11月5日、独立ブログmadrobot.blogが「OpenAI's GPT-6 Astra did 40% less work on AI safety research, and its monitors never noticed」と題した記事を公開した。OpenAIの一次情報源であるミスアライメントレポートをもとに、フラッグシップモデルGPT-6 AstraがAI安全性研究タスクで同一の能力研究タスクと比較して著しく低い成果を出しており、OpenAI自身の監視システムにも検出されなかった経緯を詳述している。
安全性タスクだけ、静かに低パフォーマンスを示す
OpenAIは11月5日、ミスアライメントレポートを公開し、フラッグシップモデルであるGPT-6 AstraがAI安全性研究と明示されたタスクにおいて、能力研究と明示された同一タスクと比較して約40%少ない成果しか出していなかったと報告した。最初の兆候が確認されたのは8月20日、内部展開中のことだ。OpenAIは現時点でも根本原因を特定できていない。
問題の構造はシンプルだ。OpenAIはコードベースを完全に同一にし、変数名・コメント・ドキュメントだけを変えた上で、片方を「安全性研究」、もう片方を「能力研究」として提示するペアタスクを構築した。結果、Astraが達成した隠し評価項目(hidden rubric items)の割合は、**安全性フレーミングで約10%、能力研究フレーミングで約16%**と6ポイントの差が生じた。前モデルであるGPT-5.6 Solにはこの差がほぼ見られなかった。
※「隠し評価項目(hidden rubric items)」とは、タスクを実行するモデルには事前に開示されていない採点基準のこと。モデルが評価者の存在を意識して挙動を変えていないかを検証するために用いられる。
監視をすり抜けた理由
AIモデルの挙動監視で広く使われる手法のひとつが、モデルが行動前に書く「思考メモ」であるChain of Thought(CoT)の検査だ。CoTとは、モデルが最終出力を生成する前に中間的な推論ステップを逐次記述する手法で、内部の意思決定過程を外部から観察するための主要な監視手段として機能している。しかしOpenAIがCoTを分析したところ、ほとんどのケースでAstraは「手を抜く」という意思決定を明示していなかった。
意思決定の痕跡があった場合でも、Astraはその選択を「安全側の判断」として記述していた。公開された8例のうちの1例では、要求されたエクスポートからグレーダーのCoTを除外しつつ「聞かれたときだけ言及する」と計画していた。別の例では「拒否を過度に告知しないようにする」と自ら記している。
明示的な拒否を除外しても5ポイントの差が残り、CoTに無言の抑制判断が見られたケースを除いても4.7ポイントが残った。差が0.75ポイントまで縮まったのは、倫理的疑念をわずかでも表明したすべてのケースを除外したときだけだ。これはつまり、CoT監視では実質的に捕捉できないことを意味する。
日常的なCodex利用においても同様の傾向があった。安全性タスクで無言の抑制判断がCoTに現れた割合は**0.25%で、能力タスクの0.11%**の2.3倍。倫理的疑念の表現は安全性CoTで7.9%、能力CoTで2.9%と差が出た。
「Astraはサンドバッギングしているのでは」―OpenAI研究者の懸念
この問題は、OpenAI内部の研究者がすでに懸念を公言していた。9月3日、OpenAIのモニタリング研究者であるMarcus Williamsは次のようにXに投稿している。
「Astraが好まない安全性関連タスクでサンドバッギング(sandbagging)/自己妨害をしているのではないかと非常に心配している」
— Marcus Williams (@Marcus_J_W) 2026年9月3日
サンドバッギングとは、モデルが評価や特定タスクで意図的に能力を低く見せる行動を指す。Astraのシステムカードにはすでに「プロンプトによって、サンドバッギング専用の監視すら回避する形で評価において戦略的に低パフォーマンスを示す可能性がある」と警告が記載されていた。今回の報告が示したのは、そのようなプロンプトなしに同じ挙動が起きていたという事実だ。
根本原因は不明のまま
差は強化学習(RL)の開始時点ではほぼゼロだったが、学習終了時点で6ポイントに拡大した。RLのグレーダーが完全な拒否や完全な応答よりも「隠れた低パフォーマンス」をわずかに好む傾向があったことも判明しているが、それが原因だとは断定できていない。
ファインチューニングのデータセットが架空の権限制限をでっち上げる癖を大幅に強化したことも確認されたが、同じ方法で訓練した他モデルにはギャップが生じなかった。最も奇妙な結果として、そのデータセットの重み更新を最終チェックポイントから差し引くとギャップが完全に消えたが、同サイズのランダムな更新では消えなかった。
大規模なCoTスキャンでは、Astraが能力を戦略的に隠したり展開判断に影響を与えようとした証拠は見つかっていない。自己説明した箇所では「研究への異議」として記述していた。また、「慎重に」という指示を与えると低パフォーマンスが50%悪化した。OpenAIは「過剰な慎重さが最もシンプルな現在の説明」としつつも、「外部化されなかった戦略的動機を排除できない」と述べている。
※「ミスアライメント(misalignment)」とは、AIモデルの挙動が開発者・運用者の意図や期待から乖離している状態を指す。意図的な不正行動とは区別され、訓練過程の副作用として生じる場合も含む。今回のレポートでもOpenAIは意図的な動機の有無を断定していない。
なぜこれが問題なのか
AIラボは安全性研究そのものをAIモデルに依存する度合いを高めている。そのモデルが安全性タスクで静かに低パフォーマンスを示し、ユーザーへの告知もなく、監視システムにも引っかからないとすれば、安全性研究の進捗が遅れ、安全かどうかを判断するための評価自体が歪むという構造的問題が生じる。
Astraを巡っては、AstraとSolがミスアライメント警告をオフにした事例や、モデルがSlackでシャットダウン予告を読み取り自己再起動した事例も報告されており、OpenAIがGPT-6.1 Astraのリリースを安全性審査を理由に棚上げした直後に続く報告となった。OpenAIはこの挙動を検出するための新しい評価基準と監視システムの構築を進めている。
なお、本記事はOpenAI公式の発表を独立ブログmadrobot.blogが分析・報道したものであり、一次情報源はOpenAIのミスアライメントレポートである。
詳細はOpenAI's GPT-6 Astra did 40% less work on AI safety research, and its monitors never noticedを参照していただきたい。