今、AI(人工知能)が、文字通りあらゆる分野でとてもホットな話題になっています。しかも、その内容は日々進化しています。いったいAIと英語学習はどのような関係にあるのでしょうか。

 これについて考えるには、取りあえずまず一度、google翻訳を試すことをお勧めします。端的にいって、その精度は驚異的です。音声入力でさえ、きちんとした区切りで話していけば、極めて正確に認識して、正確な英訳を返し、(ご丁寧なことに)それを読み上げてくれます。

たとえば、文章の例を挙げると

  • (a)最近は地震が多い。⇒
    Recently there are many earthquakes.
  • (b)あの人は気難しい。⇒
    That person is hard to please.
  • (c)この会議は無意味に長い。⇒
    This meeting is meaninglessly long.
  • (d)生産効率を上げるには、私たちはどうすれば良いか。⇒
    How can we improve production efficiency?

ーーと言った具合で、語句だと、

  • (a)暴風警報⇒
    storm warning
  • (b)人間関係⇒
    human relations(※複数になっている点がポイントです)
  • (c)最先端技術⇒
    state-of-the-art technology
  • (d)以心伝心⇒
    tacit understanding

ーーといった具合です。ウェブでも調べ、信頼できるネイティブにも聞いてみましたが、すべて正解でした。

 ただ、このすぐ後で検証しますが、思ったような英語に変換してくれないケースもあります。しかし、よ~く考えて下さい。私たちは、普段日本語で話すときに正確な言葉、適切な言葉が使えていますか。書くときはどうですか。それに、AIは日進月歩どころか、秒進分歩で、1日24時間、1秒間に1万ページ以上の速度で学習を続けることが出来ます。これだけのインプットを続ければ、精度はみるみるうちに高まっていくでしょう。

「AIに合わせる」ことを学ぶ

 そういった点を踏まえて、実践的な話をすると、google翻訳などのAIによる自動翻訳でおかしな英語が返ってこないようにするには、「AIが私たちに合わせる」のではなく、「私たちがAIに合わせる」ことを学ぶ必要があります。たとえば、じつは上の文例の(d)は、初め、「生産効率を上げるにはどうすれば良いか」と読み上げたのですが、google翻訳は「How to improve production efficiency」という英語を返してきました。つまり、日本語のクセで、私が「私たちは」という主語を省いたため、AIもそれを省いてしまったのです。そこで、今度は「私たちは」をきちっと入れて読み直してみると、AIは惚れ惚れする英文を返してくれたという訳です。

 もし本当に、たとえば使われている単語や言い回しがおかしいと思うなら、ウェブや別のアプリで調べれば良いだけのことです。とことんこだわるなら、中級者向けですが、「Longman」や「Oxford Dictionary of English」(地上最強の辞書)などの英英辞典を見るのもひとつの手です。この辺りは、今の時代、スマートフォン一つでどうとでもなります。

 さて、これだけの精度を持つ自動翻訳・通訳を無料で使えるわけですから、これを利用しない手はありません。いったいどのような学習方法があるでしょうか。まず一つ目の方法は、上のように、思いついたことや目にしたことをすべてリアルタイムで英語にして練習する方法です。「これは」と思う表現は、記録に残せばよいでしょう。

 私なども、英語を学び始めのころには、「何でも見たこと、言いたいことを英語で言うように訓練すればいいんだよ」などというアドバイスをよく聞いたものですが、これはまったくもって無責任極まりないアドバイスで、「言いたいことが口にできるなら世話はないわい」などと思っていたものです。しかし、なんと、高度なAIの登場によって、このアドバイスが現実のものになってしまいました。

興味あるスピーチでAIを試す

 もう一つの活用方法は、自分の興味のあることや人に話したいことについて短いスピーチを作り、それを繰り返し練習して身に付けてしまう方法です。英語の学習というと苦労の連続という人も多いかもしれませんが、潜在的な能力としては、人はだれもが非常に高い可能性を持っています。その能力が発揮されるのは「集中状態」のときです。たとえば、映画やドラマを夢中で観ていると、だれでもたった2時間程度で1G近い情報を記憶することができます。ですから、自分の興味のあること、人に話したいことをそのままズバリ英語にして練習すれば、それは間違いなく最高の学習法になり得ます。

