建築学を学び、未経験で大手IT企業にエンジニアとして入社。その後はサーファー向けサービスのアプリ開発、受託開発企業での事業推進、そして30歳での独立──宿泊施設や焼肉店、ECサイトの運営まで。「作る」と「売る」の両方を自分の手で経験してきた、異色のキャリアを持つ鵜飼伸行さん。
長くフリーランスエンジニアとして第一線を走ってきた鵜飼さんは、2026年、株式会社クオレガに正社員として入社した。一度は独立・起業まで経験した人が、なぜいま“正社員”を選んだのか。そして、AI時代のエンジニアに本当に必要な力とは何か。業務委託と正社員それぞれの価値も含め、じっくりとお話を伺った。
建築学科から大手IT企業へ。「縦割り」に悩んだ新卒時代
Q. もともと理系・ソフトウェア系のご出身だったんですか?
いや、それが全然違って(笑)。大学では建築学、どちらかというと空間デザインのようなことをやっていました。ただ、僕が就職活動をしていた頃は建築系の就職が結構厳しい時期だったんです。一方で「これからはITが来るぞ」という時代でもあって、たまたま学部的にIT企業やメーカーからの評判が良かったんですよ。
それで、IT系を受けていた友人につられて、本当に軽い気持ちで大手IT企業を受けたんです。開発もプログラミングも全くやったことがなかったんですが、面接と書類で頑張って、未経験のままエンジニアとして入社しました。
Q. なぜエンジニア職を選ばれたんですか?
正直そこも深くは考えていなくて(笑)。デザイナーの道もあるかもしれないな、くらいの感覚でした。ただ「エンジニアはこれから需要がありそうだな」というのはあったので、せっかくなら職としてエンジニアを学べるのはいいな、と思ったんです。
Q. 大手IT企業時代で印象に残っていることは?
未経験で入ったのに、2年目あたりから結構大きめのサービスを1〜2人で任せてもらえたりしたんです。「大企業のわりに、いい意味でいい加減だな(笑)」と驚きましたが、それだけ任せてもらえる環境ではあったんですね。
ただ、当時はどうしても「企画→デザイナー→エンジニア」という縦割りの感覚が強かったんです。企画から仕事が下りてきて、「いつまでにやっといて」と言われたものを残業しながらこなす……みたいな、“やらされている感”がすごくありました。ここにいたら、この感覚はずっと拭えないなと思って、転職を考え始めました。在籍は2年半ほどですね。
好きなことを仕事に。サーファー向けサービスのスタートアップで知った“能動的に動く”楽しさ
Q. 次に選んだのは、サーファー向けサービスを運営するスタートアップでした。
僕は高校の頃からサーフィンをやっていて、海に行く前にそのサービスで波情報をチェックするのが習慣だったんです。自分が使っていたサイト内でたまたま募集を見かけました。都会に疲れていたのもあって、「好きなことをやっている会社で、能動的に働きたい」と思って飛び込みました。
当時その会社にはエンジニアが一人もいなくて、開発は外注に出していました。僕が初めての社内エンジニアだったんです。ちょうどスマホが普及し始めて、iPhoneネイティブアプリが来るらしいぞ、という時期でした。自分でネイティブアプリを開発して会員を増やすことができて、ようやく「結果」を出せたんです。
最初は「あいつ何やってんだ」みたいな雰囲気だったのが、少しずつ居心地が良くなっていきました。やらされるのではなく、自分から動いて成果を出す楽しさを知ったのが、この時期でしたね。iOSもAndroidも一人でやっていました。
受託開発で学んだ「ビジネス視点」と「コードは読む方が力になる」
Q. その後、知人が立ち上げた受託開発企業(住宅系)へ移られます。
そのスタートアップではエンジニアが自分一人だったので、もっと仕事の幅を広げたいなと思っていたタイミングで、大手IT企業時代の先輩から声をかけてもらったんです。営業から要件定義、見積もり、納品まで一通り経験できそうだな、と思って転職を決めました。僕が2人目で、最終的には50〜70人くらいの規模になりました。
