7/23にYouTubeライブで配信したエキスパートだらけのカンファレンス「TechFeed Summit #2」。TechFeedの相談役を務める及川卓也さんのモデレートにより、IoTエキスパートの菊地仁さん、岡島康憲さん、田中正吾さんに「IoTの課題と展望」について語り合っていただきました。
「エキスパート・トーク」登壇者の皆さんTably株式会社 代表取締役 Technology Enabler 及川卓也さん
144Lab取締役・スイッチサイエンス執行役員 菊地仁さん
岡島康憲さん
ワンフットシーバス 田中正吾さん
IoTエキスパートが、いま気になる注目トピックは?
及川:まずは自己紹介と、皆さんが最近気になっているトピックを聞かせてください。
菊地:144Lab取締役、スイッチサイエンス執行役員の菊地です。スイッチサイエンスでは、オープンソースのハードウェアのショップのECストアを運営、受託開発でウエラブルデバイスなども作っています。
前職の通信会社ではIoTの事業開発をやっていて、いわゆるIoTが世に知られる前、2013年くらいからFitbitとの提携でウェアラブルを活用したヘルスケアサービスに関わるようになりました。
2014年からシリコンバレーに駐在し、「Maker Faire Bay Area」というイベントに関わるうちに、モノづくり系のコミュニティとも仲良くなりまして。帰国してからは、スイッチサイエンスのお手伝いをしています。
IoTに関わる前は、携帯電話のJavaのプロダクトマネージャーやセキュリティ証明書の載せる開発など、通信会社の立場で新しいサービスビジネスを立ち上げていました。
【菊地さんの注目トピック】
英Arm、ソフトバンクGへIoT事業を移管。半導体IPビジネスに集中
IoTサービス事業をソフトバンクグループに移管し、シリコン設計や半導体セキュリティビジネスに原点回帰する決断が、潮目が変わる一つのきっかけになるのかなと考えています。
岡島:私はNECでWebサービスの企画開発を務めた後、2011年にハードウェアを製造して販売するハードウェアメーカーの会社を創業しました。SaaS型のIoTデータのビジュアライズの会社も創りました。
最近は、IoT関連のスタートアップやベンチャー立ち上げのお手伝いをしています。大学や産総研といった国立研究機関と連携する研究開発型ベンチャーを増やしたり。エンジニアリングというよりは、事業寄りのサポートが多いですね。
IoTに絡み始めたのは、2005年ぐらい。その後一緒に会社を立ち上げた友人と一緒に、脈拍計をインターネットに繋いで死んだら死んだとツイートしてくれるデバイスを作ったり、2ちゃんで発表したりしていました。
及川:その当時って、ハードウェアを作るのも結構大変だったんじゃないんですか?
岡島:まだArduinoとかメジャーではなかったので、H8マイコンにチップをつないで、ひたすらプログラムを書いてました。技術的にも難しかったし、面倒くさかったんですね。ハードウェア側とソフトウェア側の人たちの文化の断絶とか。お互いがお互いのことをよくわかってない状況下でのコミュニケーションに四苦八苦しながら、情報発信してました。
【岡島さんの注目トピック】
時価総額でテスラがトヨタを抜いた
ソフトウェア屋であるっていうテスラが自動車屋さんを抜くって、エキサイティング。なかなか面白いなと思ってますね。
日本全国で「スタートアップ支援プログラム」が増え続けている
地方自治体や事業会社がスタートアップと組んだり、スタートアップを生み出すといった取り組みに対して、みんな頑張ってると感じています。
田中:フリーランスエンジニアの田中正吾です。昔はFlash、今はWebのフロントエンドエンジニアとして、情報とインターフェースが合わさるアプローチでIoTやMixed Realityといった技術も取り入れながら、活動しています。
ウォンバットが好きで、自前で情報収集するクロールツールを作ったりしてます。
【田中さんの注目トピック】
ソラコム、au 5Gに対応したMVNO事業を20年度中に開始
IoTの猛者であるソラコムがIoTのデータ通信量が小さいやりとりから、Mixed Realityや動画データまで全方位でカバーする。そのことによって映像の可視化からAI・IoTなどが全部フラットになり、法人だけではなく個人でも気軽に試すことができる。プロトタイピングの目線でも面白いかなと、妄想が広がっています。
IoTは普及したと言えるのか?
