6月28日、El Paísが「Professor denounces mass AI fraud on an exam at Brown University: 'Academic integrity is at risk'」と題した記事を公開した。米アイビーリーグのブラウン大学で発生したAIを使った大規模カンニング事件と、大学側の対応の鈍さに警鐘を鳴らす教授の訴えを報じている。
96点平均、40人が満点——異常な試験結果が不正を暴いた
ブラウン大学経済学部のRoberto Serrano教授は今年3月、担当する上級数理経済学コース「ECON 1170」の中間試験の採点中に、不自然な事実に気づいた。平均点は100点満点中96点、40人が満点という、通常では考えにくい結果だった。採点を担当したスタッフが異変を報告した。「一部の解答にChatGPTに質問を入力して得られた結果と一致する不自然な記述が含まれていた」とSerrano教授は語る。
調査を進めたSerrano教授は、少なくとも50人の学生がAIを使って不正を行ったことを突き止めた。これはブラウン大学史上最大規模のカンニングスキャンダルであり、ハーバード、プリンストン、イェールなどを含むアイビーリーグ全体でも最大級の事例だという。
Serrano教授は中間試験を無効とはせず、代わりに期末試験を対面形式で実施すると告知した。期末試験の配点は最終成績の50%で、中間試験と成績分布が大きく乖離した場合は期末試験のみを採用すると宣言した。結果は如実だった。平均点は48点に急落し、中間試験を受けた89人のうち期末試験に現れたのは59人のみ。さらに、試験に現れなかった27人のうち22人が中間試験で満点を取っていた学生だった。
「不正の経験的証拠は圧倒的だ」と教授は断言している。
不正の背景——銃乱射事件と「善意」のテイクホーム試験
このコースはもともと受講者が少ない高難度の授業で、これまで1学期に30人を超えたことはなく、8人しかいない学期もあった。今学期は評価方式の変更が影響したとみられ、86人が履修登録した。
Serrano教授がテイクホーム形式を採用した背景には、元記事によれば、2024年12月13日にブラウン大学で起きた銃乱射事件がある。元PhD学生が構内で発砲し、2人が死亡、9人が負傷した。Serrano教授の担当クラスからも負傷者が2人出た。また、同じ週にオフィスを訪ねてきた学生Ella Cookさんが死亡した犠牲者の1人だったことも教授に深い打撃を与えた。
「精神的にひどい状態が続いた。キャンパスに来ることへの不安を抱える学生が多い中で、少しでも楽にしてあげたいと思ってテイクホーム試験を選んだ」と教授は振り返る。34年間の教員生活で初めてテイクホーム試験を導入した結果が、大規模不正だったことは教授に強い痛みを残した。
大学側の沈黙と、業界全体の問題
Serrano教授が大学の上層部にこの件を報告したところ、学長からは完全な無反応、学部長も教授が学術倫理委員会に案件を持ち込むまで沈黙を保った。最終的に届いたのは「今回のことは警鐘だ」という一文のみだった。
教授はこれを強く批判する。「これだけの規模の事件に対して、それが大学の立場であってはならない。学術的誠実さは守る価値のある原則だ。高等教育の未来を守ろうとするなら、教員が単独でこの戦いを戦わせてはいけない」と述べた。大学が富裕層の寄付に依存しており、その子女が在籍することで「学生側に疑いの余地が与えられやすい」という構造的問題にも言及している。
AIによる不正は、ブラウン大学だけの問題ではない。プリンストン大学は今年、1893年以来133年間にわたって維持してきた試験監督なし(Honor Code)の慣行を廃止した。プリンストンのHonor Codeは、学生が誠実さの誓約に署名することを前提に、教員が試験中に退室することを認める制度だった。独立戦争後の建学期にまでさかのぼる同大学の学術的自治の象徴として長く機能してきたが、AIの登場によってその前提——「学生は自力で解答する」——が根底から崩れた。133年という時間軸が示すとおり、これは単なる運用変更ではなく、米国高等教育における学術的誠実さの理念そのものが転換点を迫られていることを意味する。
スタンフォード大学を今年卒業した22歳のジャーナリスト、Theo Baker氏はニューヨーク・タイムズへの寄稿で「大学の課題でAIを使ったことのない人を私は一人も知らない」と記している。Baker氏がスタンフォードに入学したのはChatGPTの初版リリースの2か月前で、4年間の在学中に同級生たちがいかに抵抗できなかったかを目撃してきた。一人の学生の証言として、この問題が特定の大学や特定の教授の課題ではなく、世代全体を包む構造的な現象であることを示している。
来年度以降の対応
Serrano教授は次年度から2つの変更を実施する。
- 週次課題を成績に算入しない(AIで処理できるため)
- テイクホーム試験を廃止し、対面試験のみとする
教授はより広い議論の必要性を訴える。「状況の深刻さを公に認め、問題の実態について幅広い議論を開くことが必要だ。真実と誠実さを守らないなら、学者としての信頼性など何も残らない」。
詳細はProfessor denounces mass AI fraud on an exam at Brown University: 'Academic integrity is at risk'を参照していただきたい。