3月4日、manager.devが「Don't become an Engineering Manager」と題した記事を公開した。この記事では、マネジメント職(EM:エンジニアリングマネージャー)への転身に伴う近年のリスクと、「現場のエンジニア」(IC:Individual Contributor)としてキャリアを継続することの合理性について詳しく紹介されている。
以下に、その内容と、テック業界の主要コミュニティであるHacker Newsのスレッドなどで巻き起こっている議論を合わせて紹介する。
かつて、エンジニアがマネジメント職への昇進を打診された際、多くの経験者は「たとえ将来的に現場に戻るとしても、管理職の経験は血肉になる」として、その挑戦を推奨してきた。しかし、近年の技術環境と市場構造の変化により、その論理は揺らぎつつある。
本稿では、あえてマネジメント職(EM)への転身を推奨しない理由として、主に以下の3点を挙げている。
1. 技術的キャッチアップの困難さ
AIツールの進化を含め、現在の開発環境の変化は極めて速い。マネジメント業務、特に6名以上のチームを抱える立場になると、新しい技術に直接触れ、試行錯誤する時間は大幅に削られる。
- 現場のエンジニアとして手を動かし続けなければ、現在の激変する業界で通用する感覚を維持することは困難である。
- 現場を離れることで、技術的な勘所が鈍ることへの恐怖は無視できない。
2. キャリアパスの平坦化とポストの減少
多くの企業で組織のフラット化が進み、中間管理職のポストが削減されている。
- Amazonが「管理職1人あたりの部下数」を増やした例に漏れず、上位のマネジメントポストは減少傾向にある。
- 組織の構造上、マネージャーとして昇進するためには「より多くの部下を持つ」必要があるが、現在の市場環境ではその機会自体が限られており、キャリアの停滞を招くリスクが高い。
3. 報酬における「現場」の優位性
「管理職の方が給料が高い」という旧来の常識は、もはや通用しなくなりつつある。
- 市場全体で見れば、スタッフエンジニア(現場エンジニアの最高峰レベル)などの高度なIC職に対する需要は極めて高く、報酬も優遇されている。
- 実際に、マネジメントへの昇進を受け入れるよりも、ICとして他社へ移籍する方が20〜30%高い給与を得られるケースも少なくない。
ネット上の多角的な視点
この記事に対し、Hacker Newsのスレッドでは、現役のエンジニアや元EMらによって激しい議論が交わされている。
- 「EMからICへの回帰」という実体験:
多くのユーザーが、EMから再びIC(現場)に戻った際の幸福感について語っている。「EMを3年務めた後、再びICに戻ったが、自分の書いたコードが動く喜びは何物にも代えがたい」といった個別のコメントが見られる。 - 報酬に関する現実的な指摘:
スタッフエンジニアの報酬がEMを凌駕する場合がある点については、「それは非常に競争の激しい上位数%のエンジニアに限った話だ」という慎重な意見も出されている。 - AI時代のマネージャーの定義:
「AIが普及するほど、人間のマネージャーに必要なのは技術的な判断ではなく、チームの感情的な安定や調整といった『ソフトスキル』に特化していく」という構造的な変化を指摘する声も上がっている。 - 組織内政治への忌避感:
「EMの仕事の8割はカレンダーの調整と他部署との政治だ。純粋に『何かを作りたい』人間にとっては苦痛でしかない」という現場の切実な声に、多くの賛同が集まっている。
記事の結論として、2026年現在の市場環境においては、シニアエンジニアが性急にマネジメントの道を選択することは必ずしも得策ではない。少なくともあと数年は現場で技術を研鑽し、市場の動向を注視すべきである。ただし、論理的な損得勘定ではなく、自身の直感が「マネジメントに挑戦したい」と告げているのであれば、その情熱に従うべきだとも述べている。
詳細はDon't become an Engineering Managerを参照していただきたい。