11月5日、OpenAIが「Setting a new standard for responsible AI infrastructure」と題した記事を公開した。AIデータセンター建設にあたってOpenAIが地域コミュニティと結ぶ約束事(コンパクト)と、業界全体への政策提言をまとめた2つの文書の公開を発表している。なかでも注目すべきは、行政官へのNDA締結を原則禁止し、電力・インフラコストをOpenAIが全額負担するという踏み込んだコミットメントだ。地域住民を蚊帳の外に置いてきたとされるデータセンター業界の慣行に、OpenAIが正面から異を唱えた内容となっている。
電力コスト全額負担・水使用量公開・NDA禁止——OpenAIが「コミュニティコンパクト」を発表
OpenAIは今回、2つの文書を公開した。
- **National Community Compact**:OpenAIが自社で所有・運営するキャンパスにおいて、地域コミュニティに対して果たす具体的な約束をまとめたもの
- **Compute Campus Policy Blueprint**:連邦・州・地方の政策立案者に向けた、業界全体に適用すべきルールの提言
背景にあるのは、大型データセンター建設に対する地域住民の反発だ。電力インフラの負担が既存の家庭に転嫁されること、水資源の大量消費、騒音、そして行政官へのNDA(秘密保持契約)強要といった問題が各地で批判を集めている。OpenAIは今年1月のStargate Community commitmentsでその対応を始め、ジョージア州とオハイオ州でより具体的なコミットメントを発表してきた。今回はその集大成となる位置づけだ。
コンパクトの核心:3つの約束
OpenAIが今後自社で所有・運営するすべてのキャンパスに適用する共通コミットメントは以下の3点だ。
1. 電力・インフラコストの全額自己負担
使用する電力と必要なインフラの費用をOpenAIが全額負担する。さらに、プロジェクトが遅延・縮小・中止になった場合に他の電力消費者を守るため、大規模な支出が始まる前に財政的保証を提供する。これは「データセンターが撤退したら地域の電気代が上がった」という事態を防ぐための措置だ。
2. 地域資源の保護と情報公開
各キャンパスで水利用計画を策定し、閉ループ冷却など低水使用の冷却方式を優先する。サイトレベルの水使用量と電力使用量を公開する。建設計画と独立した騒音調査を操業開始前および毎年公表する。そして行政官へのNDA締結を原則禁止とし、セキュリティ情報・営業秘密・競争上の機密情報に限った狭い範囲の保護のみを認める。
行政官へのNDA禁止は特に重要な点だ。これまでデータセンター業者が自治体担当者に契約内容を口外禁止にする事例が問題視されており、住民が税優遇の条件すら知れない状況が生まれていた。
3. 地域雇用・地元企業への機会提供
創出が見込まれる雇用数を公表し、労働組合・職業訓練機関と連携して地域住民が就職できるよう準備を整える。雇用と見習い制度の実績を毎年報告する。
具体例として、ジョージア州エフィンガム郡では住民の意見を反映し、郡内の全学生1万4000人を対象にした給食無償提供のための480万ドルの助成金を拠出。オハイオ州パイク郡では住民がチャイルドケアを優先課題として挙げたため、OpenAIとSB Energyが共同で600万ドルを拠出している。
政策提言:企業の自主的約束だけでは不十分
コンパクトはOpenAI自身の取り組みだが、同社はこれを業界標準にするよう政策立案者にも働きかけている。ポイントは以下のとおりだ。
- 州の公益事業委員会に対し、大口電力消費者にグリッドへの追加コストを負担させるよう求める
- データセンターが需要逼迫時に電力消費を削減できれば、系統接続を容易にする(オハイオ州パイク郡のプロジェクトでは、需要ピーク時に最大1,000メガワットの供給削減を認める契約を結んでいる)
- 議会に対し、送電網の増強加速とクリーン電力への税制優遇の拡充を求める
- 税優遇の条件を公開し、コミットメントが未達成の場合は優遇を回収できる仕組みを設ける
エンジニア目線での読みどころ
地域住民・政策立案者・エンジニアの三者すべてに関わる内容であり、技術的な観点からも見逃せない点がある。技術的な仕様より政策文書の色が強いが、インフラ側のエンジニアにとって興味深いのは、閉ループ冷却(closed-loop cooling)の優先採用を明示した点だ。従来の開放型冷却塔と比べ蒸発による水損失が少なく、乾燥地帯でのデータセンター展開に向いたアプローチだ。大規模AIインフラの冷却設計が地域の水資源問題と直結している現実を、OpenAIが公式文書で認めた意義は小さくない。
詳細はSetting a new standard for responsible AI infrastructureを参照していただきたい。