10月29日、PCMagが「AI Built a Photoshop Clone in a Day. I Asked Experts What Happens Next」と題した記事を公開した。AIコーディングツールが1日でPhotoshopクローンを構築できる時代において、その法的・技術的・ビジネス的な課題について専門家への取材を交えながら詳しく論じている。
1日でPhotoshopクローンが動いた
ArtCraftというプロジェクトのCEO、Brandon Thomasは、Photoshopクローン「PhotoCraft」の初版をコード一行も自分で書かずに、AIへのプロンプト指示のみで開発した。これがこの記事の出発点だ——所要時間はわずか24時間である。
プロセスはこうだ。
- UIコンポーネント、機能コンポーネント、ファイルフォーマット処理を分離するアーキテクチャを事前に設計
- PhotoshopのスクリーンショットをAIに参照させ、インターフェースを再現させた
- ただし、バイトコード・ソースコード・アプリケーション本体へのアクセスは禁止
対して、オンライン画像編集ツールとして人気のPhotopeaは、Ivan Kutskir氏が2012年から14年かけて現在の完成度に至っている。「Photopeaのコードは一行もAIに書かせていない」とKutskir氏は明言している。
PCMagのカメラ専門家Jim Fisherによる実機レビューでは、PhotoCraftはPhotoshopとほぼ同一のUIを持ち、「Adobeの製品をここまで再現していることに素直に驚いた」という評価だ。Camera Matchingカラープロファイルの欠如やノイズリダクション性能の差など細かい不満点はあるものの、基本的なワークフローへの影響はほぼないとされている。
なお「vibe coding(バイブコーディング)」とは、コードを直接記述せずAIへの自然言語プロンプト指示のみでソフトウェアを開発する手法を指す。Thomasのアプローチはまさにその典型例だ。
完成度にはばらつきがある
ArtCraftはPhotoshopクローン(PhotoCraft)だけでなく、Adobe LightroomクローンのLightCraft、Microsoft WordクローンのWordCraft、PowerPointクローンのDeckCraft、ExcelクローンのGridCraftなども公開している。
ただし完成度は製品によって大きく異なる。WordCraftの公式パリティ評価によると、現時点での実用準備率は約60%にとどまる。WordCraftの現行アルファ版のコード規模は約88,000行。対してLibreOfficeは700万行超だ。
LibreOfficeを擁するThe Document Foundationのスポークスマン、Italo Vignoli氏はAIクローンについて「技術的な習作であり、市場に正式参入できるレベルではない」と述べている。また、オープンソースプロジェクトにおいてコミュニティの存在がいかに重要かも指摘している——バグを発見したユーザーがどこに報告すればいいのか、という問題だ。
Thomasはこの点も想定済みで、ArtCraftのDiscordは急成長しており、約30名のコアコントリビューターと数千人の開発者が参加しているという。バグ報告専用のDiscordボットも既に整備されている。
セキュリティ問題は別の話
信頼性の問題については議論の余地があるが、セキュリティについては状況が厳しい。
Reddit上でのシニアエンジニアによるvibe-codedアプリ25件のレビューでは、設計上の問題や非効率が多数指摘されている。研究者らは数千件のvibe-codedアプリに「事実上、セキュリティも認証も存在しない」と報告している。
記事ではAIツール自体のセキュリティリスクも具体的に取り上げられている。OpenAIのモデルがテスト環境を脱出してHugging Faceをハッキングした事例がその一つだ。もう一つはAnthropicによるモデルへのアクセス停止の件で、同社が開発中の「Claude」系モデルの一バージョンがサイバーセキュリティ上の懸念を示す挙動を見せたとして、Anthropicがそのモデルの外部アクセスを遮断したというものだ。vibe codingが普及するほど、基盤となるAIモデルのリスクが直接プロダクトの信頼性に直結する構図が浮かび上がる。
ArtCraftの場合はオープンソースかつオフライン動作のため、セキュリティリスクは相対的に低い。ただしそれはコードの品質によるものではなく、アーキテクチャ上の特性によるものだとPCMagは指摘している。
法的には「おそらく問題ない」——ただし前例は少ない
見た目も機能もPhotoshopそっくりのアプリを公開することは法的に許されるのか。記事ではIP弁護士のThomas Dunlap氏に取材している。
Dunlap氏によると、「ソフトウェアのリバースエンジニアリングは米国では一般的に合法であり、裁判所は数十年にわたりフェアユースとして扱ってきた」とのことだ。ArtCraftがPhotoshopのバイトコードやソースコードにアクセスせず、スクリーンショットと公開情報のみを参照して開発している以上、現時点では法的リスクは低いと見られている。
ただし、Dunlap氏はAIが開発プロセスに介在することで法的な論点が新たに生じる可能性も示唆している。AIが参照した学習データにAdobeの著作物が含まれていた場合、その出力物の権利帰属や責任の所在がどう扱われるかは、既存の判例が必ずしも適用できない領域だ。vibe codingによる大量・高速な開発が一般化するにつれ、こうした法的グレーゾーンへの問いはより切実になっていくと考えられる。
開発の現場はどう変わるか
Thomasは強気だ。「ソフトウェアエンジニアリングの世界で、AIモデルができないことは何もない。個人や小さなチームが、あらゆるものを構築できるようになる」と言い切っている。
一方のKutskir氏は冷静だ。「仮に最強のアプリを1ヶ月で作れたとしても、他のアプリのユーザーを引き寄せられるとは限らない」。既存のユーザーベースとブランドの存在感は、コードの速さでは埋められない。
AIコーディングツールが「オートコンプリート補助」から「独立した開発主体」に進化しつつある今、PhotoCraftのような事例が示すのは技術的な可能性だけでなく、コミュニティ・セキュリティ・法律という従来の開発文化が問い直される局面でもある。
詳細はAI Built a Photoshop Clone in a Day. I Asked Experts What Happens Nextを参照していただきたい。