7日投開票された東京都知事選に初めて挑んだ人工知能(AI)エンジニア安野貴博さん(33)は、AIなどのデジタル技術を生かして公約に支持者の声を反映させる姿や「デジタル民主主義」の提唱への共感を呼んだ。
政治経験がなく、知名度が低くても全体で5位となる15万票超を獲得した。今後どのような活動をするのか。4回の単独インタビューで「葛藤」を探った。(松島京太)
◆システム開発の技術は「政策づくりに生かせる」と確信
「これまでの選挙は候補者の考えを一方的に伝える場になっていたが、テクノロジーを使えばこの構造自体を変えられるのでは」
安野さんは、公約を6月20日の告示当日にインターネットで公表した。選挙戦で試みたのは、公約の更新(アップデート)。選挙戦でソフトウエアの開発プラットフォーム「GitHub(ギットハブ)」を、政策議論に「応用」できないかという実験を試みた。
GitHubには、ソフトウエアを動かすための「コード」を、いつ誰が変更したか履歴が残る仕組みがある。コードを「政策」に置き換えれば、何が議題になり、どのような議論を経てきたかを「見える化」できる。安野さんには確信があった。「政策づくりにも生かせる」
◆「AIあんの」は質問を分析し、反映することも可能だった
AIアバター(分身)「AIあんの」による質問対応と情報収集にも取り組んだ。選挙期間中、YouTube(ユーチューブ)で24時間、AIあんのが視聴者のコメントに応じ、約7400件の質問に答えた。
「AIあんの」は代役をしただけではない。質問の中から支持者の要望をAIで分析し、その妥当性をGitHubで検証。聞きっぱなしではなく、政策に反映する仕掛けをここにも組み込んでいた。
例えば「子育て支援策の所得制限の撤廃」を求める声がコメントで多かったと分析し、GitHub上の議論を参考にした上で、当初の公約にあった教育支援の「所得制限に応じて」という文言を削除した。
ただ、声の数が多ければいいわけではなく、鋭い提言があればすかさず政策に反映する。公約に加えた「男性のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種への助成」について、安野さんは「実は選挙に出るまで知らなかったが、変更提案を読んでその通りだと思った」と振り返る。最終的に、公約に変更を取り入れた提言は85件に上った。
◆早大マニフェスト研の公約検証では小池知事を上回りトップに
早稲田大マニフェスト研究所は「公約が都民の声を吸収しながらアップデートされる点が面白い」と評価。都知事選の候補者9人の公約を検証し、安野さんの公約を100点満点で50点と最高得点を付けた。小池百合子知事(71)の公約は3...
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