5月22日、Arnon Shimoni氏が「The current AI pricing was always going to go away」と題した記事を公開した。
生成AI市場が急拡大する中で、多くの企業が直面している共通の課題がある。それはAI機能の運用コストが予想を大幅に上回っていることだ。マイクロソフトは今週、社内のClaude Codeライセンスをキャンセルし、UberはAI予算の2026年分をわずか4か月で使い切った。GitHubに至っては全製品で定額プランを廃止している。
これらは単発の問題ではなく、AI業界全体で起きている構造的変化の兆候である。本記事では、現在のAI価格設定モデルが破綻する必然性とその背景要因について詳しく紹介する。
「AIサブシディ時代」終焉の真相
こうした現象について、業界では「AIサブシディ時代の終焉」という表現がよく使われる。しかし記事では、実際の原因はもっと根本的だと指摘している。多くの企業が推論コストが継続的に下がるという賭けに失敗したのだ。
2022年から2023年にかけて、ChatGPTの爆発的普及により、多くの企業が製品のあらゆる階層にAI機能を組み込んだ。当時の前提は「ムーアの法則のように、コンピュートコストは時間とともに下がり続ける」というものだった。しかし、コストカーブは期待と逆方向に向かってしまった。
見落とされた「誘発需要」の威力
記事では、多くの企業が犯した根本的な誤りとして、誘発需要(induced demand)の概念を見落としたことを挙げている。
道路計画に携わる人なら誰でも知っている原理だが、新しい車線を追加すると、それまで存在しなかった通勤ルートが生まれる。AIも同じ構造を持っている
推論コストが下がっても、総支出は減らない。むしろ人々がAIモデルに求める処理が拡大し続けるのだ。具体的な変化として、記事では以下を挙げている:
- 以前は2分だった推論クエリが現在は4分以上かかる
- エージェント型ワークフローでは、従来1回の呼び出しで済んでいたものが50回の呼び出しを必要とする
- 単位コストは下がったが、使用量が爆発的に増加し、総支出は上昇している
この現象は、OpenAIのGPT-4 TurboやAnthropic のClaude 3といったより高性能なモデルが登場するたびに加速している。
供給サイドの深刻な経済悪化
需要サイドの問題に加えて、供給サイドでも経済性が急激に悪化している。モルガン・スタンレーの試算によれば、新しいNVIDIA VR200sの部品コスト(BOM)は前世代比で95%上昇する見込みで、メモリだけで435%の成長を占めるという。
問題の根源は製造能力の制約にある:
- パッケージング: TSMCのCoWoSパッケージングラインがアクセラレータ供給のボトルネックとなっている
- メモリ: SK HynixがHBM(High Bandwidth Memory)を支配し、SamsungとMicronが後を追う状況
- 生産拡張: 生産能力の増強には最低18〜36か月かかる
- 予測ミス: 需要予測を桁違いに下回って計画された
この結果、HBM価格は18か月で4倍に跳ね上がり、最上位アクセラレータは前世代比で約2倍の価格となっている。NVIDIAのH100からB200への価格上昇は、この傾向を如実に示している。
AI企業の収支構造が明らかに
記事では、Anthropicの最高財務責任者が今年3月に宣誓証言した驚くべき数字を紹介している。同社がコンピュートに100億ドルを費やして50億ドルの売上しか得ていないというのだ。
この2:1の赤字比率は、AI研究所各社に共通する構造的問題を浮き彫りにしている。推論で赤字を出しながら事業を継続するため、各社は価格を上げざるを得ない状況に追い込まれているのだ。
新しい価格モデルへの移行
トークンベースの従量課金制から脱却するため、記事では変動コストに対応できる3つのアーキテクチャを提示している:
1. アクション課金制
API呼び出し、生成、エージェントステップごとに価格を設定。Twilioは2008年から、AWSは2006年からこの方式を採用している。売上がコストと同じイベントに紐づくため、マージンが予測しやすい。
2. クレジット制
前払いバケット方式。顧客が10万クレジットを購入し、用途を問わず消費していく。複数の推論プロバイダーを単一単位で混合できる唯一の合理的方法だが、未使用クレジットの会計処理が課題となる。
3. ハイブリッド制
基本シート料金に含まれるクレジットと従量課金の超過分を組み合わせ。ほとんどのエンタープライズセールスがこの方式を受け入れており、AI特化製品の多くが最初の価格改定サイクル内にこのモデルに収束している。
企業が直面する「不可能な選択」
記事の結論として、現在のAI企業は2つの厳しい選択肢に直面していると指摘している:
- マージンを削って顧客の使用量増加に伴う四半期ごとの圧縮を受け入れる
- 安価なティアからAI機能を除去し、低価格セグメントからの新規流入減少を受け入れる
どちらの選択肢も次の四半期決算に明確に現れ、投資家への説明は困難を極める。しかし、現在の市場構造では、これ以外の選択肢は存在しないのが現実だ。
AI価格設定の破綻は、技術の普及と成熟に伴う自然な調整過程とも言える。今後数か月で、より多くの企業が価格モデルの根本的な見直しを迫られることになるだろう。
詳細はThe current AI pricing was always going to go awayを参照していただきたい。