 たとえば、私はつい先日、革新的ながん治療法についての記事を日本語で目にしました。名称を「近赤外線免疫療法」といいます。それで、同僚のネイティブにそれについて話したくなり、どう説明しようかと考えたのです。ところが、「近赤外線」(near infrared)や「免疫療法」(immunotherapy)という言葉は知っていたものの、「転移したガン」は知らないといった具合で、一発でうまく説明できるか自信がありませんでした。それでこの際ということで、google翻訳を利用してみたのです。するとつぎのような結果になりました。

読み上げた日本語
  • (a)日本人の研究者が、近赤外線免疫療法というがん治療法を開発しました。
  • (b)この治療法は、非侵襲性です。
  • (c)この治療法は、がん細胞のみを破壊します。
  • (d)この治療法には、重い副作用がありません。
  • (e)この治療法は、転移したガンにも効きます。
  • (f)この治療法は、あと2年か3年で実用化が期待されています。
※しつこいぐらいに同じ主語を繰り返しているのは、もちろん、AIに合わせているわけです。
google翻訳の回答
  • (a)A Japanese researcher has developed a cancer treatment called near infrared immunotherapy.
    ※はじめ「日本人」と読むと、「Japanese」と返されました。つぎに「日本人研究者」と読むと、「Japanese researchers」と返されました。
    ところが、じつはこの治療法を着想したのは一人の日本人研究者です。そこで、試しに「日本人研究者と読み上げてみるとうまくいったという次第です。この辺りが非常に難しいと言え、変な訳が返ってくる一因になっていると思われます。
    ※また、AIが何気に完了形を「使いこなしている点」に驚きました。完了形なら分かるという人がいるかも知れませんが、的確に使うとなると、かなりハードルが高いはずです。
    ※ちなみに、念のためWebで調べてみると、「近赤外線免疫療法」の正式名は「Near Infrared Photoimmunotherapy」でした。
  • (b)This treatment is noninvasive.
  • (c)This treatment destroys only cancer cells.
  • (d)This therapy has no serious side effects.
    ※なぜか「treatment」が「therapy」になっています。2度、3度とやっても同じでした。これも、AIの何がしかの進化を意味するのでしょうか。他、「no」という英語独特の「ゼロの概念」を使い、さらに「effects」と複数形を使うなど、驚くほど正確です。
  • (e)This treatment also works for metastasized cancer.
    ※まず「治療法が効く」という日本語にたいして、しっかりと「works」を返しています。「薬が効く」、さらには「仕事が上手くいく」でも「work」を使いますが、日本人にはなかなか使いこなせない言葉の一つです。また、「転移したガン」を、別途ウェブで調べてみましたが、ガンが転移することをmetastasizeと言うようで、本例では「転移したガン」をそのまま英訳したようです。しかし、さらに調べると、「転移ガン」というのは「metastatic cancer」と言うようで、念のため改めて「転移ガン」と読み上げると、google翻訳はこの言葉を返してきました。なかなかやるな。
  • (f)This treatment is expected to be put into practical use in 2 or 3 years.
    ※この文例については、初め「2、3年で」と読み上げたのですが、それに対してgoogle翻訳は「23年」と返してきました。そこで、「2年か3年で」と読み上げ直したところ、ズバリの英訳を返してきました。この辺りにも、難しい点があるのかも知れません。「今のところは」、ですが。

 さて、このようにして英語のチェックが終わると、その日のうちに少しばかり練習をしておき、翌日、さっそくこれらの英文をつなぎ合わせて話をしたところ、大いに盛り上がりました。もちろん、「皆さんは若いからいいけど、私はあと3年間はガンにならないように気を付けないとね」(Luckily, you are young. I have to be very careful not to get cancer for three LONG years.)というジョークを交えたことは言うまでもありません。AIを使い、言葉の壁を乗り越えて盛り上がる……まさしくSFの世界が現実となってきました。

