具体的なモデル名についてはTNW元記事および上記TechCrunch報道を参照)。
エージェントが「作業の過程」を残す
Claude Scienceの中心にはコーディネーターエージェントが置かれている。ゲノミクス、プロテオミクス、構造生物学、ケモインフォマティクスなど分野別に整備された60以上のスキルとコネクタを呼び出せる。ユーザーが独自に作った専門エージェントを組み込むことも可能だ。
再現性の担保に力が入っている点は技術的に興味深い。生成されたすべての図には、それを作成した正確なコードと実行環境、生成の経緯を説明した自然言語のメモ、完全なメッセージ履歴が付属する。数カ月後に結果を追跡したり、「軸を対数スケールに変えて」と英語で指示して図を編集したりできる。コードの書き直しはエージェントが行う。
さらにレビュアーエージェントが独立して存在し、引用文献の確認や計算の検証を行い、追跡できない数値や出典と一致しない参照を自動でフラグ立てする。LLMが架空の引用を生成する問題(いわゆるハルシネーション)への実用的な対処策として位置づけられている。
データはラボの外に出さない設計
Claude Scienceはラボ自身のマシン上で動作する設計だ。macOSまたはLinuxのローカル環境、SSH経由のリモートサーバー、HPCのログインノードに対応する。大規模ジョブ(タンパク質構造予測やゲノムパイプラインなど)はエージェントが計画を立案し、確認を取ったうえでラボのクラスタに投入するか、オンデマンド計算基盤のModalに送る。スケールは1GPUから数百GPUまで対応する。
データが外部に出ないことで、機密性の高いデータセットを扱う研究室のプライバシー懸念にも応える。Claudeに送られるのは、各ステップに必要なコンテキストのみだ。
NvidiaとはBioNeMo Agent Toolkitを通じた連携があり、Evo 2、Boltz-2、OpenFold3といった生命科学向けモデルにアクセスできる。UniProt、PDB、ChEMBLなど60以上の科学データベースも統合済みだ。
ベータユーザーの声:「2年かかったレビューが10本同時に走っている」
Anthropicが公開したベータユーザーの事例は具体的だ。
Allen Institute(アレン脳科学研究所)の神経科学者Jérôme Lecoqは、約20のカスタムスキルからなるマルチエージェントテンプレートを構築し、ロングフォームのレビュー論文を執筆した。サブエージェントが数千の論文を読み込み、重要知見を抽出してデータベースに格納し、セクションごとにドラフトを起こす。
「かつてはチーム全体で1本のレビューに2年かかっていた。今は100ページを超えるものを含め、約10本が並行して走っている」
— Jérôme Lecoq(Allen Institute)
UCSF脳腫瘍センターの疫学者Stephen Francisは、グリオーマ(神経膠腫)の解析が通常の約10分の1の時間で完了したと報告。チームが手動で結果を検証したところ、内容は確認されたという。
一方でこの数字は懸念も呼ぶ。2年かかる作業が量産できるなら、AIが生成した論文が学術界に大量流入するリスクがある。Anthropicはレビュアーエージェントと人間によるチェックをその答えとしているが、効果の程はこれからの検証を要する。
商業的な背景
今回のリリースはAnthropicの事業戦略とも絡む。科学研究は「Claudeが実際に研究できる」というAnthropicの主張を検証できる場でもあり、同時に有望な法人顧客市場でもある。TNW元記事でもこの製品が商業的な文脈で位置づけられている点が言及されている。
なお、IPO計画や米政府による輸出規制をめぐる動向についてはTNW元記事の直接の論点ではなく、関連する業界報道で広く指摘されている事項である。これらの外部環境がClause Scienceのリリースタイミングと重なることは事実だが、Anthropicが公式にそれを結びつけているわけではない点には留意が必要だ。
料金と申し込み
Claude Scienceのベータ版はmacOSとLinuxで利用可能。対応プランはPro、Max、Team、Enterprise。学術機関・非営利組織向けには割引シートが用意されている。Anthropicは最大50件の研究プロジェクトに対し、それぞれ最大3万ドル分のクレジットを提供する予定で、申し込みは2026年7月15日まで受け付けている。
詳細はAnthropic launches Claude Science, an AI lab workbenchを参照していただきたい。