及川:まずお聞きしたいのは、IoTの状況について。現状すでに十分成功し、普及しつつあるのか。それとも期待先行でまだまだである、むしろちょっと停滞しつつあるなど、率直な意見をお聞きしたいです。
岡島:B2Cの観点、B2Bの観点で分けて考えるとわかりやすいと思っています。B2Cで考えると、Alexaやボイス系のデバイス、ネット経由でスイッチを入れられるモノを大手メーカーからスタートアップまで、IoT的な切り口で売り始めている。売り物が出ているという時点で、ある程度普及のための下地が整いつつあると考えています。
一方で、B2Bの領域はまだ技術先行の部分が強いのかなと。例えば、工場現場のファクトリーオートメーションや倉庫の部材管理など、既存の技術とインターネットの組み合わせにはまだ距離感があると思っています。現場側がデジタライズされていない。B2Bはまだまだ成長の余地がありますね。
及川:たしかに工場現場とIT、デジタル技術との親和性については、まだ解決を図っていく必要性がありそうですね。
菊地:BtoBの方を深掘りさせていただくと、良い部分としてはハードウェアの民主化。いわゆるラピッドプロトタイピングをやるためのハードウェアが、ここ3~5年で格段に安くなった。概念実証する敷居が下がったし、その認識がビジネスサイドにも広がってきた。
ただ一方で、IoT、IoTと言ってた人たちが、今度はデジタルトランスフォーメーションだとDXだと言い出して、結局それをどう使い倒すか、もしくはそれをソフトウェア的にどういう形でデジタルとして処理するのか方法論が見い出せてない。
電池やセンサーにもまだ課題があったりと、スケールするには、まだビジネスサイド・技術サイドに成長痛というか壁を越えなければいけないポイントがあるんじゃないかと見ています。
田中:toクリエイターという目線で見ると、民主化が進んだことによって個人で作れる幅が広がり、IoTはすごく身近になったと思っています。例えば、デバイスをプロタイプで作ったり、企業とディスカッションできたりなど、非常に面白い流れと熱量を感じています。
ただ難しいのは、使いなれた道具で作品を作っていた美術アーティストなどには、個人の制作ツールとしてまだまだ結びついていない。今は移行期だし、今後もどんどん成長していくとは思っていますが。
及川:ありがとうございます。IoTの現状が見えた感じがします。ハードウェアの民主化が進んで、PoCの概念実証が少しやりやすくなったという菊地さんの話は、私もすごく感じていました。
その反面で、工場や店舗といった現場との谷があるじゃないかなと。もしくは谷の存在を理解しないまま、PoCでできるからと進めてしまい、負債化してしまうことがあるのではという想像をしたのですが、いかがでしょう。
菊地:まさに、エンジニアリングモーターの課題は非常に大きく出ています。工場やビルの半地下でセルラーは繋がるのかとか、BluetoothやWi-Fiが混線するとか、概念実証をスケールさせる段階でパイロットの目的を見失うと結構苦戦することが多いようですね。
岡島:概念実証、PoCから量産に向かうときに生まれる谷を埋めようとしているプレイヤーは、確実に増えつつあります。深センや日本拠点で、スタートアップやハードウェアを作って売りたいと考えている人たちに伴走する形で、設計の手直しや工場との交渉サポートなど、協力する人たちが増えてきました。
一方で、概念実証や検証ができていない状態で、動いているっぽいからとりあえず深センに行けばハードウェアが出来上がると考えてします人もいる。そういった基本的なリテラシーはまだまだ伸ばしていく必要性はあると思います。
Webサービスをスケールさせたいといった場合は、インターネット上に情報源がたくさんあるのですが、ハードウェアに関してはまだまだ情報が少ないことも要因の一つではないでしょうか。
田中:私はPoCで関わるケースが多いのですが、やはりハードウェア面、ソフトウェア面、あるいはクラウド面や通信面で橋がかかってない場合があって、谷に落ちちゃうケースがあります。橋渡しの橋渡しをするような振る舞い、声に出して全部伝えきるコミュニケーション、ヒューマンスキルがとても重要ですね。
最近はノーコード・ローコードといった開発ツール出てきたので、うまく使うやり方もあると思っています。ハードウェアを作ったことがある人にソフトウェアの力を付与するために、ノーコード・ローコードのツールを導入して一緒にペアプログラミングするなど、それぞれのリテラシーを滑らかにするための橋渡し方法はいろいろ試しています。
及川:たしかにIoTにはデバイスがあり、通信の部分がありますが、その先の部分についてはAIと一緒の文脈で語られたりすることが多いと思います。
また、センサー・ストリームデータをどう処理するかというクラウド側にもいくつかの手法があり、1人が全部できることはない。あったとしても、総合格闘技のように人材が埋める部分と技術が埋めれる部分があるということですね。
ちょっと気になったのが、ノーコード・ローコードは魅力的だと思う反面、Webと違ってデバイスはプロジェクトのライフサイクルが長いこと。ノーコード・ローコードがその長いライフサイクルでちゃんと生き残っていけるか不安で、使うのをためらってしまうのですが、そこはいかがでしょう?
