11月25日、海外のサイエンス系メディアPsyPostが「A mathematical ceiling limits generative AI to amateur-level creativity」と題した記事を公開し、話題を呼んでいる。この記事では、生成AIの創造性に数学的な上限が存在し、人間のアマチュアレベルを超えられないという理論的な分析について詳しく紹介されている。

以下に、その内容を紹介する。
生成AIはなぜ「プロの創造性」に到達できないのか
この記事で取り上げられた研究は、南オーストラリア大学の工学的イノベーション教授であるデイビッド・H・クロプリー氏によるものだ。生成AIの創造性をめぐる議論は、「すでに人間を超えている」という主張から「過去データの模倣に過ぎない」という警鐘まで二極化しているが、クロプリー氏はこの対立を超え、創造性を数学的に評価することで議論に客観性を持ち込もうとした。
研究の基盤となるのは、創造性の標準的定義である「有効性(effectiveness)」と「独創性(originality)」の二軸だ。創造的な成果物とは「役に立つ/目的に合致している」と「新しい/意外である」という二つの基準を同時に満たす必要がある。しかし、大規模言語モデル(LLM)の仕組みを分析すると、この二つは構造的に両立しにくいことが明らかになる。
「次トークン予測」という仕組みが生む構造的な制約
LLMはテキストをトークンに分解し、次に現れるべきトークンの確率を計算する仕組みで動作する。これは極めて透明で数学的に扱いやすいメカニズムであり、人間の脳のような不可視な認知プロセスとは異なる。
この仕組みの中で、有効性を確保するには「確率の高い、文脈に合う単語」を選ぶ必要がある。例えば、「The cat sat on the …」に対して「mat」を選べば、文法的にも意味的にも正しい。しかし確率が高いということは「最も予想通りで、独創性が低い」ということでもある。
逆に、「growling cloud」や「red wrench」のように確率の低い語を選べば独創性は上がるが、文としての有効性は失われる。つまり、このシステムでは有効性と独創性がトレードオフの関係にあり、両者を同時に極限まで高めることが原理的にできない。
数学的に導かれた「創造性の上限」は0.25
クロプリー氏は、創造性を「有効性 × 独創性」で表現し、確率モデルに基づいて両者の関係を計算した。その結果、LLMにおける創造性の最大値は1.0中0.25に到達するのが限界であることが示された。
この「0.25」という数値は、有効性と独創性をどちらも「中程度」にしたときにのみ達成可能であり、極端な独創性と極端な有効性を両立できる人間の創造性とは根本的に異なる。
この数値は「アマチュアとプロの境界線」を示す
研究では、この0.25という上限値を、創造性を4段階に分類する「Four C モデル」に照らし合わせて位置づけている。結果として、この数値は「little-c(一般的なアマチュアの創造性)」と「Pro-c(専門家レベルの熟練した創造性)」の境界に一致するという。
このため、生成AIは「平均的な人間と同等の創造性は出せるが、専門家の領域には到達できない」という結論になる。実際に行われた物語生成や問題解決の比較実験でも、AIの成果は一貫して人間の40〜50パーセンタイルにとどまり、天才的な成果を示すことはない。
「生成できる」ことと「創造的である」ことは別である
クロプリー氏は、世間で生成AIに対して「詩や物語を生成できるのだから創造的だ」という印象が広がりがちな点に警鐘を鳴らす。LLMは膨大な既存のデータに基づき、統計的に自然な文章を生成しているに過ぎず、本質的には「予想通りで驚きのない」表現に収束する。
一般の人がAIによる文章を「十分うまく見える」と感じる背景には、人間の創造性が元々平均的な分布をしており、多くの人がlittle-cレベルであるという現実がある。つまり、AIが「平均的な人間と同等」の水準を達成していることで、相対的に優れて見えるに過ぎない。
一方で、専門家ほどAIの文章が形式的でパターン化されていることに気づきやすいため、「創造的でない」と即座に判断する。
AIがプロレベルに到達するには「新しいアーキテクチャ」が必要
理論モデルには、独創性を有効性の逆数として扱う線形近似などの制限がある。また、研究の対象は「AI単体で文章を出力した場合」に限定されており、人間が編集して仕上げるケースは想定していない。
将来の研究としては、以下のような点が検討される可能性がある。
- パラメータの調整による創造性の上限の揺らぎ
- 強化学習によって独創性を強めた設計が可能か
- 言語や文化の違いが上限値にどう影響するか
しかし、クロプリー氏は、AIがプロレベルの創造性に到達するためには「過去の統計的パターンからの脱却」という根本的な設計思想の転換が必要だと結論づけている。
詳細はA mathematical ceiling limits generative AI to amateur-level creativityを参照していただきたい。