10月26日、IBTimes SGが「ChatGPT Remembers Your Feelings, Beliefs and Intentions: Researchers Warn of Memory Privacy Risks」と題した記事を公開した。この記事では、ChatGPTのメモリ機能がユーザーの感情・信念・意図といった心理的プロファイルを無自覚のうちに蓄積しているというプライバシーリスクについて詳しく紹介されている。
52%のメモリエントリが「心理的情報」を含む
Max Planck研究所などに所属する研究者Abhisek Dashらが発表した論文「The Algorithmic Self-Portrait: Deconstructing Memory in ChatGPT」(ACM Web Conference 2026収録)は、80人のChatGPTユーザーから収集した2,050件のメモリエントリを分析した。
結果は以下の通りだ:
- 96% のエントリは、ユーザーが明示的に「覚えておいて」と指示していないにもかかわらず生成されていた
- 52% のエントリに、ユーザーの欲求・意図・感情・信念といった心理的情報が含まれていた
- 28% のエントリが、EUのGDPR(一般データ保護規則)が対象とする個人データを含んでいた
- 84% のエントリは、ユーザーとの会話から直接導かれた情報だった
「96%が明示的指示なし」という数字には補足が必要だ。これは「ユーザーがメモリ機能の存在を知らなかった」や「OpenAIがプライバシーポリシーに違反した」を意味するわけではない。あくまで、研究者がエントリを解析した際に明示的な記憶コマンドを検出できなかったという意味である。※この補足は編集部による注記であり、元記事に同一表現があるわけではない。
「Nirvanaに似たバンドを教えて」が「ニルヴァーナが好き」になる
研究の核心にある問題は、ユーザーの質問がモデルによって推論・断定へと変換される点だ。
論文中に示された具体例がわかりやすい。あるユーザーが「Nirvanaに似たバンドを教えて」と尋ねると、ChatGPTはその後のメモリとして「このユーザーはNirvanaが好き」という情報を保存していた。ユーザーは好みを明言していないにもかかわらず、だ。
質問は必ずしも確立された嗜好や信念を表すわけではない。医療症状を検索するのは、本人ではなく知人のためかもしれない。音楽の推薦を求めたからといって、永続的な音楽的嗜好が確定するわけではない。しかしメモリ機能がその推論を次の会話以降に持ち越すと、誤った前提が蓄積し、それが回答に影響し続けるリスクが生じる。
「もう境界線がない」——研究者の警告
Dashは米メディア Gizmodo の取材に対し、プライバシーリスクの本質を「もう境界線がない(there is no boundary anymore)」と表現した。
特定用途向けサービスとは異なり、ChatGPTは仕事・人間関係・健康・財務・信条といった、人生のあらゆる側面に関する情報を受け取り得る。メモリがその文脈を会話をまたいで引き継ぐことで、ある目的で共有した情報が別の文脈での回答に影響する構造になっている。
さらにDashは、ユーザーの信念に適応するシステムが偏見の強化や政治的分極化に寄与する可能性も指摘している。ただし論文はそうした実害が現実に発生したことを立証したわけではなく、将来的なリスクとして問題提起するにとどまっている。
研究者が提案する「Attribution Shield」
研究チームはこの問題への対策として、Attribution Shieldというアプローチを提案している。これは潜在的にセンシティブな推論を識別し、不必要に個人情報が露出されるリスクを低減するよう、クエリの言い換え方をユーザーに示すという研究提案レベルの概念だ。現時点でChatGPTに組み込まれた機能ではなく、ユーザーが即座に利用できるものではない。
また、OpenAIは2026年6月4日にChatGPTのメモリシステムをアップデートし、会話間での情報保持・更新の仕組みを改善しているとされる(※この日付・内容は元記事に記載があるが、編集部でも独立して確認できていない。OpenAI公式のメモリ関連情報も参照されたい)。今回の研究はその更新前のデータに基づくため、アップデートによってプライバシー上の懸念がどの程度改善されたかは不明だ。
自分のメモリを確認・削除する方法
ChatGPTでは 設定(Settings)→ パーソナライゼーション(Personalization)→ メモリ(Memory) からメモリの内容を確認・修正・削除できる(アカウントや機能展開状況によって利用可能なオプションは異なる)。
また、メモリを作成・更新しない「Temporary Chat(一時的なチャット)」モードも利用できる。
注意が必要なのは、メモリをオフにすることと、既に保存された情報を削除することは別物である点だ。OpenAIのガイダンスによれば、保存済みのメモリを完全に消去するには、該当するメモリエントリの削除に加えて、元の会話やそれを含む他のソースも削除する必要があるとされている。
研究の本質的な問いは「ChatGPTがどれだけ記憶するか」ではない。人生のさまざまな側面に関する会話が、ユーザー自身が明示的に確認していない結論を含む形で永続的な情報として蓄積されていくこと、そしてユーザーがそのプロセスを実際にどこまで把握・制御できるか、という点にある。
詳細はChatGPT Remembers Your Feelings, Beliefs and Intentions: Researchers Warn of Memory Privacy Risksを参照していただきたい。