本連載は、「 エキスパートへの道しるべ(Load to Expert) 」をテーマとして、初級者がエキスパートになるためのヒントを、日本を代表するエキスパートの方々に伺う企画です。
長年にわたり進化を続けるJavaは、今もミッションクリティカルな場面で活躍する重要なプログラミング言語です。本記事では、JDK 1.0時代からJavaに携わり、現在はMicrosoft本社のDeveloper Advocateとしてグローバルに活躍するJava Champion、てらだよしおさんにお話を伺いました。
キャリアの出発点から、AI時代における学びの姿勢、そして「焦り」との向き合い方まで、読み応えたっぷりにお届けします。
(このインタビューは2025年5月14日に実施されました)

てらださんをTechFeed上でフォローしよう!
Javaとの30年──進化し続けるプラットフォーム
――まず、自己紹介をお願いします。
てらだ:Microsoft本社の開発者支援部門で、Developer Relations(※1)という部署に所属しています。ここで、開発者コミュニティへの情報発信や技術支援、イベント登壇などを行っています。そしてJava Championとしても活動しています。
※1:Developer Relations(デベロッパーリレーションズ)…開発者向けに情報提供やコミュニケーションを行い、開発者エコシステムを支える活動のこと。
――Javaとの出会いはいつだったのでしょうか?
てらだ:1995年にJavaが登場した頃、私はまだ学生でした。当時はC言語などが主流でしたが、「オブジェクト指向」という新しい概念に触れてすごくワクワクしたのを今でも覚えています。それからずっと、Javaとともに歩んできました。
――Javaの魅力をどう捉えていますか?
てらだ:なんといっても安定した実行環境(JVM)ですね。そして、後方互換性を重視しながら進化を続けているところも魅力です。Javaは今も多くの現場で現役ですし、AIやクラウドネイティブな文脈でも使えるよう、ちゃんと進化しています。
底辺からの出発──焦りと挫折から見えたもの
――最初から順調だったわけではないとおっしゃっていましたね。
てらだ:本当にその通りで、「底辺」と言っていいほど何もできませんでした。大学でも一番後ろの席にいて、課題に追われては焦ってばかりの学生でしたね。
――今の若い人たちも、「自分には無理かも」と焦ることが多いです。
てらだ:とてもよくわかります。先日ある若手の方から「私は焦っているんです。どうすればいいですか?」と相談されました。私もまさに同じように、若い頃は何をどう始めればいいか分からなかった。周囲の優秀な人に圧倒されて、「自分はダメだ」と焦っている時期があったんです。
――そこからどうやって抜け出したんですか?
てらだ:「できないこと」にばかり目を向けるのではなく、「自分ができること」に注目して、自分のマインドをプラスの方向に変えたんです。たとえば、Javaが好きだという気持ちや、特定の分野に強くなること。それがあれば、組織でも「この分野ならあの人が詳しい」と頼りにされるようになります。
Javaエキスパートが語る、AI時代の学び方
――これからJavaを学びたいと思っている方や、現在Javaを使っているエンジニアは、学習や情報収集をどのように行えばいいでしょうか?
てらだ:5年前、10年前の情報が今ではもう役に立たないということも珍しくない時代です。今、情報収集に最もおすすめしたいのは、AIの活用です。新しい検索エンジンの登場です。
――たとえばどう使うとよいのでしょうか?
てらだ:たとえばChatGPTに、「Javaをこれから学びたい初心者です。ステップバイステップで教えてください」と聞いてみてください。すると最初の学習ステップから丁寧に案内してくれますし、「もっと詳しく」と深掘りもできます。しかも何度聞いても怒られません(笑)。
――確かに、人間の先輩には気を使いますよね。
てらだ:そうなんですよ。昔だったら、何度も同じ質問をすると「それ前も言ったよね?」と怒られることもありました。でもAIは365日、何度でも付き合ってくれる。精神的に安全に学べる環境なんです。
――中級者はどこを意識して成長すればよいでしょうか?
てらだ:AIが出した回答に対して、「これは本当に正しいのか?」と懐疑的に見て、最終的には自分で考え修正できる力を持つことです。コードレビューの力も重要ですし、ユニットテストを書く力、Unixやネットワークの基本知識も必要です。
――今後、AIがもっと進化したらどうなると思いますか?