Q. 印象に残っていることはありますか?
もう、本当に大変でしたね(笑)。2日間帰れない、寝られない、みたいなこともありました。これはブラック的な発想かもしれないんですけど、僕は身をもって「辛い思いをした方が技術力はつく」と感じました。当時はAIもないので、ハマったら自分で調べて直すまで帰れないんです。サービスが動いているので、なおさらでした。
特に学びになったのは、他社が開発して立ち行かなくなった案件を巻き取る仕事でした。人が書いたコードを大量に読む機会になったんです。「自分ならこう書くな」「こういう考え方もあるのか」と、いろいろ考えさせられました。そこで気づいたのは、エンジニアは書いている時間より、実は読んで・解釈して・考えている時間の方が圧倒的に多いということでした。書くより読むことの方が力になる、というのは大きな発見でしたね。
Q. 開発以外の業務からは何を得ましたか?
営業活動の経験はとてもためになりました。特に相見積もりとなる時に発生する駆け引きは強く印象に残っています。なるべく高い金額で受注したいわけですが、ちゃんと信憑性をもって説得する材料を持っていく必要があります。「この仕様ならこういう実装が必要で、工数がこれくらいだから金額はこのくらい」という一連の流れを把握しないといけないんです。
それまでは実装者だったので、基本的には「言われた通り動けばいい」「パフォーマンスを出せばいい」という、作る側だけの頭でした。でも営業・売る側を経験したことで、「ここを改善するとCTRがこれだけ上がって、どれだけお金に結びつくか」という視点を持てたんです。この視点を持てるかどうかは、エンジニアにとって非常に重要だなと痛感しましたね。
30歳で独立。宿・焼肉店・ECで“作る×売る”を一人で経験
Q. その後、独立されたかと思います。
受託にいた頃、結局は社長が取ってきた仕事のおかげで自分が食えているんだな、と途中で気づいたんです。それで自分でも営業に行って、仕事を取るようになりました。そうしているうちに、「自分一人で稼ぐには、仕事を“生み出す”力が要るんだ」と思うようになったんです。
ちょうど「海の近くの田舎で暮らしたい」という憧れもあって、30歳くらいの時に知り合い経由で宿の物件を安く買い、移住しました。最初は不安もあったので、契約社員のような形で開発の仕事も続けつつ、田舎で暮らし始めた感じです。
Q. 宿泊施設に加えて、焼肉店やECにも取り組まれたんですね。
焼肉店は、妻の実家が肉の卸をやっていたのが縁で、宿の中に作りました。同じタイミングで、個人事業主から法人化もしています。飲食はまったくの未経験だったので、知り合いの焼肉店に半年ほど修行に行って、肉の切り方や仕込みを覚えました。
ただ、海の近くの地域なので、夏はお客さんで席も部屋も足りないくらいなのに、冬は大きく減ってしまうんです。年間を通して安定して収益を上げ、ちゃんと従業員に給料を出すのが難しいエリアでした。そこに、コロナも重なってしまいました。
Q. そこでECを始められたんですね。
通年で収益を上げられるものを、と考えて、食品製造業の許可を取り、ECサイトを始めました。ここで痛感したのが、どんなにいいものを作っても、知られなければ売れないということでした。作る側で生きてきたので、その感覚が全くなかったんです。
当時流行り始めていたクラウドファンディングを使って広く知ってもらい、SNSやインフルエンサーも活用しました。そうしたらテレビや新聞といったオールドメディアが拾ってくれて、そこから一気に広がったんです。作る側と売る側を、全部自分たちだけでやり切った経験ですね。マーケティングの重要性を、身をもって理解しました。
この経験を通して改めて感じたのが、大企業ほど「作る側」と「売る側」が縦割りで分断されているということでした。作り手の思いを汲み取りきれないまま売ってしまって、魅力が伝わりきらないんですよね。そこを一貫して自分でやることの価値は、本当に大きいなと思いました。
再びエンジニアへ。フリーランスで感じ続けた「縦割り」への違和感
Q. それ以降はフリーランスのエンジニアとして、複数の企業に参画されています。
コロナで飲食が厳しくなったのに加えて他の問題もあり、東京に戻りました。「店を続けるか、開発に戻るか」となった時に、開発を選び、一旦お店は畳みました。
そこからは大手飲食系口コミサイトをはじめ、いくつかの企業に業務委託で入らせていただきました。直近では、いまのクオレガと業界の近い、ある飲食系IT企業に3年ほどいました。居心地も良く、メンバーとも仲良くやらせてもらって、年齢的にもいろいろ任せてもらえたんですが……。
ただ、どこに行っても「縦割り」に対する違和感を感じてしまいました。デザイナーやマーケター、企画とエンジニアが一丸になって一緒にものを作る会社は、日本にないのかな、と感じていました。そして業務委託である以上、どうしても一段上の意思決定には関われません。社外の人間ですからね。
Q. その飲食系IT企業は上場企業ですよね。
そうなんです。開発も50〜60人規模で、腕利きのスペシャリストも多くて勉強になりました。ただ、組織として成熟しているぶん、構造もカチッと決まっていました。そこを変えるような意思決定を出すのは、この状態ではなかなか難しいだろうな、と思っていました。
「それなら、これから拡大していくフェーズの会社の方が、自分の思いとマッチするんじゃないか」。40歳を過ぎて、このまま実装者でいいのかという思いもあって、構造を変える・マネジメントする・事業の成長につながる意思決定に関わる、という方向に進みたい気持ちが強くなっていきました。