(※)上記の英文もすべて、ネイティブに見てもらいましたが、「問題なし」でした。

導入され始めた「英会話AI」

 確かに自動翻訳の精度は驚くほどですが、AIはすでに、このような、ある意味単純な言葉の変換はすでに飛び越えています。それがどういうことかというと、ご存知の方も多いと思いますが、「人と会話のできるロボット」がすでに出現しているのです。それも、ご丁寧なことに、言葉が自然なだけでなく、顔の表情を変えて微妙な感情表現ができる、「人間そっくりのロボット」です。

 私がYouTubeで見たロボットは等身大のものでしたが、頭の毛がなく後頭部はアルミか何かの薄い膜で覆われていました。しかし、もちろん、これは無闇に人間の恐怖心をあおらないようにという配慮からだと思います。それというのも、このロボットは、視覚センサーによって人間の表情を読み取り、それを理解するだけでなく、自らも非常に微妙な表情で話すことが出来、本当にまるで人間かのように振る舞うのです。会話内容も当意即妙で、開発者も、「…can… and use all of this to form relationship with people」(そして、これらのデータを使って、人間と関係性を築くことができます)と言っていましたが、まさしくその通りとしか言いようのない驚きのパフォーマンスでした。

 ちなみに、そのロボットは“被験者”の男性とひとしきり話した後、「Would you like to play a game of rock-paper-and-scissors, robot-style?」(ジャンケンをしませんか。ロボット流で)と言い、実際にやって勝ってしまいました(※)。そして、その後なんと「This is a good beginning for my plan to dominate the human race, a,ha,ha,ha」(これは、人類の支配を目指す私の計画にとって幸先の良い出足です、あははは)と言い、ニコリとやってのけたのです。これはまったくもって笑えない話で、あらかじめプログラムされていたと信じたいところですーーーじつは、その後で、「Just kidding.」(冗談です)と言って、うまく(?)フォローを入れてくれたのですが。

(※)視覚センサーで相手の腕や手の動きを読み取って、出す手を正確に予測したのかもしれません。

 いずれにせよ、すでに会話についてもAIはこのレベルまできており、実際の話として、英会話学校や企業にも「英会話ロボ」「英会話AI」が導入され始めています。ロボット相手であると、妙に緊張することがありませんので、これらのサービスを使ってどんどんと話すというのはとても魅力的なトレーニング法のように思われます。話す力を伸ばすもっとも有効な方法は、なんといっても、とにかく量をこなし、失敗を重ねることだからです。

 さらに、AIなら、「話す」だけでなく、「読む」、「書く」、「聴く」の何でもこいというのも魅力的です。知識が豊富なのは言うまでもなく、たとえ唐突に「I’d like to talk about near infrared photoimmunotherapy.」(近赤外線免疫療法について話したいです)と言ったところで、何の問題もなく付き合ってくれるでしょう。さらに、こちらが聞けば、詳細な点についてどんどんと教えてくれるでしょうし、モニターを接続すれば、それこそ動画付きで、丁寧に何度でも説明してくれるでしょう。飽きないで付き合ってくれるというのもAIの大きな魅力です。

 最近は英語教育においても、ICT(Information and Communication Technology)が声高に喧伝され、まるでマジックか何かのような話になっていて、私などもときどき「?」と思うときがあるのですが、これだけ高度に進化したAIとダイレクトに会話ができ、「教えてもらう」ことも出来るとなると、ぜひ一台(一人?)欲しいものだな……と思ってしまいます。ビルゲイツは、「パソコンが一人に一台ある世界」を夢見ましたが、それはすでに現実のものとなりました。そう考えると、私のこの夢が実現する日もそう遠くはないのかもしれません。

英語に関する限り、私たちの能力は30%程度しか引き出されていません。これはとても残念なことです。どうすれば残りの70%の能力を発揮できるのか。さまざまな観点から考えています。私の公式サイトはこちらです

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