11月6日、Boxが「Box Partners With NVIDIA to Deliver the Trusted Content Layer for Enterprise AI」と題した記事を公開した。エンタープライズAIの実用化を阻む壁のひとつが、社内ドキュメントを対象とするRAG(Retrieval-Augmented Generation)の検索精度と運用コストだ。今回の発表では、BoxとNVIDIAの提携によって誕生した新しい検索エンジン「Box Context Retrieval」が、検索精度を最大20%向上させながらトークン使用量を最大90%削減するという具体的な数値とともに公開された。
RAGが抱える課題とBoxの立ち位置
RAGは、LLMに社内ドキュメントや業務データを参照させるアーキテクチャとして広く採用されているが、実運用では「検索ヒット率の低さ」と「無関係なチャンクをLLMに流し込むことによるコスト増」という二重の課題を抱えることが多い。検索がうまくいかなければ回答品質は落ち、逆に広くコンテキストを詰め込めばトークンコストが跳ね上がる。
Boxはエンタープライズ向けクラウドコンテンツ管理(CCM)市場において、Microsoft SharePointやGoogle Driveと競合しながら、コンプライアンス・ガバナンス機能の厚さを強みとしてきた。今回のNVIDIAとの提携は、そのコンテンツ基盤にAI検索・推論レイヤーを直接組み込み、エンタープライズAIの「信頼できるコンテンツ層」として差別化を図る戦略と読める。
RAG精度を直撃する「Box Context Retrieval」とは
今回の発表の核心は、NVIDIA Nemotron Retrieverを搭載した新しい検索エンジン「Box Context Retrieval」だ。エンタープライズ向けRAGの実装において、検索精度と効率はそのままAIの回答品質に直結する。Box Context Retrievalはこの課題に正面から取り組む。
公表されている数値が具体的で注目に値する:
- 検索精度(Recall@5)が最大20%向上
- トークン使用量を最大90%削減
- 質問応答速度が最大4倍に向上
「Recall@5」とは、上位5件の検索結果の中に正解ドキュメントが含まれる割合を示す指標で、RAG評価の標準的なベンチマークとして使われる。この数値が高いほど、AIが回答に使うべきドキュメントを正しく拾えていることを意味する。
特にトークン削減90%という数字は、コスト構造に直結する。大量のドキュメントを対象にAIを動かすエンタープライズ環境では、無関係なチャンクをLLMに流し込むことが運用コストを押し上げる主な要因のひとつだ。精度の高い検索でトークンの無駄を削れるのは実装上の実益が大きい。
技術的なポイント
Box Context Retrievalが扱う検索は、単純なベクトル検索ではなくハイブリッド検索(キーワードマッチング+意味的類似性)を組み合わせる。これにより、ユーザーが正確な単語を知らなくても関連文書を見つけられる。
さらに、これまでAIによる解釈が難しかったスキャン文書、画像、音声、動画もインデックス化対象となるマルチモーダル対応が含まれる。保険会社の請求書類や医療機関の研究データといった非構造化コンテンツも検索対象になる。
パーミッション対応の検索(permission-aware retrieval)も重要な特徴だ。AIエージェントは、そのユーザーがアクセス権を持つコンテンツからのみ情報を取得する。エンタープライズ環境での情報漏洩リスクを抑える設計になっている。
NVIDIA NemotronのオープンウェイトモデルをBox AIへ
提携のもうひとつの柱は、NVIDIAのフロンティアスケールなオープンウェイトモデル「NVIDIA Nemotron 3 Ultra」をBox AIに統合することだ。
Boxはマルチモデルのアプローチを取っており、タスクに応じてクローズドモデルとオープンモデルを使い分けられる。Nemotronのようなオープンウェイトモデルは、高ボリュームの専門業務に対してコスト効率よくフロンティア規模の性能を使えるという位置づけだ。
NVIDIA Nemotron 3 UltraはEnterprise Advancedプランの顧客向けにすでに利用可能となっている。
エージェント実行のセキュリティ
BoxとNVIDIAはOpen Secure AI Allianceのメンバーとして、エージェントの安全な実行環境の整備でも協力している。Open Secure AI Allianceは、エンタープライズAIエージェントの安全な展開を推進するために組織された業界横断のイニシアチブだ。
BoxのBox Mountによるコンテンツセキュリティ・ガバナンス機能と、NVIDIAのセキュアランタイム・ポリシー実行・監視機能を組み合わせることで、エージェントがコンテンツへのアクセス・ツール使用・タスク実行をより制御された環境で行えるようにする。
※元記事に記載されているNVIDIA側の具体的な製品名については、編集部で内容を確認中のため本稿では一般的な説明にとどめている。
提供時期
| 機能 | 提供時期 |
|---|---|
| Box Context Retrieval(GA) | 来年初頭、Enterprise Advancedプラン向け |
| NVIDIA Nemotron 3 Ultra | 現在利用可能、Enterprise Advancedプラン向け |
今回の発表は、サンフランシスコで開催中の年次イベントBoxWorksに合わせて行われた。元記事には「BoxWorks 2026」と記載されており、2026年開催のイベントであることが読み取れる。エンタープライズAIにおける検索・取得レイヤーの強化は、エージェントの実用性を左右する基盤技術であり、Box Context Retrievalの実装詳細は今後注目していく価値がある。
詳細はBox Partners With NVIDIA to Deliver the Trusted Content Layer for Enterprise AIを参照していただきたい。