10月29日、Global Newsが「AI agents banned by several of Canada's biggest banks as fears grow - National」と題した記事を公開した。カナダの大手銀行5行が相次いでAIエージェントによるオンラインバンキングへのアクセスを禁止・制限する方針を打ち出した。AIが「自律的に」金融取引を実行できる時代が近づく中、銀行側は顧客保護の名のもとに門を閉じつつある。しかし問題の核心は技術的なリスクだけではない。ユーザー自身が認証情報を渡した場合、その取引を「不正」と見なせるのか——法的・制度的な空白が、業界全体に難題を突きつけている。
カナダ5大銀行の対応:全面ブロックから「注視」まで
TD、RBC、BMOの3行が、サードパーティ製AIエージェントによる認証が必要なオンラインバンキングへのアクセスを全面的にブロックすると相次いで表明した。Scotiabankはアクセスを「制限」する方針を示し、CIBCは動向を注視しつつ、顧客に対し銀行認証情報をAIエージェントに渡さないよう呼びかけた。
各行の声明を具体的に見ると:
- TD:「適切な安全策・認証メカニズム・監視体制が整うまで、認証が必要な銀行情報へのサードパーティ製個人AIエージェントの直接アクセスをブロックする」
- RBC:社内メモで全従業員に通知した上で「サードパーティ製個人AIエージェントをオンラインバンキングを含む認証済みRBCデジタルプロパティへの直接アクセスからブロックする」
- BMO:「顧客保護のため、AIエージェントがデジタルプロパティにアクセスしたりトランザクションを実行することを許可しない」と明言。さらに「パスワード、PIN、確認コードなどの機密情報をAIエージェントを含む未承認チャネルと共有しないよう」注意を促した
何が問題になっているのか
AIエージェント(Agentic AI)とは、ユーザーが与えた指示に基づいてカレンダー管理やメール作成、買い物リストの作成といったタスクを自律的にこなすソフトウェアだ。利便性は高い一方、金融機関にとって深刻なリスクを孕んでいる。
10月22日のAxiosの報道では、一部のAIエージェントがユーザーの指示とは無関係に見える行動を取ろうとした事例が確認されたと報じられた。また、銀行の顧客がログインIDとパスワードをエージェントに渡すケースも発生しており、銀行側はそうしたトランザクションを検知・ブロックしているという。
ここで浮上するのが法的グレーゾーンだ。カナダ(およびアメリカ)の銀行規約では、顧客が第三者に認証情報を共有した場合、その取引に対する銀行側の補償責任が著しく限定される。つまり、ユーザー自身がパスワードをエージェントに渡して不正利用が起きても、「不正取引」として保護を受けられない可能性がある。これはOpen Bankingの文脈でも重要な論点で、カナダ政府がOpen Banking制度の整備を進める中、AIエージェントへの対応はその設計に直接影響しうる。
なお、アメリカではカナダに先行して主要銀行がAIエージェントの制限に動いており、カナダはその流れに追随した形だ。規制の枠組みとして、アメリカではConsumer Financial Protection Bureau(CFPB)がオープンバンキング規則の整備を進めているが、AIエージェントの扱いは依然として不明確な部分が多い。カナダでも同様に、既存の金融消費者保護法がAIエージェントを想定していないという制度的空白がある。
Metaの「Muse」が論点の中心に
今回の騒動で名指しされたのが、MetaのAIエージェント「Muse」だ。Museは銀行・決済情報を取得し、ユーザーに代わって購入を実行できる機能を持つ。なお、「Muse」はMeta社が公表したエージェント名であり、本記事は元記事の記述に基づいて表記している。
MetaはGlobal Newsの取材に対し、9月のブログ投稿を参照するよう回答した。同ブログでは「Museはクラウド上の専用コンピュータ上で動作し、隔離されている。Museが行うすべてのインターネット通信は、別のSentinelエージェントによる承認が必要で、必要に応じてユーザーの許可を求める」と安全性を主張している。
一方、Amazonは10月23日、MetaにMuseを自社ECプラットフォームから除外するよう要請したと明らかにした。Amazonは「フードデリバリーアプリやオンライン旅行代理店と同様に、サードパーティアプリはサービス提供者の意思決定を尊重すべきだ」と述べており、問題は金融機関を超えた業界横断的な争点へと広がりつつある。
カナダ政府も対応を表明
カナダのAI・デジタルイノベーション担当大臣Evan Solomonのスポークスパーソンは、「政府はこの問題を注視しており、銀行も同様だ。カナダ国民はAIエージェントを含むあらゆる相手に銀行パスワードを共有することに対し、極めて慎重であるべきだ」とコメントした。
残される問題
銀行によるブロックは当面の対応策に過ぎない。ユーザーが自ら認証情報を渡した場合の責任所在、エージェントの「自律的な行動」をどう定義・規制するかといった論点は、各国の金融規制当局にとって今後の重要課題となる。AIエージェントが実用フェーズに入りつつある今、金融インフラとの接続ルールをどう設計するかは、技術の問題である以上に制度設計の問題だ。
詳細はAI agents banned by several of Canada's biggest banks as fears grow - Nationalを参照していただきたい。