てらだ:AIエージェントを活用したソフトウェア開発がより進むでしょう。私は最近GitHub Copilot Agentsを試して、たった3日である程度動作する複数のマイクロサービス(※3)を作ることができました。認証やサービスディスカバリー、フューチャーフラグ(※2)まで備えていて、とても詳しいドキュメント付きでした。
※2:フューチャーフラグ…特定の機能をオン・オフで切り替えられる仕組み。実験的な機能や段階的なリリースに使われる。
※3:3日で作ったマイクロサービスの動画:https://www.flickr.com/photos/yosshi2007/54685150319/
https://github.com/yoshioterada/AI-Driven-Ski-Shop-Dev-with-Jakarta-EE
――それはすごいですね。
てらだ:今後は、AIを使いこなせる人とそうでない人の差が明確になるでしょう。まずは「使ってみる」ことが大切です。

てらだよしおさんが今注目しているトピック
――てらださんが現在注目しているトピックを教えて下さい。
てらだ:1つは、Javaシステムのモダナイゼーションです。いまだに古いJava EEシステムが稼働しているケースもあり、それらをクラウド対応したり、モジュール分割したりといった変革が必要です。
――昔は高スキルの人が必要でしたよね。
てらだ:はい。でも今はツールの進化で、AIや支援ツールを使えば若手でも古いコードを理解をしてリファクタリングできるようになってます。
たとえば、システムが古くなり実装に関する詳細な仕様書がないシステムや、ドキュメントがメンテナンスされず仕様書と実装に大きな隔たりがあるようなシステムも、AI を利用する事で以前よりも簡単に理解できるようになっています。
そして、どのようにモダナイズをしていくのかも教えてくれます。以前のように、既存の実装に詳しい「あの人」に聞かなければ分からない、手を加えることができないといった、特定人物への依存を減らす事ができるようになっています。
――AIエージェントの未来はどう見ていますか?
てらだ:システムやコーディングに関する正しい知識をもつエンジニアが正しく AI エージェントを利用すると、より複雑なアプリケーションも、AIと協調して開発できるようになります。。 今後は、AI エージェントを利用したアプリケーション開発はエンジニアにとって必須の力となって来ると考えています。ぜひ今日からお試し下さい。
そして、通常のアプリケーション開発だけでなく、自らが AI エージェントを作ったり、 AI 対応のアプリケーションを構築する事もあります。その際に LangChain(※LLMアプリ構築用のフレームワーク)やLangGraph(※LLMの状態遷移フローを定義するライブラリ)、MCP(※複数のAIエージェントを連携させるためのプロトコル)などの活用も進んでいきます。こうした周辺の技術やライブラリに関する知識や情報も収集し、活用するためのノウハウも、どうぞ身につけて下さい。
※LangChain: LangChain**とは、LLM(大規模言語モデル)を用いたアプリケーションの構築を支援するオープンソースのフレームワークである。プロンプトの設計、外部ツールやデータベースとの連携、複数ステップから成る処理の実行など、LLMを活用した高度な処理の構築を簡単にする機能が多数用意されている。PythonやJavaScriptで利用可能。
参考: LangChain公式サイト
※LangGraph: LangGraphは、LangChainプロジェクトが提供するライブラリで、LLMの処理フローを状態遷移グラフ(State Machine)として定義できる仕組みである。例えば、チャットボットの会話状態や、ユーザーからの入力に応じて処理を分岐させたい場合などに、LLMベースのアプリケーションの状態管理を柔軟に構築できる。
参考: LangGraph公式ドキュメント
※MCP: MCP(Multi-Agent Coordination Protocol)は、LangChainが提唱している複数のエージェント(LLM)を協調動作させるためのプロトコル**。各エージェントに役割を持たせ、プロトコルに従って連携させることで、LLM同士がタスクを分担・相談しながらより複雑な処理を遂行できる。LangGraphと組み合わせて使われることが多い。
参考: LangChainブログ: MCP紹介記事
てらださんをTechFeed上でフォローしよう!
エンジニアへのメッセージ──「無限の可能性」を信じて
――最後に、初学者・若手エンジニアへのメッセージをお願いします。
てらだ:エンジニアは、新しい時代を創っていけるスーパーヒーローになれる職業です。焦らなくて大丈夫。できないことがあるのは当然です。周囲にバカにされてもいい。「数年後の自分はできている」と信じて、一歩ずつ進めば必ず変われます。
――とても力強い言葉です。
てらだ:僕自身も、過去にたくさんの悔しさや涙を経験しました。でも、それを乗り越えて今があります。読者の皆さんにも、自分自身の未来を想像してほしい。今日から始めれば、未来はきっと変わるはずです。