こんにちは、テックフィード白石です。
日本のエンジニア界隈をリードするエキスパートに、テクノロジーの最前線を語っていただくYouTube動画連載「Ask the Expert」の新着動画が公開されました!
今回は、Webアクセシビリティのエキスパート木達一仁さんに、Webアクセシビリティの最新動向について詳しく伺ってきました。
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木達一仁さん(株式会社ミツエーリンクス エグゼクティブ・フェロー)
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聞き手: テックフィード白石
以下に掲載するのは、インタビュー動画の内容の要約です(正確な書き起こしではありません)。
内容をフルにご覧になりたい方は、ぜひ動画をご視聴ください。
(ご質問、ご感想などはYouTubeのコメント、もしくはこの記事のコメント欄でも受け付けております)
Webアクセシビリティが義務化?
木達:まずひとつ目に注目しているのは、 4月1日から施行される改正障害者差別解消法 です。
その法律自体は、ウェブアクセシビリティを義務化するだとかそういうことではないんですけれども、
これを機会にアクセシビリティ向上に取り組んでいこうという前向きな流れが高まると思います。
白石:このページ見ると、「義務化」と書いてあるんですが、義務に違反した場合ってどうなっちゃうんですか?
木達:・・・えっと、その部分について話すだけで、30分とかすぐに経っちゃう かもしれません(笑)
白石:(笑)
木達: ただ重要なのは、Webアクセシビリティが直接義務化されるということではありません。Webアクセシビリティは「環境の整備」という分野に含まれていて、これは法的義務とは異なる種類の努力義務という扱いになっています。
白石:とはいえ、よりアクセシビリティへの取り組みは進んでいく、と。
木達:はい、そう思います。特に上場している大企業さんなどの間で意識が高まっていくんじゃないでしょうか。それがそのうち中小企業にも、そして全体にも…となればいいなと思っています。
WCAG 2.2、何が変わった?
木達:今年は、 昨年10月に勧告されたWCAG 2.2をより着実に活用していく年になる と思っています。3月1日に、私も活動に一部参加しているWebアクセシビリティ基盤委員会で日本語訳を公開しました。これを利用して、WCAGの最新版でコンテンツをアクセシブルにしていこうという流れが増えていくのではないかと思います。
白石:WCAGは2.1から2.2になったという流れですか?
木達:はい。2016年版のJIS規格はWCAGのバージョンで言うと2.0のままなのですが、WCAGの方は着実に2.1、2.2とバージョンアップを重ねていて、国際的には、特にヨーロッパは2.2を使う流れになってきています。今のところバージョン2系列としては2.2で打ち止めで、2.3を作る予定はありません。この先、WCAGとしては一気に3系列に向かおうとしています。
白石:2系列は何を目指していて、3は何が違ってくるのでしょうか。
木達:バージョン2系列は2.0からの流れを汲んでいますが、その前に1.0の時代がしばらくあったんです。ただ、1.0は抽象的な内容で、アクセシビリティに関する基準を満たしているかどうかの判断が難しい部分がありました。これを、 より客観的にテスタブルなガイドラインにバージョンアップしたのが2.0 です。
木達: 2.0では、テスタブルになっただけではなくて、技術非依存という方針をとりました。これは、HTMLやCSS、JavaScriptなどの特定の技術に文字通り「依存しない」形で規定して、抽象度を上げる方式でした。けれども、iPhoneが出てきたり、SilverlightやFlashがなくなったりという技術変化の波を2.0では受け止めきれない部分があったんです。
また、弱視や学習障害など一部の障害特性への対応の弱さが指摘され始めて、やっぱり2.0のままでずっとはいられないということで2.1が作られ、さらに2.1で漏れた部分のフォローアップのような形で2.2が出てきたという流れです。
WCAG 3.0は「ぶっ飛ぶ感じ」 ー 後方互換性、なし!
白石:なるほど。では、3.0では?
木達: 3.0はもう本当にぶっ飛ぶ感じ ですね。WCAGという略語自体は変わらないのですが、バージョン2までは、Web Content Accessibility Guidelinesを略してWCAGだったんです。けれど 今度はW3C Accessibility Guidelinesを略してWCAGにしようとしています 。
木達:バージョン2まではまさにWebコンテンツのアクセシビリティを扱っていたのですが、3.0ではCMSやオーサリングツール、ユーザーエージェントなど、デジタルアクセシビリティを取り巻くいろいろなものが対象範囲になります。Web技術に絡むものを包括的にこの3.0でカバーしようという意気込みで作られつつある。でも、本当にまだまだ流動的で、ここから大きな方針転換も起こり得るので、仕様として固まって勧告されるのは5年後、もしくはもっと先かもしれません。
白石:なるほど。ところで「Web Content」から「W3C」に変えるのはどういう課題意識からなのでしょうか。
木達:そうですね、 抜本的な仕様変更が必要だという話になっていると私はとらえています 。たとえば達成基準です。バージョン2系列には「原則」、「ガイドライン」、「達成基準」という3階建ての階層構造があるんですけども、たとえばシングルAに適合するには、今のモデルではシングルAの達成基準を全部パスしないと「適合」とは言えないんです。でも、大規模サイトであればあるほど、たとえば数千万ページ全部をシングルA適合させるのは難しい。
今のモデルでは評価の柔軟性が足りない、もう少しグラデーションが欲しい、コンテンツの提供側だけではなく利用側からしても、もうちょっと分かりやすさが必要ではないか、など、いろいろな意見があります。
WCAGに注目すべき理由 - ISO化、JIS規格化も?
一方、 WCAG 2.2に関しては将来のJIS規格になる可能性がゼロではありません 。もともと2016年版のJISはISO 40500と一致する規格として作られたんです。そしてそのISO 40500の中身はWCAG 2.0なので、技術的にはWCAG 2.0と同じなのですが、8年が経って古くなってきている実情があります。2.2に関しては、すでにISO化される予定になっていると聞いているので、つまりISO 40500が2.2にアップデートされるんだと思います。
白石:そうなると、いよいよ今度はJISを改正する機運が高まってくるのですね。
木達:何年後になるか分かりませんが、アップデートされて 「JIS規格=WCAG 2.2」になる可能性があります ね。そういう意味でも今から2.2にしっかり取り組む必要があると思います。
白石:そうすると、各社今からWCAG 2.2を見据えての対応になりそうですね。
木達:そうですね。2.0よりはだいぶ達成基準の数が増えるので大変なことだとは思います。ただ、さっき申し上げたようにWCAG 2.3はないので、 達成基準の増加はWCAG 2.2で打ち止めになります 。WCAG 3.0が完成するまで、しばらくはWCAG 2.2の達成基準をいかに効率よく効果的に達成していくかにフォーカスできる、そういう時間的猶予があると理解しています。
白石:なるほど、ありがとうございます。
技術的な内容でなくて恐縮ですが……ざっくり、WCAG の過去・現在・未来みたいな内容のお話をしています。