10月30日、Scientific Americanが「An exclusive conversation with the developer of REA, the viral AI reverse engineering tool」と題した記事を公開した。AIを活用してあらゆるソフトウェアを自律的に解析・再構成するツール「REA(Reverse Engineer Anything)」の開発者への独占インタビューを伝える内容だ。
GitHubのスター数は40万超。専門家でなければ手も足も出なかったリバースエンジニアリングという作業が、「AIとトークン(利用コスト)さえあれば誰でもできる」時代になりつつある——法律家はその変化を「著作権とトレードシークレット法への危機」と表現する。
GitHubで40万スター超、「REA」とは何か
「Morluto」という偽名で活動するソフトウェアエンジニアが開発したREA(Reverse Engineer Anything)は、AIエージェントにソフトウェアを自律的に解析・再構成させるツールだ。GitHub上のスター数は40万を超え、そのDiscordコミュニティではプリンターやテレビの改造事例が活発に共有されている。
仕組みの核心はシンプルだ。コンパイル済みのバイナリ(機械語)を人間が読めるコードに戻す「デコンパイル」という作業がある。従来はNSA(米国家安全保障局)が開発したオープンソースツールGhidraを使って専門家が手作業で行うものだった。REAはGhidraや他のデコンパイラをAIエージェントがオーケストレーション(自律的に組み合わせて操作)できるパイプラインを提供することで、この工程を大幅に自動化する。
「リバースエンジニアリングはパターンマッチングに近い。AIは推論とパターンマッチングが極めて得意だ」——Morluto
Morlutoがこの分野に興味を持ったきっかけはゲームのデコンパイルだった。ファンがビデオゲームのコードを一から再構築するプロジェクトは、AI以前は数年単位の作業だった。REAはその時間軸を劇的に短縮しうる。
「専門家が数カ月かけた作業」がトークン次第で動く
ジョージア大学でリバースエンジニアリングを研究するZion Basque助教授は、2026年以前はデコンパイルは一握りの専門家の領域だったと述べる。彼の研究グループはREAが対応するデコンパイラの一つKunaを開発している。「この技術の限界がどこにあるか、まだ見えていない」と彼は言う。
コーネルテックの法学教授James Grimmelmannは、以前なら専門家が数カ月かかっていた作業が今や「トークン(AIの利用コスト)さえあれば、ほぼどんなソフトウェアにも解き放てる」時代になったと指摘する。著作権がプログラムのコードを保護しても、そのコードが実装するアルゴリズムやアイデアは保護されない——これは米国著作権法のみならず、多くの国で共通する原則だ。「これはトレードシークレットと著作権法にとって危機をもたらすことになる」と彼は警告する。
実際に使った人間の声もある。コーネルテックに在籍するオープンソース開発者Joey Castilloは、中国・深センで購入したスマートリングを改造しようとした際に初めてAIによるリバースエンジニアリングを体験した。
「Claudeが動くのを見ているだけで多くを学んだ」——Joey Castillo
「このオブジェクトを買ったのに、ゲートキーパーされている。今こそ自分が望む動作をさせる力を持つ時だ」
10月初頭にはAnthropicの大規模言語モデルClaude Opus 5.5が、Adobeのデスクトップアプリ群(Creative Cloud)のオープンソースクローンを開発者が構築するのを支援したという事例も元記事では紹介されている。
「知識なき改造」が招くリスク——AIは「すべきでない」を判断できない
Castillo自身も懸念を正直に述べている。AIはセキュリティシステムやDRM(デジタル著作権管理)、デバイスのファームウェアを解析することにも長けており、十分な知識を持たないユーザーが機器を改造するリスクが生じる。
「ファームウェアをバイブコーディング(AIに意図や雰囲気だけを伝えてコードを書かせること。2025年頃から広まった開発スタイル)した結果、バッテリーが飛行中に発火するまで、これは楽しいゲームだ」——Castillo
AIモデルは「yes, and(やってみよう)」はできるが「no, but(これはすべきでない)」はできない——という彼の指摘は技術的な核心を突いている。専門家がリバースエンジニアリングを通じて培う「どの変更をすべきでないか」という判断が、現状のAIには欠けているという問題だ。
なお、DRMの回避や著作権保護されたソフトウェアの解析は、各国の法律(米国ではDMCA、日本では不正競争防止法等)によって制限される場合があり、本ツールの利用にあたっては法的確認が必要だ。
OpenAI・AnthropicによるブロックとMorlutoの反応
ソーシャルメディア上では、OpenAIとAnthropicがREAの使用をバンまたはブロックしたという報告が広まった(X上の報告、Reddit上の報告)。OpenAIの研究者はXへの返信で、このブロックは「ほぼ偶発的なものだった」と述べている。元記事はこれらの報告を紹介しつつも、各社からの公式声明は得られていないと記している。
Morluto自身はそれを問題視していない。「この騒動がプロジェクトへの注目をさらに集めるだけだ」と述べる。
Castilloはすでに回避策を持っている。中国のZ.aiが開発したオープンウェイトモデル(重みが公開されており、ローカル環境で動かせるモデル)GLM-5.3をローカルで実行することだ。一度ダウンロードすれば、外部サービスの利用制限を受けない。
「AnthropicとOpenAIが私のアカウントをバンするなら、GLM-5.3を立ち上げてスマートリングをリバースエンジニアリングする。それが本当にかっこいいと思うから」——Castillo
ソフトウェアの「壁」を守る側と、それを解体しようとするユーザーの力関係は、AIによって変わりつつある。Morlutoの「コードが魔法なら、私たちは皆それができる」という言葉は、REAが象徴する時代の変化を端的に示す。
詳細はAn exclusive conversation with the developer of REA, the viral AI reverse engineering toolを参照していただきたい。