11月6日、環境・グリーンテックメディアのThe Cooldownが「AI cut Arkansas dispatchers' call load by 56%, but errors told crash callers to file reports online」と題した記事を公開した。アーカンソー州クレイヘッド郡の911コールセンターにAIエージェントを導入した結果、非緊急通話の対応件数が56%削減された一方、交通事故の通報者にオンライン申請を案内するという誤動作も発生した——そう報じている。稼働からわずか約2ヶ月の中間報告であり、成果と課題の両面が浮き彫りになっている。
通話量を半分以上削減したAIディスパッチャー「Lezle」
クレイヘッド郡(アーカンソー州)のE-911コールセンターは、「Lezle(レズル)」と呼ばれるAIエージェントを非緊急通話の一次対応に導入した。稼働から約2ヶ月が経過した時点でK8 Newsが取材したところ、直近30日間でディスパッチャー(緊急通報の受令・指示担当者)の通話対応件数が56%減少していたことが判明した。
Lezleはこの期間に約5,000件の通話を受け付け、そのうち半数以上をディスパッチャーの介入なしに処理した。内容の多くは前科・令状の照会といった記録系の問い合わせだ。
クレイヘッド郡E-911のディスパッチャーであるTerra Summersは、現場での変化を「70時間分の業務削減」と表現した。なお、この数字は取材に応じたディスパッチャー自身の発言に基づくものであり、算出の詳細な根拠は元記事では明示されていない。通話1件あたりの平均時間は5分以下であることを踏まえると、件数ベースでいかに大量の通話をAIが肩代わりしているかは推察できるが、正確な計算式については今後の報告が待たれる。
問題はあった:事故通報者にオンライン申請を案内
成果が出ている一方で、早期の誤動作も報告されている。
交通事故を報告した通報者に対し、Lezleが「オンラインで事故報告書を提出してください」と案内したケースが発生した。本来、交通事故の通報には警察官の派遣が必要だ。
「導入直後、事故の通報に対してLezleが『オンラインで事故報告書を提出してください』と言ってしまったことがありました。でも交通事故であれば、必ず警察官を向かわせます」
—— Terra Summers(クレイヘッド郡E-911ディスパッチャー)
現在はこうしたエラーをディスパッチャーが上層部に報告し、内部修正またはプログラマーへのフィードバックで対応する運用になっている。また、「emergency(緊急)」「breathing(呼吸)」「fire(火事)」といったトリガーワードを検知した場合は、即座に人間のディスパッチャーへ転送する仕組みが組み込まれている。
現場ディスパッチャーの懸念
K8 NewsのTikTokコメント欄には、自身もディスパッチャーだと名乗るユーザーから懸念の声が寄せられた。
「AIはすでに通話をリスニングして評価するシステムに使われているが、アクセントや発信者の動揺した状態を理解できない」
—— K8 NewsのTikTokコメントより
別のディスパッチャーは、AIがタイミングよく適切な判断を下せるかを見届けたいとして、クレイヘッド郡のシステムを注視していると述べた。
地元住民のNicholas SidesはAIに懐疑的としつつも、「使い方次第で役に立つツールになりえる」との見方を示した。
公共安全インフラへのAI導入が抱える構造的課題
今回の事例は、AIが通話量削減という定量的な成果を出せることを示している。ただし、緊急対応という文脈では誤動作のコストが非常に高い。事故現場に警察が来ない、あるいは呼吸困難の通報者が「オンライン申請」に誘導されるようなシナリオは、単なるUXの問題では済まない。
記事はThe Cooldown——環境負荷の低減や持続可能な技術を専門に扱うグリーンテックメディア——が執筆した点も背景として重要だ。同媒体の視点から、AIインフラが大量の電力と冷却水を消費する点も指摘されており、公共機関がAI導入を進める際はエネルギー面のコストも同時に考慮すべきだと論じている。技術的な有用性だけでなく、環境・社会的コストを含めたトータルでの評価を求める論調は、The Cooldownの報道姿勢を反映したものといえる。
また、記事中でAIエージェントとして名指しされている「Lezle」については、開発元・提供企業の詳細が元記事内では明示されていない。今後の続報や同郡の公式発表を待ちたいところだ。
詳細はAI cut Arkansas dispatchers' call load by 56%, but errors told crash callers to file reports onlineを参照していただきたい。