業務委託から正社員へ。クオレガを選んだ理由と、信頼を積み上げた2ヶ月
Q. 転職活動はどのように進めましたか?
長く独立・フリーランスでやってきて転職活動から離れていたので、正直「何をしたらいいんだろう」という状態でした(笑)。まずは大手のエージェントに一通り登録して、市場の温度感を聞いたり、職務経歴書や履歴書を綺麗にブラッシュアップしてもらったりしながら進めました。
その一つがHajimari(IT プロパートナーズ)さんでした。最初に業務委託側の担当の方と話して、「社員前提で探したい」という話をしたら、社員を前提とした担当の方につないでくれたんです。
Q. 担当アドバイザーの対応はいかがでしたか?
とにかく早かったんです。面談が終わって30分後くらいには、もう企業のリストが届いていました(笑)。しかも、僕が「飲食や宿泊、食品系に特化したところがいい」と思っていた希望に、ちゃんと沿った一覧でした。他社と比べても、提案のスピードが圧倒的に早かったのは、すごくポジティブな印象でしたね。
Q. 最終的に株式会社クオレガに決めた理由は?
クオレガは、選考のステップがとにかく早かったんです。書類OKの翌日にはCTO面談、というレベル感でした。実際にCTOの方と話したら、いい意味で「とても合うな」と感じたんです。その後はCOOや役員、最終的には社長まで出てきてくださって、会社としての本気度と真摯さが伝わってきました。
任せていただけるポジションも自分に合致していて、飲食業界・HR領域という、自分の経験が活きる領域でした。これは決め手でしたね。
Q. クオレガ社は「正社員入社を前提とした業務委託参画」であったかと思います。2ヶ月の業務委託期間は、これまでとどう違いましたか?
正社員転換を見据えた業務委託なので、感覚は少し違いました。人間なので「よく思われたい」「評価を上げたい」という気持ちは出てくるんですけど、現場は20代の若いメンバーが多かったです。そこにいきなり年上の人間が来て、上から偉そうに言って上層部にアピールする……というのは、ジュニアから見たら一番イヤだろうな、と思ったんです。
なので、上からの評価を取りにいくのは一旦なしにして、目の前の課題やメンバーの状況を見ることに徹しました。EM候補という立場だったので、チームに今足りないものは何かを常に考えていましたね。たとえばパフォーマンス周りの意識がまだ低かったので、「ここをこうするとUXも上がるし、数字=お金にも結びつく」と説明しながら、パフォーマンスチューニングを一緒に進めていきました。
「これは良くない」とストレートには言わず、小出しにコツコツと進めました。そうやって真摯に取り組めば、見てくれている人はちゃんと評価してくれるはずだと思っていたんです。逆に、もっとアピールしろと求められる環境なら、それはそれで自分には合っていないだけだと思っていました。だから上からの評価は気にせず、やるべきことをやろう、という感覚でやっていました。