田中:私は長期的な目線で進めるよりは、ブロックプログラミングを使ったり、データを出す頻度を早くするなど、短いスパンで破棄していくかたちが適していると思います。長いスパンでメンテにも使うとなると、ちょっと怖いかなと。
及川:ノーコード・ローコードの考え方は、おそらくクラウド側ですよね。クラウドは基本的に壊しながらどんどん進化させていくことを前提に作る。デバイスを作る側はクラウドが専門的ではないので、楽できるものは楽しまくるという形で進めるのが今の段階では安全なのでしょうね。
岡島:クラウド側のサービスが、製品のライフサイクルよりも早く終わったらどうしようという話はハードウェアにもあります。例えば、量産に向けてこのカメラモジュールを使おうと進めていたら、製造直前にその型番が製造中止になってしまうこともあったりする。量産に必要なキーパーツが製造中止になってしまうリスクは、避けなくてはいけない問題の一つではあります。
その一方で、部材が製造中止になったり、クラウドサービスが終わるスパンよりも、その製品を作っているスタートアップがつぶれるスパンの方が早いこともあるんですよね。なので、部材供給が止まる心配より、自分の会社の預金残高をちゃんと気にしようという話は意識的にしています。
もう一つのポイントは、設計段階でいかに疎結合にさせておくかということ。例えば、実証実験や初期の1000台、2000台の出荷まではFirebaseで支えられるけど、それ以降はもう自前でサーバー立てないと回せない。序盤はスピード重視でも、ある程度見通しが立ってきたら安定性重視で部材やクラウドサービスをリプレースしていくのは、重要な考え方の一つだと考えています。
IoT人材育成に必要なことは?
及川:最後に、IoTに興味があり、これから関わってみたいと考えている人に向けて、どのような知識を学び、技術やスキルを身に付けると役立つのかなど、IoT人材に必要なことをお聞かせください。
菊地:自分の得意分野に加え、デバイスからクラウドまで広く浅くとりあえずやってみる。いわゆるT字型人材ですね。ハードが民主化されてかなり敷居が下がってきたので、まずは一通りやってみながら、自分の興味を広げていくことをお勧めします。
田中:まさにいろいろ触ることは大事。また、細分化された技術や企業のキーテクノロジーを広く高く打ち抜けるところがIoTのメリットなので、異分野や他部署への理解力・共感力を高めることも意識するといいですね。
それぞれ得手不得手があるので、谷やすき間を埋めながらチームで動けるようにする。人材の能力だけではなく、デザインやクラウド、Arduinoが好きだからやるみたいな所属や領域に区切られない共感に基づいたチームで何か作ってみると新たなクリエイティビティが生まれていくんじゃないでしょうか。
岡島:趣味でモノを作っていくなら、自分の技術にこだわりすぎずにいろいろ調べながら自分の手を動かしていく。初めてソフトウェアを書いたあの日を思い出しながら、はんだ付けをする気持ちが必要なんだと思います。
一方で、企業としてIoT人材を増やしていきたいのであれば、予算を取って若手にソフトウェア系の勉強会に参加させたり、逆にハードウェアの知見をIoTのコミュニティに還元するなど、きちんとギブアンドテイクする。そういったことが企業の経営者には求められると考えています。
さらに今回のエキスパート・トークでは、IoTの量産化におけるセキュリティ確保やプロビジョニングなどが語られました。
もっと詳しい話を聞きたい方はぜひ、TechFeed Summit#2動画アーカイブをご覧ください。
エキスパートだらけのライトニングトーク
エキスパート・トークの後は、今回登壇された菊地さん、岡島さん、田中さんに加え、のびすけさんにライトニングトークをしていただきました。
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