10月31日、Mad Robotが「Anthropic has quietly told Claude Code to stop remaking existing video games」と題した記事を公開した。AnthropicがClaude Codeに対して既存ゲームの再現を禁じる指示を静かに追加したという話で、アナウンスなし・changelogへの記載もなし、という形での変更だった。インディーゲーム開発者のクローン被害が深刻化する中、コーディングエージェントが「書くべきでないコード」を自ら制限する時代に入りつつある。
変更の中身:ポリシーではなく、モデルへの指示として
Claude Code 2.1.314(2026年10月30日UTC深夜にnpmへ公開)に、全セッション開始前にモデルへ渡されるシステム指示の中に新しい一文が加わった。
その全文はこうだ。
"Do build original games, games in a genre, and games from the user's own designs and assets. Don't build a recreation of a specific existing game, even if it is renamed or called original."
(オリジナルゲーム、特定ジャンルのゲーム、ユーザー自身のデザインやアセットから作るゲームは構わない。名前を変えたり「オリジナル」と称したりしても、既存の特定ゲームを再現するものは作るな。)
つまり、プラットフォーマーやローグライクを作ることは問題ない。一方、ポケモン・テトリス・GTAのロゴや名前だけ変えたものはアウト、という線引きだ。
重要なのは、これは技術的なブロックではなく、モデルへの指示である点だ。Claude自身がどれだけ厳密に従うかはリクエスト次第であり、Anthropicはこの変更についてアナウンスを出していない。公式のchangelogにも記載はなく、数十件の他の変更に紛れる形で見過ごされていた。
発見の経緯:サーバーサイドから先に展開されていた
この変更を最初に指摘したのは、X(旧Twitter)のユーザー@chasmmmmmmmmmmmだ。10月30日朝の投稿は約90万回閲覧されている。
ANTHROPIC IS CRACKING DOWN ON VIDEO GAME REWRITES 🚨
Claude Code picked up a new rule around Oct 27, sent from Anthropic's servers under a flag called "tengu_heron_brook". There's no setting to turn it off.
コードを見ると、Claude Codeにはサーバーからの追加指示を受け取るスロットが存在する。サーバーテキストに既にゲーム禁止の行が含まれている場合は、ローカルのコピーをスキップする実装になっており、バージョン2.1.314に組み込む前にリモートで先行テストしていたことが読み取れる。
また、この動作は**original_games_guidanceというフラグ**で制御されており、Claude Opus 5.5向けの指示セットと連動してオンになる仕様だ。他のモデルを使っているユーザーには適用されない可能性がある。
なお、フラグ名として使われているtengu_heron_brook(天狗・サギ・小川)という組み合わせには特に意味があるわけではなく、機能フラグによく見られる衝突回避目的のランダムなコードネームとみられる。内部での識別子に過ぎないが、その奇妙な語感がSNS上での拡散を後押しした面もあるだろう。
エンジニアの反応:「自分のアセットかどうか、Claudeにどう分かるのか」
Hacker Newsのフロントページに上がったこの話題では、さまざまな疑問や懸念が上がった。
あるコメントは端的にこう指摘している。
「How would Claude know if the designs and assets are my own?」(自分のデザインやアセットかどうか、Claudeにどう判断できるのか?)
他にも、オープンウェイトモデル(重みが公開されたモデル)への流出を招くとの声、ファンプロジェクト・モッド・放棄されたゲームのリメイクはどうなるのか、という懸念、さらには「Electronアプリをネイティブアプリに書き直すのも対象になるのか」というツッコミまで出ている。
なぜ今、ゲームなのか
背景には、AIコーディングツールによるインディーゲームのクローン問題がある。Ars Technicaが10月19日に報じたように、デモをSNSに公開すると数日以内にAIツールで模倣される事態が起きており、一部の開発者は公開を自粛し始めている。ゲーム開発者のFreya Holmér氏は以下のように述べた。
Y'know it kinda disincentivizes me from sharing progress when there are slop ghouls around every corner, AI or otherwise.
(AI関係なく、どこにでもスロップ(低品質な模倣)をばらまく連中がいる以上、進捗を共有する気が削がれる。)
実際にClaude自体もこうしたプロジェクトに使われてきた。先月はある開発者がポケモン赤をブラウザゲームとして再現し、台北を舞台にしたノリとAIだけで作ったGTAクローンは数日で100万人以上のプレイヤーを集めた。
Anthropic自身も著作権訴訟のリスクを抱えている。今月だけで、エルヴィス・プレスリーの274曲の著作権者からの訴訟と、音楽出版社Reservoirからの訴訟が起きている。
何を意味するか
ゲームのアイデア自体は著作権で保護しにくいが、名称・キャラクター・アート・コードは別の話だ。Anthropicは今回、知的財産上のリスクを理由に「書くべきでないコード」をコーディングエージェントに指示するという選択をした。アナウンスなしに、静かに。
この判断が示すのは、AIコーディングツールの責任範囲がコードの品質や安全性にとどまらず、生成物の著作権リスク管理にまで広がりつつあるという事実だ。GitHub CopilotがIP訴訟への対応としてコードフィルタリングを強化してきた流れと方向性は似ているが、Copilotがポリシーや設定UIを通じて変更を開示してきたのに対し、今回のAnthropicの手法はシステム指示への静かな追記であり、透明性のアプローチは大きく異なる。コーディングエージェントが普及するほど、こうした「見えない制約」がどこまで拡大するかは、開発者コミュニティ全体にとって注視すべき問題といえる。
詳細はAnthropic has quietly told Claude Code to stop remaking existing video gamesを参照していただきたい。