AI時代に求められるエンジニアとは
Q. AIの登場で、エンジニアに求められるものはどう変わったと思いますか?
数年前とはまったく違う、というのが実感です。機能を実装するだけなら、もうAIで一瞬でできてしまいます。だから、“ただの実装者”はいらなくなってきていると思っています。
じゃあ何が大事かというと、まず一つは「考慮できるかどうか」です。AIで機能として実装できたとしても、パフォーマンスはどうか、メモリはどうなっているか、といった意識は、AI時代ほど抜けがちなんですよね。特に中小規模だと「動けばいい」になりやすい。AIに書かせるにしても、その認識をちゃんと持てているかが重要なんです。ここをやらないと、後でどうせ破綻してしまいます。
もう一つは、要求を実装に落とし込む時の「どの技術で、どう設計すべきか」という判断です。AIは設計まで提案してくれますが、その設計が本当にこのドメインにフィットしているのかを見極められるかどうかが問われます。ドメインによって、選ぶべきものも検討材料も全然違いますからね。
AIが言っていることを鵜呑みにせず、状況に合わせて組み込み、考え、設計できる。この目線がこれから本当に大事になります。逆に言うと、そのレイヤーを担える人は社内を見てもまだ少ないので、需要は非常に高いんじゃないかと思っています。そこが一番重要だと考えていますね。
業務委託と正社員、どちらを選ぶべきか
Q. 今回は「業務委託から正社員へ」という、一般的な転職とは少し違う形でした。どんな人にどちらが合うと思いますか?
これは、自分がどちらに進みたいか次第だと思います。
開発技術そのものが好きで、システムが好きで、ずっと第一線の現場で開発し続けたい――そういう方は、もう全然それでいいと思います。スペシャリストとして技術を突き詰めていく道なら、業務委託でも需要はたくさんありますし、これからも十分やっていけるはずです。
一方で、僕みたいに「意思決定に関わりたい」「技術的な観点から事業に直接インパクトを与えたい」という気持ちが芽生えてくると、業務委託のままではなかなか厳しくなってきます。どうしても社外の人間として“使ってもらう”立場になりがちで、上のレイヤーには関わりづらいんですよね。
そうなると、結局はその会社のメンバー=正社員として中に入る、という選択肢がかなり大きくなる。特にエンジニアはそうだと思います。「技術を突き詰めたいのか、事業をつくる側に回りたいのか」。自分がどうなりたいかで選ぶのがいい、というのが僕の考えです。
最後に ── これから頑張っていきたいこと
Q. クオレガでの今後の目標を教えてください。
まず、いまは拡大フェーズで、エンジニアも売上もこれから伸ばしていく重要な時期です。その中で、開発チームには「ただ開発するだけ」ではなく、プロダクト意識・ビジネス側の意識をしっかり持ってほしい。自分の今の改修がどれだけお金につながるのか、ビジネスインパクトはどうなのか。そこを意識できるエンジニアを育てたい、という思いがすごく強いです。
それから、僕がクオレガに惹かれた大きな理由の一つが、仕様書がカチッと固まった状態で下りてこない文化なんです。プロダクトマーケターやデザイナーと一緒に企画して、一緒に考えて、一緒に設計する。これは僕が大嫌いだった“縦割り”とは真逆なんです。COOもこの文化を強く推奨していて、「絶対になくしたくない」と話しているくらいです。だから僕は、この文化を縦割りにしない、守る、というのを一つの使命だと思っています。
加えて、営業の比率が高いので、営業側のDXも進めていきたいと考えています。営業がどんな業務をして、どうお客さんと関わっているのか、ビジネス側の理解がないと進められないので、そこを深めながら、事業にインパクトを与えるDXを進めていきたい。事業拡大と売上に貢献して、若いエンジニアに大事な文化を根付かせ、ビジネス視点を持ったエンジニアを育てていく。これは絶対にやろうと思っています。
Q. 同じようにキャリアで悩むエンジニアへ、メッセージをお願いします!
技術が好きで突き詰めたい人も、事業をつくる側に回りたい人も、まずは「自分がどうなりたいか」を見つめてみてほしいです。働き方に、正解は一つではないと思うんです。僕自身、大手・起業・フリーランスと遠回りに見える道を歩いてきましたが、その全部が今につながっている実感があります。
株式会社クオレガ(Cuolega,inc)
所在地 : 〒105-0004 東京都港区新橋1丁目10-6新橋M-SQUARE 11階
代表者 : 代表取締役 佐藤 康成
設⽴ : 2017年2⽉
資本⾦ : 24,000,000円
事業内容: 採用DXプラットフォーム事業、採用コンサルティング事業、システム開発事業
URL : https://cuolega.co.jp/
TEL : 03-6263-8707