11月12日、海外のテクノロジーメディアThe New Stackが「Debian Mandates Rust for APT, Reshaping Ubuntu and Other Linux Distros」と題した記事を公開した。

この記事では、DebianがAPTをRustと強く結びつける計画と、それがUbuntuやMintなどDebian系ディストリビューション全体に及ぼす影響、ならびに開発者コミュニティの賛否と懸念について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
概要――APTがRustに「ハード依存」へ
Debianの長年の開発者でAPTメンテナであるJulian Andres Klodeが、APTにRustを導入し、コンパイラと標準ライブラリ、さらにSequoia(Rust実装のOpenPGPスタック)を含む「ハード依存」を課す方針を開発者リストで明らかにした。導入時期は「早くても2026年5月以降」とされ、.debや.ar、.tarのパーサ、HTTP署名検証などの領域で、メモリ安全と言語機能を活かした単体テスト強化が主眼だと説明している。
影響――UbuntuやMintなどDebian系全体に波及
APTはDebian系の中核コンポーネントであり、Ubuntu、Linux Mint、MX Linuxなど多くのディストリビューションが依存している。したがって、APTにRustが入ることで、これらのディストロにもRustツールチェーンの整備が実質的に求められる。Ubuntuでは既にsudoのRust実装(sudo-rs)採用など、Rustの活用が進んでいる事例も挙げられている。
動機――セキュリティと安定性の底上げ
Rustはメモリ安全を言語レベルで担保する設計であり、C/C++で頻発するバッファオーバーフローやnull参照、競合状態といった不具合を抑制しやすい。APTの各種パーサや署名検証コードをRust化することで、OS全体のセキュリティと安定性向上につながることを期待している。
コミュニティの反応――賛否と懸念
一方で、開発者の一部からは懸念も示された。たとえば「Rust移行は有益としても、 再実装は新たな不具合を生みうる。 追いつくまでの退行を受け入れるのか」という指摘がある。また、Klodeは「多くのDebianポートでは既にRustが実質必須である」としつつ、alpha、hppa、m68k、sh4といった古いアーキテクチャはRust未対応であることを挙げ、ツールチェーン整備が難しければ当該アーキテクチャへの移植を諦めざるを得ないだろう、という現実的な姿勢を示している。
今後の見通し――Forky(Debian 14)世代での深い統合
次期メジャー版のDebian 14 “Forky”は2026年中頃の到来が見込まれ、APTのみならず、ビルド基盤やセキュリティ重要モジュールなどにもRust統合が広がる可能性が指摘されている。他方、Rust採用が困難なディストリビューションは、antiXのようにDebian 12 “Bookworm”といった旧版をベースに32ビット環境を支えることになるかもしれない。
まとめ
APTのRust化は、Linuxエコシステムの安全性と信頼性を長期的に高めるための大きな転換点である一方、短期的には再実装リスクやポート維持の負担といった現実的なコストも伴う。記事は、賛否を紹介しつつも、最終的には多くの開発者がRust採用へ歩調を合わせるだろうという見立てで締めくくっている。
詳細はDebian Mandates Rust for APT, Reshaping Ubuntu and Other Linux Distrosを参照していただきたい。