10月30日、madrobot.blogが「Proton's CEO scraps the AI 're-interviews' that could have cost staff their jobs」と題した記事を公開した。この記事では、Protonのアンディ・イェンCEOがAI活用度を問う「再面接」計画を撤回した経緯と、その背景にある組織的摩擦について詳しく紹介されている。
「解雇につながる」と社員が受け取った再面接
Proton MailやProton VPNを運営するスイスの企業Protonは、10月26日(月)に全社的な「AI再面接」の実施を社内メールで通知した。内容は、各社員が業務においてAIをどのように活用しているかを問うというものだ。
メールには「これらの再面接は重大な結果をもたらす(consequential)」と記されており、社員たちは雇用の継続がその回答にかかっていると受け取った。
Slackで、あるシニア社員が「AIについていけていない社員を見つけてトレーニングすべきでは」と提案したところ、イェンCEOはこう返答した。「率直に言う。誰が遅れているかはすでに大体わかっている。もし彼らを諦めているなら、このプロセスすら設けない」。
「負け犬思考だ」——セキュリティ軽視と受け取られたSlack発言
今回の騒動で最も注目を集めたのは、8月末にProtonのセキュリティSlackチャンネルに投稿されたイェンCEOの発言だ。ある社員がAIで書いたコードを本番環境に投入する前に、少なくとも数日間のペネトレーションテスト(侵入テスト)を行うべきと提言したのに対し、イェンは以下のように答えた。
それはくだらない、負け犬思考だ(loser thinking)。速くてかつセキュアであることは当然両立できる。どうすれば遅くなるかを考えるのをやめて、どうすれば速くなるかに集中しろ。
— アンディ・イェン、ProtonのSlackにて(404 Media経由)
さらにイェンは「コードを丁寧に手作りするのをやめ、もっとAIを使え」と述べ、同じチャンネルで(※CEOのSlack発言として)「今年がエンジニアを採用する最後の年になる」とも書いた。
CTO(最高技術責任者)のバート・バトラーが9月にSlackに投稿した「AIマニフェスト」にも「あなたのこれまでの仕事はもうなくなった」と記され、コードレビューの大半をAIが担う体制を目指すとしていた。バトラーはある会議で「10月時点でProtonのコードの90%はAIが書いたもの」と発言。社員によれば、その多くはAnthropicのClaudeが使われているという。
CEOが撤回——ただし「方向性は変わらない」
404 Mediaが一連の内情を報道した翌日の10月30日(金)、イェンは全社ミーティング(all-hands)で再面接の中止を発表した。取締役会も「状況を注視している」とし、イェン自身はこう述べた。
コミュニケーションに私個人の失敗があったことを認める。多くのことが、もっと違う形で伝えられるべきだった。
— アンディ・イェン、全社ミーティングにて(404 Media経由)
ただし、AI推進の方針自体は撤回していない。「再面接はすでにその目的を果たした——社員がAIについて話し合うきっかけになった」と述べ、来月の組織再編でチーム間の人員移動は行うが「AIを理由とした解雇はない」と約束した。バトラーも「我々は失敗した、それはわかっている」と認めた。
社員の反応は割れている。ある社員は「再面接で測ろうとしていた内容が、今後は人事評価に組み込まれるだけだ」と指摘し、別の社員は404 Mediaに「今起きていることは、すべてダメージコントロールに見える」と語った。
プライバシー企業としての矛盾
Protonのユーザーが怒りを向けたのは社員だけではない。一連の報道後、ユーザーはSNSでイェンの辞任を求め、イェンがr/ProtonMailサブレディットに投稿した返答は1,200回以上ダウンボートされた。有料プランの解約を表明するユーザーも続出した。
Protonは2014年にCERN研究者らによってジュネーブで設立され、エンドツーエンド暗号化を軸にGoogleやMicrosoftといったBigTechへの対抗軸として成長してきた。メール・VPN・パスワードマネージャー・クラウドストレージといったサービスをスイスのプライバシー法のもとで提供し、「監視資本主義に依存しないビジネスモデル」を掲げる点がユーザーから支持される最大の理由だ。その信頼の根幹は、コードの品質とセキュリティへの慎重な姿勢にある。
だからこそ、「AIが書いたコードのペネトレーションテストは負け犬思考」という発言はユーザーの不安を直撃した。「AIが書いたコードを誰がチェックするのか」——今後ユーザーが問い続けるのはその一点だ。Protonがプライバシー企業としての市場ポジションを守り続けるためには、開発速度の追求とセキュリティ品質の担保をどう両立させるかを、言葉ではなく運用で示す必要がある。
詳細はProton's CEO scraps the AI 're-interviews' that could have cost staff their jobsを参照していただきたい。